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マリエルは元気で可愛い少女だった。
伯爵令嬢で僕よりも爵位が上だったが、彼女は敬語なんて使わなくていいと言ってくれた。
そんな彼女に僕は次第に惹かれていった。
マリエルともし結婚できたなら。
そんな夢を抱きながら、爵位が低い僕が選ばれるはずはないと、いつも諦めていた。
その日。
マリエルの父から両親が死んだと報せを受けた。
僕は冗談かと思ったが、彼女の父は嘘を言っている風でもなく、いくら待っても両親は家に帰ってこなかった。
家に仕えていた初老の執事は、悲しそうな顔で言った。
「ファルダ様。ご両親のことは非常に嘆かわしく思います。しかしあの二人はきっと天国で幸せに暮らしているはずです。そしてあなたの幸せを願っているはずです。だから私たちも前を向きましょう」
執事の言葉に励まされた僕は、以前から誘われていた親戚の家に住むことに決めた。
マリエルと離れてしまうのは寂しかったが、彼女の父が思わぬ提案をしてくれた。
それはマリエルの婚約者に僕を選ぶというものだった。
すっかり諦めていた夢が叶って、僕は舞い上がった。
彼女と別れるその日も悲しみなんて湧いてはこず、むしろ早く時が過ぎて欲しいというワクワクとした感情が湧いてきた。
マリエルの姿が見えなくなるまで、僕は馬車の中から手を振っていた。
隣国の親戚は僕を十分に可愛がってくれて、欲しい物は何でも与えてくれた。
僕は何不自由ない生活を送り、成長し、いつしか一人称が俺となった。
マリエルが貴族学園を卒業したと聞き、俺は彼女の住む街へと帰ってきた。
そして彼女の夫となり、幸せな毎日を過ごしていた。
しかし結婚して三年目。
俺は自分がマリエルのことをもう愛していないことに気が付いた。
イオという男爵令嬢と出会ってから、その思いは加速した。
俺はイオと関係を結び、彼女に離婚を宣言した。
家からは追い出されたものの、離婚は正式に決まり、俺はイオと共に隣国へと帰った。
きっとこれが俺の本当の幸せだったのだ。
そう思いかけた時、執事から予想外の言葉を投げかけられた。
「ファルダ様。ご両親が残された遺産を慰謝料に当ててはどうでしょうか? おそらくそれでも少し残ると思うので、その分は返金して頂いて……」
「はい?」
執事の言っていることがよく分からなかった。
彼も眉間にしわを寄せて、困惑したような顔をしている。
「両親の遺産? 返金? えっと……遺産は今どこにあるんだ?」
「え? もしかして知らなかったのですか? 遺産はご両親が亡くなれた後、遺言書によりマリエル様のご両親が預かっておられますが」
「は? マリエルの両親……だと?」
衝撃とはこのことを言うのだろう。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走り、俺は一瞬視界がぐらついた。
しかし何とか意識を保つと、執事が口を開くのをじっと待った。
「ええ……ご両親は用心深いお方でしたから、生前に遺言書を書いておられました。そして自分が死んだ後は、ファルダ様のことを頼むとマリエル様のご両親に頼んでいたのです。あの方たちは本当の家族のように仲が良かったですから」
「なんだと……そんなの……聞いていないぞ!!!」
俺は執事に詰め寄り、睨みつけた。
執事が焦ったように首を横に振る。
「そんなこと私に申されましても……今からマリエル様のご両親の元を訪ねてみてはいかがですか? きっと大切に遺産は保管されているはずです……」
「本当だろうな?」
「あ……い、いえ……ですから私にそれを申されましても……」
俺は大きなため息をつくと、執事からゆっくりと離れた。
執事は安堵したようにほっと息をはく。
「どうやら俺はとんだマヌケだったようだ……あのクソ女……俺の両親の遺産を独り占めしようとしていたな……」
俺は執事の元を足早に離れると、家の玄関に向かう。
「ファルダ! どこか行くの!?」
すれ違ったイオが俺を呼び止めるが、俺は彼女を見ることもなく告げる。
「マリエルの所に行ってくる」
伯爵令嬢で僕よりも爵位が上だったが、彼女は敬語なんて使わなくていいと言ってくれた。
そんな彼女に僕は次第に惹かれていった。
マリエルともし結婚できたなら。
そんな夢を抱きながら、爵位が低い僕が選ばれるはずはないと、いつも諦めていた。
その日。
マリエルの父から両親が死んだと報せを受けた。
僕は冗談かと思ったが、彼女の父は嘘を言っている風でもなく、いくら待っても両親は家に帰ってこなかった。
家に仕えていた初老の執事は、悲しそうな顔で言った。
「ファルダ様。ご両親のことは非常に嘆かわしく思います。しかしあの二人はきっと天国で幸せに暮らしているはずです。そしてあなたの幸せを願っているはずです。だから私たちも前を向きましょう」
執事の言葉に励まされた僕は、以前から誘われていた親戚の家に住むことに決めた。
マリエルと離れてしまうのは寂しかったが、彼女の父が思わぬ提案をしてくれた。
それはマリエルの婚約者に僕を選ぶというものだった。
すっかり諦めていた夢が叶って、僕は舞い上がった。
彼女と別れるその日も悲しみなんて湧いてはこず、むしろ早く時が過ぎて欲しいというワクワクとした感情が湧いてきた。
マリエルの姿が見えなくなるまで、僕は馬車の中から手を振っていた。
隣国の親戚は僕を十分に可愛がってくれて、欲しい物は何でも与えてくれた。
僕は何不自由ない生活を送り、成長し、いつしか一人称が俺となった。
マリエルが貴族学園を卒業したと聞き、俺は彼女の住む街へと帰ってきた。
そして彼女の夫となり、幸せな毎日を過ごしていた。
しかし結婚して三年目。
俺は自分がマリエルのことをもう愛していないことに気が付いた。
イオという男爵令嬢と出会ってから、その思いは加速した。
俺はイオと関係を結び、彼女に離婚を宣言した。
家からは追い出されたものの、離婚は正式に決まり、俺はイオと共に隣国へと帰った。
きっとこれが俺の本当の幸せだったのだ。
そう思いかけた時、執事から予想外の言葉を投げかけられた。
「ファルダ様。ご両親が残された遺産を慰謝料に当ててはどうでしょうか? おそらくそれでも少し残ると思うので、その分は返金して頂いて……」
「はい?」
執事の言っていることがよく分からなかった。
彼も眉間にしわを寄せて、困惑したような顔をしている。
「両親の遺産? 返金? えっと……遺産は今どこにあるんだ?」
「え? もしかして知らなかったのですか? 遺産はご両親が亡くなれた後、遺言書によりマリエル様のご両親が預かっておられますが」
「は? マリエルの両親……だと?」
衝撃とはこのことを言うのだろう。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走り、俺は一瞬視界がぐらついた。
しかし何とか意識を保つと、執事が口を開くのをじっと待った。
「ええ……ご両親は用心深いお方でしたから、生前に遺言書を書いておられました。そして自分が死んだ後は、ファルダ様のことを頼むとマリエル様のご両親に頼んでいたのです。あの方たちは本当の家族のように仲が良かったですから」
「なんだと……そんなの……聞いていないぞ!!!」
俺は執事に詰め寄り、睨みつけた。
執事が焦ったように首を横に振る。
「そんなこと私に申されましても……今からマリエル様のご両親の元を訪ねてみてはいかがですか? きっと大切に遺産は保管されているはずです……」
「本当だろうな?」
「あ……い、いえ……ですから私にそれを申されましても……」
俺は大きなため息をつくと、執事からゆっくりと離れた。
執事は安堵したようにほっと息をはく。
「どうやら俺はとんだマヌケだったようだ……あのクソ女……俺の両親の遺産を独り占めしようとしていたな……」
俺は執事の元を足早に離れると、家の玄関に向かう。
「ファルダ! どこか行くの!?」
すれ違ったイオが俺を呼び止めるが、俺は彼女を見ることもなく告げる。
「マリエルの所に行ってくる」
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