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フレイム王子は机に突っ伏して、不機嫌そうに唸っていた。
私が部屋に入ってきたにも関わらず、何かの書類に夢中で、言葉すら発さない。
「……どうかしたのですか?」
机の前まで移動すると、フレイム王子はため息交じりに言う。
「ここの数字がどうしても合わない。少し待っていろ」
どうやら公務に苦戦しているらしい。
ちらっと書類を見てみると、確かに数か所間違いがあった。
このままこの場で待ち続けるのも嫌なので、私は助言をする。
「まず初めに、ここの数字が間違っておられます」
指を差すと、王子の目線がそこに移動する。
「ふん、ここは何回も確認した。間違いなどない。大体そんなにすぐに分かるはずがないだろ」
「では確認の仕方が間違っておられるのですね。答えは12372629です」
王子がバッと顔を上げると、私を睨みつける。
「俺の婚約者であるアクアは、物静かで聡明だと聞いていたが……?」
「しかしこのままでは王子の大切な時間を無駄にすることになります。それが嫌なら、もう一度丁寧に確認をするか、他の者を信じることでしょう」
「ふん」
王子は鼻を鳴らすと、確認作業を始めた。
そして程なくして「あっ」と声を上げる。
「どうやら私の答えが正しかったようですね」
「あまり調子に乗るなよ……さっさと他の間違いを言え」
言われるがままに、私は書類上の間違いを指摘し、王子はそれを修正していった。
数分後には公務は無事終わり、王子は深く息をはいた。
「俺に恩を着せたつもりだろうが、今後出過ぎた真似はしないことだな」
「かしこまりました」
「ふん」
王子は書類を机の端に乱雑に寄せると、椅子から立ち上がる。
私の隣まで移動して、改めて自己紹介をした。
「俺は第二王子のフレイム。俺の婚約者となる以上、王子である俺の命令には従ってもらう。異論はないな?」
「公爵令嬢のアクアです。これからよろしくお願い致します。常識の範囲内であれば従いましょう」
私と王子の視線がぶつかった。
無感情な私に対し、彼の目は敵意丸出しの鋭いものだった。
だが、ふいに王子は口の端を上げると、思い出したように言う。
「俺は愛人を作ることにしている」
「……はい?」
驚きというよりも、困惑に近かった。
王子から突然放たれた常識外の言葉に、私は首を傾げる。
王子は笑みをそのままに、言葉を続けた。
「文句でもあるのか? 俺がどんな女と関係を持とうと、構わないはずだ」
「婚約者がいる身であるのに愛人をもつなど、常識に欠けた行為です。止めるべきです。いつか断罪されるのがオチですよ」
「ふん、俺を誰だと思っている。この国の王子だぞ。一体誰が断罪するというのだ?」
先ほどプライドを傷つけられた仕返しのつもりなのか、王子の顔が嬉しそうに歪んだ。
こんな人が国を背負って立つのだと思うと、国の未来に不安しかない。
「いいかアクア。お前はただ婚約者を演じていればいいんだ。俺の行動には目を瞑り、評判通り物静かに過ごしていればいい」
兄のランス王子とは、天と地ほどの差があると思った。
ランスはメイドの落とし物を自ら探すような優しい性格をしているのに、弟の方はまるで悪魔のような意地の悪い性格をしている。
「善処します」
返答に困った私はそれだけ言うと、部屋を後にする。
心が少しだけ痛むのはきっと気のせいだろう。
私が部屋に入ってきたにも関わらず、何かの書類に夢中で、言葉すら発さない。
「……どうかしたのですか?」
机の前まで移動すると、フレイム王子はため息交じりに言う。
「ここの数字がどうしても合わない。少し待っていろ」
どうやら公務に苦戦しているらしい。
ちらっと書類を見てみると、確かに数か所間違いがあった。
このままこの場で待ち続けるのも嫌なので、私は助言をする。
「まず初めに、ここの数字が間違っておられます」
指を差すと、王子の目線がそこに移動する。
「ふん、ここは何回も確認した。間違いなどない。大体そんなにすぐに分かるはずがないだろ」
「では確認の仕方が間違っておられるのですね。答えは12372629です」
王子がバッと顔を上げると、私を睨みつける。
「俺の婚約者であるアクアは、物静かで聡明だと聞いていたが……?」
「しかしこのままでは王子の大切な時間を無駄にすることになります。それが嫌なら、もう一度丁寧に確認をするか、他の者を信じることでしょう」
「ふん」
王子は鼻を鳴らすと、確認作業を始めた。
そして程なくして「あっ」と声を上げる。
「どうやら私の答えが正しかったようですね」
「あまり調子に乗るなよ……さっさと他の間違いを言え」
言われるがままに、私は書類上の間違いを指摘し、王子はそれを修正していった。
数分後には公務は無事終わり、王子は深く息をはいた。
「俺に恩を着せたつもりだろうが、今後出過ぎた真似はしないことだな」
「かしこまりました」
「ふん」
王子は書類を机の端に乱雑に寄せると、椅子から立ち上がる。
私の隣まで移動して、改めて自己紹介をした。
「俺は第二王子のフレイム。俺の婚約者となる以上、王子である俺の命令には従ってもらう。異論はないな?」
「公爵令嬢のアクアです。これからよろしくお願い致します。常識の範囲内であれば従いましょう」
私と王子の視線がぶつかった。
無感情な私に対し、彼の目は敵意丸出しの鋭いものだった。
だが、ふいに王子は口の端を上げると、思い出したように言う。
「俺は愛人を作ることにしている」
「……はい?」
驚きというよりも、困惑に近かった。
王子から突然放たれた常識外の言葉に、私は首を傾げる。
王子は笑みをそのままに、言葉を続けた。
「文句でもあるのか? 俺がどんな女と関係を持とうと、構わないはずだ」
「婚約者がいる身であるのに愛人をもつなど、常識に欠けた行為です。止めるべきです。いつか断罪されるのがオチですよ」
「ふん、俺を誰だと思っている。この国の王子だぞ。一体誰が断罪するというのだ?」
先ほどプライドを傷つけられた仕返しのつもりなのか、王子の顔が嬉しそうに歪んだ。
こんな人が国を背負って立つのだと思うと、国の未来に不安しかない。
「いいかアクア。お前はただ婚約者を演じていればいいんだ。俺の行動には目を瞑り、評判通り物静かに過ごしていればいい」
兄のランス王子とは、天と地ほどの差があると思った。
ランスはメイドの落とし物を自ら探すような優しい性格をしているのに、弟の方はまるで悪魔のような意地の悪い性格をしている。
「善処します」
返答に困った私はそれだけ言うと、部屋を後にする。
心が少しだけ痛むのはきっと気のせいだろう。
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