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「僕は君の妹のジェリーと婚約を結ぶことにした。だから君とは婚約破棄だ」

「……はい?」

伯爵令嬢サラの婚約者であるアイクは、彼女にそう告げた。
隣にはサラの妹であるジェリーの姿があった。
勝ち誇ったような笑みを姉に向けている。

「お姉ちゃん。そういうことだからアイクのことは諦めてね。そんなに心配しなくても大丈夫だよ、私がアイクを幸せにしてあげるから」

「あなた、何言っているの?アイクは私の婚約者なのよ?」

「おかしなことを言っているのはお前の方だサラ」

アイクはジェリーの腰に手を回すと、自分の方へ抱き寄せた。

「僕は心から愛しているのがジェリーだと気づいたんだ。この最愛を君なんかに邪魔する権利はない。婚約破棄されて悲しいのは分かるが、現実を受け止めろ!」

サラは目から涙がこぼれ落ちた。
彼女がこうして悲しみの涙を流したのは、六歳の時、家の前で転んで以来だった。
あの時の擦りむいた膝の痛みが蘇り、足から力が抜ける。

サラはその場に崩れ落ちると、顔を手で覆った。
すかさずジェリーが焦ったような声を上げる。

「アイク、騙されないで!お姉ちゃんはずっと私をいじめていた悪女だもの!きっとこの涙も嘘に決まっているわ!」

(は?何を言っているの?私がジェリーをいじめていた?そんな事実一切ないわ!)

サラが心の中で思ったことを言葉にしようとした時、アイクが一瞬先に口を開く。

「そうだな。こいつはそういうやつだ。ジェリーと違って闇に染まった目をしているし、態度だってずっと高圧的だ。こいつの涙は信用できない」

「ま、待ってよ!」

サラはやっと言葉を吐きだすと、ゆっくりと立ち上がった。

「私はジェリーをいじめたことなんて一度もないわ!信じて!」

「お姉ちゃんは嘘をついてる!だってほら……!」

ジェリーはそう言うと、服の袖をまくった。
二の腕に小さな赤い傷がある。
ぽかんとするサラとは対照的に、アイクは顔を怒りで真っ赤にした。

「このクソ女が!!!」

アイクは力の限り叫ぶと、サラの頬を思いっきりビンタした。

「きゃっ!!!」

サラは衝撃でその場に尻もちをつき、赤く腫れた頬を抑えた。

「サラ……どうやらお前は情けをかける意味もない、最低最悪の女だったようだな。やはり婚約破棄は正解だった」

ジェリーは一瞬だけニヤリと笑うも、次の瞬間には潤んだ瞳でアイクに抱き着いていた。

「アイクさん。私なら大丈夫だから……うぅ……お姉ちゃんも反省しているみたいだし……」

「ジェリー。君はなんて優しい女性なんだ。自分に傷を負わせた相手に許しを与えるなんて……」

アイクは床に倒れたサラをキッと睨みつけた。

「そういうことで、僕はジェリーと新たに婚約することにする。もう僕に関わってくるなよ」

「ごめんね、お姉ちゃん」

アイクからは見えないが、サラにははっきりと妹の顔が見えていた。
嬉しそうにニヤリと笑うその顔が。
しかし、怒りを通り越して、彼女は冷静になっていた。

「分かったわ。二人で何でも好きなようにやればいい。ただし、何かあっても助けることはできないからね」

「ふっ、お前の助けなんて誰が借りるか。むしろ助けがいるのはお前の方じゃないか?」

アイクの口調にはいらついたが、サラはぐっと堪える。

「かもね」

(アイク、ジェリー。あなたたちは許さない。幸せな未来が待っていると確信しているのでしょうけど、残念ながらそれはないわよ。それを知った時のあなたたち二人の顔が楽しみね)

サラは心の中でそっと微笑みを浮かべた。
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