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4話 追跡
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狩猟者の村からさらに北に位置するヒューマンの王国。四つの巨大な尖塔が正方形を作るように位置していて、中央には他の塔の五倍ほど幅のある宮殿がある。その王城を囲むのは貴族階級のヒューマンたちの屋敷で、さらに外側には平民たちの住まいがある。
この国の現王は歴史上もっともクズな王と市民たちの中では噂されている。その理由なら今から語られる人物を見てすぐに分かるだろう。
王宮内ではメイドやら執事が食堂からせっせと料理を運んでいる。全員の顔には恐怖と焦りの混じった表情が滲み出ていて、急を要する事態だと空気感だけで分かる。
「先輩、王様どうしちゃったの?」
まだ成人もしてないであろう少女のメイドが凛とした顔をした女性に尋ねる。
「分からないわ。ただ妻がどうのこうのって叫んでいた気がする」
「妻って、例のエルフの村の……」
少女が話終わる前に女性は少女の口を塞ぐ。
「あまりその話はしないように。それより早くご飯を持っていきなさい」
少女は「すみません」と謝りながら颯爽と謁見の間へと向かう。片手にはワインの入った大きなグラスを四本ほど乗せたトレイを持っている。少女は大理石でできた廊下を歩く。壁には歴代の王の遺影が飾られていて一番最後には現王のための額縁がすでに用意されていた。
少女は廊下の最奥にある大扉を開いて謁見の間へ入る。中では三十人ほどの貴族たちが長机を囲んで食事をしている。机の左側と右側の真ん中にはそれぞれ痩せ細ったエルフの男と現ヒューマンの王がいた。少女はその光景だけで息が詰まりそうになったが、なによりもその静寂から放たれるただならぬ雰囲気は一層恐怖心を煽っただろう。
細いエルフはなにか怯えた表情をしていて食が全く進んでいない。対する王は顔を真っ赤にしながら皿に乗っているチキンやサラダを頬張っていた。
「で、なんで俺のお嫁さんいないの?」
少女は恐怖で身を震わせながらもワイングラスを王の元に届ける。その後この空間から離れるためにすぐに謁見の間から飛び出た。
「分かりません……村人全員で探したのですが村の中にはいないようです」
「つまり?」
王はでっぷりとした腹を撫でて眉をひそめる。静寂が訪れて室内には王のくちゃくちゃと不快な咀嚼音のみが響く。周りの貴族は絶対に物音を立てないように顔を強張らせて食事を摂る。
「わたしの娘は……逃亡しました」
エルフの男がそう言うと王は前にある皿を全て勢いよくひっくり返す。おまけについ届いたばかりのワイングラスを下に叩きつける。
「ふざけるんじゃねぇ! テメェの娘なら手錠しておくなり拘束魔法かけるなりしろよ!! 一週間以内に見つけなければお前の村に軍を送る。村長なら見つけろよなぁ?」
王はそう言い終わると息を切らしながら自分の席に座る。王のひっくり返した食べ物や飲み物を執事やメイドが片付けていた。セレーネの父親は拳に力を入れ「……分かりました」と答える。王は「早くヤらせろよな」と独りで呟いていた。
王の剣幕で謁見の間はさらに静かになる。だが、とある貴族が「王よ」と高らかに言って手を挙げる。王はその貴族をジロッと一瞥した後に「なんだ?」と聞く。
「よければ我々オルフィア家にセレーネの捜索を手伝わせましょうか?」
その言葉に王はニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
「ほう。お前はこのゴミエルフと違って信用できるやつだ。ガエム。もし捕まえてこれたなら褒美をやろう」
ガエムは王に向かって会釈をする。その後、クルンと巻いている髭を撫でながら
「このガエム・オルフィア。王のためにやってみせましょう」と自信満々な表情で言った。貴族たちはガエムを「さすが」だの「すばらしい」などと褒めちぎっている。どうやら謁見の間の明るい雰囲気を戻せたようだ。
セレーネの父親は貴族の手を借りれることにどこか安心感を覚えたような表情を浮かべていた。だがそれと同時にセレーネを見つけられなかったことを想像すると鼓動が速くなる。
およそ一時間後、謁見の間の食事会が終わるとセレーネの父親は早歩きで謁見の間から出る。そこは中庭になっていて真ん中に透き通った水の流れる水路が通っている。中庭内では無害な魔法生物を飼っているようで、ユニコーンの家族や翼の生えた猫を自由にしている。そんな癒される景色もセレーネの父親の意識の外にある。
王宮の外に出たセレーネの父親は馬小屋に行って自分の馬の元へ行く。黒色の毛と強靭な肉体を持つ馬に跨るとセレーネの父親は手綱を引いて馬を走らせる。
「絶対に見つけてやる」
怒りで声を震わせながらセレーネの父親は村へ向かう。馬の蹄は地面を蹴りその跡を深く残していった。
この国の現王は歴史上もっともクズな王と市民たちの中では噂されている。その理由なら今から語られる人物を見てすぐに分かるだろう。
王宮内ではメイドやら執事が食堂からせっせと料理を運んでいる。全員の顔には恐怖と焦りの混じった表情が滲み出ていて、急を要する事態だと空気感だけで分かる。
「先輩、王様どうしちゃったの?」
まだ成人もしてないであろう少女のメイドが凛とした顔をした女性に尋ねる。
「分からないわ。ただ妻がどうのこうのって叫んでいた気がする」
「妻って、例のエルフの村の……」
少女が話終わる前に女性は少女の口を塞ぐ。
「あまりその話はしないように。それより早くご飯を持っていきなさい」
少女は「すみません」と謝りながら颯爽と謁見の間へと向かう。片手にはワインの入った大きなグラスを四本ほど乗せたトレイを持っている。少女は大理石でできた廊下を歩く。壁には歴代の王の遺影が飾られていて一番最後には現王のための額縁がすでに用意されていた。
少女は廊下の最奥にある大扉を開いて謁見の間へ入る。中では三十人ほどの貴族たちが長机を囲んで食事をしている。机の左側と右側の真ん中にはそれぞれ痩せ細ったエルフの男と現ヒューマンの王がいた。少女はその光景だけで息が詰まりそうになったが、なによりもその静寂から放たれるただならぬ雰囲気は一層恐怖心を煽っただろう。
細いエルフはなにか怯えた表情をしていて食が全く進んでいない。対する王は顔を真っ赤にしながら皿に乗っているチキンやサラダを頬張っていた。
「で、なんで俺のお嫁さんいないの?」
少女は恐怖で身を震わせながらもワイングラスを王の元に届ける。その後この空間から離れるためにすぐに謁見の間から飛び出た。
「分かりません……村人全員で探したのですが村の中にはいないようです」
「つまり?」
王はでっぷりとした腹を撫でて眉をひそめる。静寂が訪れて室内には王のくちゃくちゃと不快な咀嚼音のみが響く。周りの貴族は絶対に物音を立てないように顔を強張らせて食事を摂る。
「わたしの娘は……逃亡しました」
エルフの男がそう言うと王は前にある皿を全て勢いよくひっくり返す。おまけについ届いたばかりのワイングラスを下に叩きつける。
「ふざけるんじゃねぇ! テメェの娘なら手錠しておくなり拘束魔法かけるなりしろよ!! 一週間以内に見つけなければお前の村に軍を送る。村長なら見つけろよなぁ?」
王はそう言い終わると息を切らしながら自分の席に座る。王のひっくり返した食べ物や飲み物を執事やメイドが片付けていた。セレーネの父親は拳に力を入れ「……分かりました」と答える。王は「早くヤらせろよな」と独りで呟いていた。
王の剣幕で謁見の間はさらに静かになる。だが、とある貴族が「王よ」と高らかに言って手を挙げる。王はその貴族をジロッと一瞥した後に「なんだ?」と聞く。
「よければ我々オルフィア家にセレーネの捜索を手伝わせましょうか?」
その言葉に王はニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
「ほう。お前はこのゴミエルフと違って信用できるやつだ。ガエム。もし捕まえてこれたなら褒美をやろう」
ガエムは王に向かって会釈をする。その後、クルンと巻いている髭を撫でながら
「このガエム・オルフィア。王のためにやってみせましょう」と自信満々な表情で言った。貴族たちはガエムを「さすが」だの「すばらしい」などと褒めちぎっている。どうやら謁見の間の明るい雰囲気を戻せたようだ。
セレーネの父親は貴族の手を借りれることにどこか安心感を覚えたような表情を浮かべていた。だがそれと同時にセレーネを見つけられなかったことを想像すると鼓動が速くなる。
およそ一時間後、謁見の間の食事会が終わるとセレーネの父親は早歩きで謁見の間から出る。そこは中庭になっていて真ん中に透き通った水の流れる水路が通っている。中庭内では無害な魔法生物を飼っているようで、ユニコーンの家族や翼の生えた猫を自由にしている。そんな癒される景色もセレーネの父親の意識の外にある。
王宮の外に出たセレーネの父親は馬小屋に行って自分の馬の元へ行く。黒色の毛と強靭な肉体を持つ馬に跨るとセレーネの父親は手綱を引いて馬を走らせる。
「絶対に見つけてやる」
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