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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第15話:初代の追憶2

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「・・・・ど・・・の・・・・ジ・・オ・・・殿!!
セルジオ殿!!!セルジオ!!!
目を覚ませ!!!目を覚ますのだ!!!セルジオ!!!!」

セルジオはいつの間にか透き通る無色の広い空間にうつ伏せに倒れていた。

「うっぅつ・・・・どなただ?私の名を呼ぶのは・・・・」

うつ伏せのまま顔を上げる。

「セルジオ!!!気が付いたか!!!
起き上がれ!早く起き上がるのだ!!!」

顔を上げた先に重装備のよろいに金糸で縁取られた蒼いマントをまとった初代セルジオの姿があった。

「初代・・・・様?・・・・ここは・・・」

差し出された初代セルジオの手を取り、セルジオは膝をつき身体を起こす。

「ここは、時の狭間はざまだ!
恐らく・・・・水の精霊ウンディーネの計らいであろうな・・・・
あれを見よ!」

初代セルジオが顔を向けた先に氷の壁の様な透き通る大きなへだたりがある。
その先にバルド、オスカーとアロイスの姿が見えた。3人がこちら側を凝視ぎょうししているのが分かる。

「・・・・何が・・・・起こっているのですか?」

セルジオは初代セルジオに問いかけた。

「ここは・・・・この場所は我の・・・・」

そこまで言うと初代セルジオはは申し訳なさそうな顔をセルジオへ向ける。
セルジオは自身と同じ深く青い瞳を持つ初代をじっと見つめる。初代はセルジオの様子に哀しそうな目をした。

「そなたには隠し立てをしても仕方がないな・・・・
この場所は、我の悔恨かいこんの場所なのだ。
エリオスとここで言い争いをした・・・・いや・・・・違うな。
エリオスの忠告を・・・・エリオスの話に耳を傾けなかったのだ。
己の考えが全てだと・・・・己の考えが全て正しいと過信していたのだ」

初代は立ち上がったセルジオの右後ろに目をやった。セルジオは初代の目線を追う。そこにはエリオスがうつ伏せに横たわっていた。

「!!!エリオスッ!!」

セルジオは大声でエリオスの名を呼ぶと横たわるエリオスに駆け寄った。だが、足元がフワフワとしてなかなか近づけない。

ガチャッ!

見かねた初代は重装備の鎧の膝をつき、セルジオを抱き上げた。

「時の狭間はざまは、今を生きる者には動きにくいのだ。
気を抜くとどこぞへ飛ばされる。助けがくるまでこのままでいろ!!
エリオス!エリオス!目覚めよ!」

初代はセルジオを右腕で抱きかかえたままエリオスに近づき、左手で肩をらす。

「エリオス!!!目覚めよ!!!
そなた、セルジオ殿の守護の騎士であろう?
いかなる時もセルジオ殿を守ると決めたのではないのか?
目を覚ませ、エリオス!」

初代はうつ伏せで倒れるエリオスの後頭部にそっと触《ふ》れる。

「・・・・この・・・・頭の形もかつてのままだな・・・・エリオス。
目を覚ましてくれ・・・・」

震える声でエリオスの左肩を揺らす初代へセルジオは目を向けた。

「・・・・初代様・・・・泣いておられるのですか?」

セルジオは初代の頬を伝う涙をエリオスがオスカーにした様に静かに拭う。
初代はセルジオへ寂しそうな微笑みを向けた。

「セルジオ殿・・・・
そなたは片時かたときも離れずエリオスと共に過ごされよ。
エリオスを遠ざけてはならぬ。我のことを一番に想い、
我のことを生涯変わらずいつくしんでくれたのはエリオスであった。
されば時にその言葉は厳しさをはらむ。
されどその言葉は何よりも今の我に必要なことなのだ・・・・
離れ、エリオスを失うまで気付かぬことであったがな・・・・」

初代は涙を流しながらエリオスの後頭部を愛おし気になでた。

ポツリッ!

こぼれ落ちた初代の涙がエリオスの頬に落ちる。

ピクッ!

エリオスの左手がピクリと動いた。

「・・・・うっぅつ・・・・うぅ・・・・」

「エリオス!目を覚ましたか!」

セルジオは初代の右腕に抱えられたままエリオスへ語りかける。

「うっ・・・・セ・・・ルジ・・・オさ・・ま?」

エリオスはうつ伏せのまま左手を握った。
初代は触れていたエリオスの後頭部から手を放す。

「エリオス殿、目覚めたか?」

ビクリッ!!!

初代の声にエリオスは慌てて上体を起こし、初代へ目を向けた。

「!!!これは!初代様!!」

起き上がり、初代にかしづく。

ズキリッ!!

「うっ!」

慌てて起き上がった事で頭に痛みが走った。

「大事ないか?エリオス」

セルジオがかしづくエリオスへ右手を伸ばす。
初代の右腕に抱えられたセルジオはいつになく輝いて見えた。

「大事ございません!
急に起き上がりましたので頭に痛みが走っただけです。
大事ございません!」

エリオスは初代とセルジオを交互に見る。

「・・・・セルジオ様は・・・・
やはり『青き血が流れるコマンドール』の再来でいらしたのですね・・・・
そのままの・・・・お姿も・・・・そのままに・・・・」

エリオスは小刻みに震え、両手で口をおおう。

「エリオス!いかがしたのだ?どこぞ痛むのか?」

セルジオはエリオスへ飛びかかる様に初代の右腕から降りた。

ガバッ!!

エリオスへ抱きつく。

「エリオス!泣くな!痛みがあるのであれば隠さず申せ!
そなたの痛みは私には解らないのだ!
痛むと申してくれねば解らないのだ!だから申してくれ!頼む!」

セルジオは懇願こんがんする様にエリオスへ叫んだ。

エリオスは今まで見た事のないセルジオの言動に困惑する。

「・・・・セルジオ様、大事ございません。
今はどこも痛みません。ご心配をお掛けしました」

エリオスは自身に抱きつくセルジオの後ろにいる初代へ困惑した顔を向ける。
初代は微笑み、エリオスの両手を取るとセルジオの頭と背中に優しく添えた。

「エリオス殿、セルジオ殿に遠慮えんりょをせずともよいのだぞ。
そなたの想うたままに愛しめばよい。過去と今とは異なるのだ。
過去はできずとも今の世ではできるのだ」

初代はそう言うとセルジオとエリオスを両腕で包みこんだ。
セルジオは初代が震えているのを背中で感じていた。
初代は自身の時代のエリオスへ語りかける様につぶやく。

「エリオス、そうであろう?
過去に叶わず残した想いは今の世であれば叶うのであろう?
我もそなたもそれぞれに残した想い、
今の世のセルジオとエリオスへたくしてよいのであろう?」

「エリオス・・・・
我にもそなたの姿を見せてはくれぬか?
そなたと話がしたいのだ。そなたにびたいのだ。
我がそなたを殺した。そなたの忠告に耳を傾けず
そなたもオーロラも我が殺した。
話しが・・・・したい・・・・のだ・・・・エリオス・・・・」

初代はセルジオの背中にポタポタと大粒の涙をこぼした。
その姿にエリオスが顔を上げる。

「初代様!
私は、いえ、初代様の時代のエリオスは天より我らを見守っています。
天に召されているのです。心穏やかにいるとポルデュラ様が申されていました。
さればここに残っているのは初代様の悔恨かいこんのみです」

「我らにお話し下さい。
セルジオ様がいつもご覧になれている初代様の追憶ついおく
私にも見せて下さい!
初代様の残された想いを天より見守るエリオスへ届けましょう」

力強く初代へ進言するエリオスをセルジオは頼もしく感じていた。

セルジオは背後にいる初代へ身体を向けると流れ落ちる涙を自身の衣服の袖で拭う。

「初代様、オスカーはよく涙を流すのです。
バルドが申します。オスカーは感情が豊かであるから
胸の奥底から溢れ出た想いが涙となるのだと」

「私は涙を流したことがありません。
赤子の頃もほとんど泣くことがなかったとベアトレスが申していました。
バルドも涙を流しません。バルドは制御せいぎょしていると申していました」

「同じ様にセルジオ騎士団の第一隊長に仕えた従士であるのに
オスカーはよく涙を流すのです。
私は胸の奥底から溢れ出る想いがどのようなものなのか?
わかりませんでした」

「でも、兄上にお会いしてから時折、ここが・・・・
胸の真ん中辺りがじんわりと暖かく感じることがあるのです。
もしかしたらこれが想いが溢れ出ることなのかと思う様になりました」

セルジオは両手を握り胸の真ん中にあてがうと目をつぶった。握った両手を唇に寄せると一つ大きく呼吸をする。そのまま顔を上げて話しを続けた。

「私は、エリオスがオスカーの流す涙を拭う姿が好きなのです。
とても優しい目をしてオスカーの涙を拭うのです。
その姿を見ると胸がじんわりとするのです。
暖かく感じることができるのです」

「ですから初代様の悔恨かいこんもエリオスは
優しく拭うことができると思います。
私は初代様と一緒に見ることしかできません。
でも、エリオスなら!エリオスはきっと
初代様の悔恨かいこんを拭ってくれます。
追憶ついおくを、初代様の追憶ついおく
ここで起きたかつての追憶ついおくを見せて下さい」

セルジオはエリオスの手を取ると初代の首に両側から2人で両腕を回した。
初代は2人の背中に手を置き、目を閉じる。涙が頬を伝っている。

「・・・・セルジオ殿、エリオス殿・・・・
すまぬ・・・・いや、感謝申す・・・・
水の精霊ウンディーネにも礼を申さねばならぬな。
時の狭間はざまへそなたらを招き入れてくれねば
我の悔恨かいこんは残ったままであった・・・・感謝申す」

初代は2人の頭をそっとなでると立ち上がった。
セルジオとエリオスは初代を見上げる。

初代は氷の壁の様な透き通る大きなへだたりへ少し強い視線を向けた。その先にはバルドとオスカー、アロイスの姿がある。3人はじっとこちらを見ている。

初代はセルジオとエリオスに哀し気な微笑みを向けた。
20歳前後の金糸に縁取られた蒼いマントを纏った初代とエリオスの姿が現れる。

眼下に見えるシュピリトゥスの森を眺めながら2人の騎士は話しをしている。

『セルジオ様、
例のこと・・・・一月後ひとつきごでございます。
準備は進めておりますが・・・・
国王のお申し付け通りでよろしいのでしょうか?』

初代は2人の騎士が話している内容をセルジオとエリオスへ説明する。

「我の時代はシュタイン王国が建国し間もない頃であったのだ。
まだまだ国内も揺らいでいてな・・・・」

「王命を王命として受け、責務を全うする貴族の気概きがい
規律きりつも確固たるものには程遠かった。
兄上・・・・エステール伯爵家とラドフォール公爵家で
シュタイン王国を王国たらしめるために奔走ほんそうしていた」

「この水の城塞もそのために造った。
人が生きていく為に必要な4つの要素、火、水、風、土の
四大精霊と約束を交わし、加護を受けるためにな」

「周辺諸国との関係も油断できなかった。
力で、脅威きょういで抑えるだけではこれからの世は、
これからの国は治められぬと兄上は申された。
対話と協調が必要だと」

「そんな時、南の隣国エフェラル帝国から
友好国として手を組まぬかと申出があった。
海辺をもつエフェラル帝国と友好関係が築ければ
シュタイン王国にとっても利がある。この上ない話しだ」

「早速、シュタイン王国国王からの献上品と書簡を
エフェラル帝国へ届け、友好国としての国交を成立させる準備に入った。
ただ・・・・国内も国境線も安全とは言い難い状況でな、
王都騎士団総長が出向くことが本来の筋目であるが
総長に何かあれば王都が危うい」

「そこでシュタイン王国貴族騎士団の中で一番の
精鋭せいえいであるエステール騎士団に王命が下った。
王都騎士団総長からではなく、国王直々じきじきにな」

そこまで話すと初代はセルジオとエリオスへ顔を向けた。

「セルジオ殿、エリオス殿、
2人の騎士が見えるか?あれが我と我の時代のエリオスだ」

初代は懐かしそうな目を向ける。
セルジオには2人の騎士が言い争っているように見えた。

セルジオはエリオスの顔を見上げる。エリオスはセルジオの視線に気付くとニコリと微笑み左手を繋いだ。

エリオスの手はいつも暖かく感じる。
セルジオは再び氷の壁の様な透き通る大きなへだたりの外側にいる2人の騎士へ目を向ける。

ハッ!

アロイスが立ち上がり、バルドとオスカーが氷の壁のへだたりへ蒼玉そうぎょくの短剣を向け突進してくるのが目に入った。

パァッリーーンン!!!
シャラァーーーーン!!

氷の壁が割れ、透明の広い空間がなくなる。元いた石の道にセルジオとエリオスは手を繋いだまま立っていた。

セルジオは胸にある首飾り、月の雫がじんわりと熱を持っている様に感じ、右手をそっと胸にあてるのだった。
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