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梯子から降りると、あの貴族令嬢はまだそこにいた。
護衛の兵士を押しのけ、私の前までずんずんと歩いてくる。
「へぇ……近くで見ると本当にそっくりね。よかったわね、この私……公爵令嬢クララ様のお顔と似ることができて」
「あら。そんなに似ていますか?心なしか私の方が小顔なように思えますが」
「お、おいリリアン!」
ジャンは真っ青になりながら心配したような声を上げる。
クララは一瞬眉を強く寄せたが、すぐに余裕ぶった笑みを取り戻した。
「リリアンちゃんっていうのね。そんなに汚い恰好で屋根になんて上っているから、てっきりブサイクちゃんかと思ったわ。それかノウナシちゃん?」
「本当にそんな名前が存在すると思っているのなら、あなたの方がよっぽどノウナシちゃんなんじゃないのですか?」
あえて笑顔で応戦してみると、クララは明らかに不機嫌そうに拳を握った。
これ以上やったら本当に死刑になってしまいそうなので、私はジャンをチラリと見て言う。
「じゃあ公爵令嬢のクララ様、私たちは次の仕事がありますのでこれで失礼させて頂きます。ごめんあそばせ」
昔習ったカーテシーを適当にやって、私はクララと反対方向に歩き出した。
「し、失礼しました!」とジャンは頭を下げると、私の後をついてくる。
「おいリリアン!貴族様にあんな態度取って大丈夫なのかよ!?俺達……死刑になっちまうんじゃ……」
「大丈夫よ」
私の目は遠い過去を見つめていた。
「本物の貴族はそう安々と死刑にしたりなんてしない。そんなことしても無駄に怖がられるだけだからね」
「そ、そうなのか……ならいいけど。でもお前って時々、自分が貴族みたいなこというよな。こんな街で屋根ふきをして暮らしているのに」
「はぁ……だからいつも言ってるじゃない。私は元々貴族だったって」
「うーん、本当かなぁ?どうもこう……貴族の気品?みたいなものがリリアンからは感じられないような……」
尊厳を踏みにじられたような気がして、私はジャンをキッと睨みつけた。
「うわっ……わ、悪かった!今のは少し言いすぎた!ごめん!」
「次の仕事、あなたが六割ね。それで許す」
「わかったよ……はぁ……女って怖いな……」
ジャンは諦めたように息をはいた。
……その日の仕事を終え部屋に戻った時にはすでに深夜になっていた。
朝からずっと働いていたので体がバキバキだった。
ベッドに横になると、すぐに瞼が重くなる。
……どうして私はまだ生きているのだろう。
そんなことを考えながら眠りについた。
「……アン!リリアン!起きなさい!!!リリアァン!!!!!」
扉が激しく叩かれる音と、ハンナおばさんの不機嫌そうな声で私は目覚めた。
時計を見るとまだ朝の五時。
「くそっ……」
私は舌打ちをするとベッドから起き上がり、扉を開けた。
ハンナおばさんがいつものように腰を手を当て、ぶっきらぼうに言う。
「リリアン。あんたにお客だよ。急いで玄関に行きな」
「……え?」
私に客?親戚の誰かだろうか?
不審に思いながらも、私はそのままの恰好で階段を下りていった。
玄関に到着すると、貴族の夫婦らしき男女がいて、その二人とジャンが話していた。
おそらく私が来るまでの時間潰しとしてジャンは駆り出されたのだろう。
夫婦は私に気づくと、「おお!」と嬉しそうな声を上げた。
「君がリリアンだね。いやぁ、クララにそっくりだ。これなら問題ない」
「そうね。誰にもバレることはないわね。じゃあリリアン行きましょう」
突然のことに訳が分からずぽかんとしていると、男の方が言う。
焦点が合っていないような不気味な瞳をしていた。
「君には今日から私たちの娘になってもらうよ。これからは公爵令嬢クララとして生きてくれ」
護衛の兵士を押しのけ、私の前までずんずんと歩いてくる。
「へぇ……近くで見ると本当にそっくりね。よかったわね、この私……公爵令嬢クララ様のお顔と似ることができて」
「あら。そんなに似ていますか?心なしか私の方が小顔なように思えますが」
「お、おいリリアン!」
ジャンは真っ青になりながら心配したような声を上げる。
クララは一瞬眉を強く寄せたが、すぐに余裕ぶった笑みを取り戻した。
「リリアンちゃんっていうのね。そんなに汚い恰好で屋根になんて上っているから、てっきりブサイクちゃんかと思ったわ。それかノウナシちゃん?」
「本当にそんな名前が存在すると思っているのなら、あなたの方がよっぽどノウナシちゃんなんじゃないのですか?」
あえて笑顔で応戦してみると、クララは明らかに不機嫌そうに拳を握った。
これ以上やったら本当に死刑になってしまいそうなので、私はジャンをチラリと見て言う。
「じゃあ公爵令嬢のクララ様、私たちは次の仕事がありますのでこれで失礼させて頂きます。ごめんあそばせ」
昔習ったカーテシーを適当にやって、私はクララと反対方向に歩き出した。
「し、失礼しました!」とジャンは頭を下げると、私の後をついてくる。
「おいリリアン!貴族様にあんな態度取って大丈夫なのかよ!?俺達……死刑になっちまうんじゃ……」
「大丈夫よ」
私の目は遠い過去を見つめていた。
「本物の貴族はそう安々と死刑にしたりなんてしない。そんなことしても無駄に怖がられるだけだからね」
「そ、そうなのか……ならいいけど。でもお前って時々、自分が貴族みたいなこというよな。こんな街で屋根ふきをして暮らしているのに」
「はぁ……だからいつも言ってるじゃない。私は元々貴族だったって」
「うーん、本当かなぁ?どうもこう……貴族の気品?みたいなものがリリアンからは感じられないような……」
尊厳を踏みにじられたような気がして、私はジャンをキッと睨みつけた。
「うわっ……わ、悪かった!今のは少し言いすぎた!ごめん!」
「次の仕事、あなたが六割ね。それで許す」
「わかったよ……はぁ……女って怖いな……」
ジャンは諦めたように息をはいた。
……その日の仕事を終え部屋に戻った時にはすでに深夜になっていた。
朝からずっと働いていたので体がバキバキだった。
ベッドに横になると、すぐに瞼が重くなる。
……どうして私はまだ生きているのだろう。
そんなことを考えながら眠りについた。
「……アン!リリアン!起きなさい!!!リリアァン!!!!!」
扉が激しく叩かれる音と、ハンナおばさんの不機嫌そうな声で私は目覚めた。
時計を見るとまだ朝の五時。
「くそっ……」
私は舌打ちをするとベッドから起き上がり、扉を開けた。
ハンナおばさんがいつものように腰を手を当て、ぶっきらぼうに言う。
「リリアン。あんたにお客だよ。急いで玄関に行きな」
「……え?」
私に客?親戚の誰かだろうか?
不審に思いながらも、私はそのままの恰好で階段を下りていった。
玄関に到着すると、貴族の夫婦らしき男女がいて、その二人とジャンが話していた。
おそらく私が来るまでの時間潰しとしてジャンは駆り出されたのだろう。
夫婦は私に気づくと、「おお!」と嬉しそうな声を上げた。
「君がリリアンだね。いやぁ、クララにそっくりだ。これなら問題ない」
「そうね。誰にもバレることはないわね。じゃあリリアン行きましょう」
突然のことに訳が分からずぽかんとしていると、男の方が言う。
焦点が合っていないような不気味な瞳をしていた。
「君には今日から私たちの娘になってもらうよ。これからは公爵令嬢クララとして生きてくれ」
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