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「はじめまして、ステラちゃん」

 新しい母として家にきたオーロラに、ステラは戸惑っていた。
 その様子を近くで見ていたウラノスは、ステラの元へと近づいた。

「ステラ。もうフルートのことは忘れるんだ。あいつとはもう会うこともないだろう」

 既にフルートと離婚して一年の月日が経っていた。
 しかしまだステラの心の中にはフルートの存在があるのか、彼女はオーロラを睨みつけるように見上げていた。

「お父様。私は元のお母様がいいです」

 比較的大人しくステラが、自分の意見を押し通そうとするのは珍しいことだった。
 ウラノスは少し驚いたが、すぐに彼女を叱るように睨みつける。

「ステラ。いい加減にしろ。もう五歳なんだから分かるだろう?」
 
 しかしステラは強情に首を横に振る。
 思わずため息をはいたウラノスに、オーロラが笑いながら言う。

「心配しなくても大丈夫よ、ウラノス。これから仲良くなっていけばいいんだもの」

「オーロラ……ありがとう。君がそう言ってくれて安心したよ」

 互いに見つめ合い、頬を赤らめるウラノスとオーロラ。
 二人を見上げながら、ステラは考え事をするように口を閉ざしていた。
 その髪にはフルートからもらった髪飾りが光り輝いていた。

 その夜。
 ウラノスは自室でオーロラと話をしていた。
 
 ウラノスの部屋の天井には綺麗な照明が飾られていて、家具も最新のもの。
 中央には長方形のテーブルがあり、それを囲むように4つの椅子が置かれている。
 向かい合う形でウラノスとオーロラは座っていた。

「ねえウラノス。私、あの子苦手なんだけど。何か考えているかよく分からないし、今朝だって私のこと睨んできたのよ」

 オーロラはそう言うと、自身のピンクの髪を指でくるくる巻いた。
 
「気持ちは分かるが、上手くやってくれ。あの子のおかげで僕達は慰謝料を免れたようなものだし」

「それはそうだけど……」

「頼むよ」

「はいはい」

 オーロラが拗ねたように顔を逸らす。 
 ウラノスは嬉しそうに椅子を立つと、彼女を背後から抱きしめた。
 髪の香りがウラノスの鼻を刺激する。
 心地よい香りにうっとりしながらも、手をオーロラの胸に這わせる。

「きゃっ……もう、だめよ」

「いいじゃないか。これからは毎日好きな時にやれるんだ」

「もう、下品な言い方」

 二人は笑い合うと、そっとキスを交わした。

 ……わずかに開いた扉の隙間から、ステラはその様子をじっと見ていた。
 だが、次第に見てはいけないものを見ているきがして、すぐに部屋の前を去る。

「お母様……」

 髪に手をやり、母がくれた髪飾りに触れる。
 ひんやりとした感触が指を突いて、それがとても悲しかった。
 
 自室までの廊下の道を歩いていると、使用人とすれ違う。
 こんな夜更けにどうしたのだろうと、使用人はステラに駆け寄った。

「お嬢様。どうかなさいましたか?」

「あ、いや……少し眠れなくて」

 俯いてステラは答えた。 
 先ほど見た光景については、黙っていることにする。
 使用人は安心したように笑うと、ステラの手を握った。

「じゃあ私がお部屋までご案内しますね。もしよろしければ絵本も読みましょうか?」

「ありがとう。お願い」

 正直、ステラは既に絵本は卒業している。
 しかし今は誰かと一緒にいたかった。
 せめて眠ってしまうまでは、傍にいて欲しかった。

 使用人に手を引かれ、ステラは独り言のようにぼそっという。
 
「お母様に会いたいな」

 それを聞いた使用人は彼女を見ることなく、言葉を返す。

「私もです。きっと皆そう思っていますよ」

 旦那様以外は……使用人はその言葉は飲み込むことにした。
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