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 美しいのだから、あなたは全てを手に入れられる。
 私の母の口癖はそれだった。
 勉強で女友達に負けた時も、初恋の人を取られた時も、母は私を励ますようにそう言った。

 その言葉を聞いて育ったからか、十五歳になる頃には、私の美しさは際立つようになった。
 母も私の黒髪をなでながら、嬉しそうな声を出した。

「マリアンヌ、さすが私の娘ね。ふふっ、それでいいのよ……もっと美しくなりなさい。あなたに手に入らないものはないわ」

 男爵家の平凡な令嬢は、あっという間に貴族たちの注目を集めるようになった。
 皆がマリアンヌという私の名前を呼んで、褒めて、体を欲した。
 私は全身が湧き立つのをはっきりと感じていた。
 この光の中にずっといたいと思った。

 しかし現実はそう甘くはなかった。

「マリアンヌ。どういうこと……? コート様と別れたって……そ、そのお腹の子はどうするのよ!?」

 母は私のふくれたお腹を指差して、ヒステリックに叫んだ。
 大人しい父が母をなだめようと何か言うが、声が小さくて無視される。

「仕方ないじゃない! 犯罪者と結婚しろというの!? こ、この子は児童保護施設にでも……」

「馬鹿言わないの!!!」

 母のビンタが飛んできた。
 頬にじんじんと痛みが走り、目頭が熱くなる。

「そんなことがバレたら我が家の評判が下がるでしょ! そ、そうだ……今すぐ適当な男と関係を持ちなさい! 彼の子にするの……そうすれば……」

「そんなことできるわけないじゃない! 頭おかしいんじゃないの!」

「あんたに言われたくないわよ! よりにもよって妻のいる男性を選ぶなんて馬鹿じゃないの!?」

「はぁ!? お母さんだって略奪しちゃえって応援して……」

「うるさい!!! 二人とも黙れ!!!」

 父の耳をつんざくような声に、私と母は体を震わした。
 父は息を乱しながら、私たちを睨みつけ、口を開く。

「おい、僕がいつまでも大人しくしていると思ったら大間違いだからな。二人とも普段から散々僕のことを馬鹿にして……ふふっ、これも報いさ。僕はサラと一緒にこの街を出て行く。あとは平民にでもなるなりして頑張れよ」

「え? あなた? サラって誰……は?」

 父はニヤリと笑みを浮かべると、家を飛び出していく。
 母はその場に崩れ落ち、他の女の元へ走った父の名前を何度も呟いていた。
 私も体中を満たすほどの絶望感に襲われる。

「そんな……お父さんがいなくなったら貴族の生活なんて……嘘、嘘よ……」

 今すぐコートとよりを戻そうか。
 いや、彼は警察に捕まっているだろうし、あの家柄ばかり気にする厳しい父親が私の存在を許してくれるとは思えない。
 ならば、この子は母と一緒に育てていくしかないのだろうか。
 それとも、誰か男でも誘惑して……希望を込めて鏡を見ると、そこには美女とは呼べない自分の姿が映っていた。

「こんな女……誰も相手にしないわよ……」

 私は母の隣に崩れ落ちると、大粒の涙を流した。
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