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48王子と鉢合わせをしたのだが?
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「クリスティーナ様、この後、是非私にエスコートの栄誉を……」
「お前、抜け駆けをするな! クリスティーナ様、是非僕と……」
「クリスティーナ様、今度、私と食事を是非……」
「王都に面白い見世物が来ておりますので私めと是非……」
「我が領の名産の美味しい紅茶が入りました是非一緒に……」
「珍しいお菓子を……」
貴族子息の婚約者のいない者達なのだろう
一斉にクリスの周りを囲み、我先にと声をかけ始めていた。
困っているのは間違いないことだろうから、手っ取り早く助けてあげる方法を思いついたので近づいて声をかける。
「クリス。アンネリーゼ殿下が呼んでいるよ」
「あら、アル。──そう、分かったわ。何か急ぎの用件ね」
クリスは即座に俺の意図を組んで、貴族令息達に、そそくさと挨拶をして、その場を立ち去ろうとする。
「……ああ、折角のチャンスが。シュタインベルグの宝石が運良くフリーになったのに」
「憧れのシュタインベルグの宝石と一言話せただけでも」
「一体、あれだけの女性の心を誰が射止めるのやら」
そんなざわざわとしたなか。
「クリスティーナ侯爵令嬢」
「……どちら様でしょうか」
「アタナス・フーシェと申します! 南部で伯爵家を営ませていただいております、どうぞお見知り置きください」
クリスは先月婚約破棄されたばかりだ。普通、しばらくはそっとしておくべきだろう。そんな簡単に新しい縁談を進めるなど、クリスへの配慮が足らない。
普通、気落ちして、それどころではないのだ。
この男、他人を思いやる気持ちがない。他の令息にしてもそうだが。
だが、この男はかなり強引なんだろう、他の令息はそれはわかっていても気持ちが抑えきれず……と言う感じで、クリスが困ったような顔とそそくさと去る様子を見て諦めてくれたのに、この男は一切それを考慮することがないようだ。
「先日の終末の化け物との一戦、治癒魔法しか使えない欠点を克服されたクリスティーナ様のあくなき努力、私は感銘を受けました! つきましては是非お話が──」
「縁談ですよね?」
「クリス様は聡明ですな! ご明察の通り! さすが王子殿下の元婚約者であらされる」
「申し訳ございません」
もう何度も繰り返したくだり、既にクリスは事務的に効率よく少ない言葉で申し出を絶った。
「今は、まだ何も考えられないのです。なので今日のところはお断りさせていただきます。大変ありがたいとは思っておりますが」
「そ、そうは言わず、私は以前からあなたのことが! 私に何卒チャンスを!」
「……あの」
クリスの発言の言外の意味を汲もうとせず、ひたすら自身の想いを、そしてこちらの話などお構いなく、強引に自分の都合で話を進めようとする。
すると、クリスも言外に察してもらうことを諦めたのか、ハッキリとした言葉を伝えた。
「伯爵様、私は先月、第一王子殿下に婚約破棄されたばかりの身なのです!」
「!?」
「そのことをご理解頂いておりますか? それを踏まえた上でお考えください」
「そ、それはそうですが!」
クリスの言うことは当然だ。先月まで王子殿下と婚約していたのだ、それがもう新しい男性と縁談を進めるなど、体裁が悪い。ましては相手は王族だったのである。
慎重な配慮が必要だった。
しかし、男の愚かさは、俺達の想像外だった。
「王子殿下もクリス様が光魔法の常識を打ち破るなど、予想出来なかったのでしょう! それに殿下は周りが良く見えておられないと地方では有名な話ですよ!」
「は、伯爵様、やめて下さい!」
「あなたは謙虚過ぎる、あなたのように美しく、才能に溢れ、女神様の愛情を一身に受けて! あなたの光魔法は既に王子殿下以上と。カール殿下があなたとの婚約を破棄したことははっきり言って──」
「ほう。私が、なんだと?」
冷たく冴え渡った声が大きく響いた。
大勢の参加客の中でも、はっきり通る声。それを聞いた途端、全ての人の声が一斉に静まり返った。
静粛の中、高い靴音を響かせてこちらにやって来る人物。
人の壁が自然に通り道となって開かれていく。全ての人が靴音の主に道を譲り、人垣の中からその姿があらわになる。
光の束を集めたような金髪、黒曜石のように美しく、意思の強そうな目。
長身の美丈夫、端正な顔立ちとスタイル、優雅な貴賓を纏い、自信にみなぎり、傲岸を感じさせる表情。
そして、誰もを威圧する圧を纏いその男は現れた。
さすがに自身の失態に気がついたのか、例の若い伯爵は青ざめた顔で震えて言葉がでない。
クリスがその男の名を呼んだ。
「……カール、殿下」
カール・フィリップ・。
この国の第一王子であり、クリスを死へと追いやろうとした男。
アルが既にこの王子にとって、敵となっていることは間違いない。
実家を追放されたときは気ままにスローライフを送ろうとした。
だが、今はクリスを守るため、亜人を守るため、そしてこの国が亡国へと進むのを防ぐため、自然に衝突するだろう人物。
それがカール王子、ついにアルはついに真の敵と邂逅した。
「お前、抜け駆けをするな! クリスティーナ様、是非僕と……」
「クリスティーナ様、今度、私と食事を是非……」
「王都に面白い見世物が来ておりますので私めと是非……」
「我が領の名産の美味しい紅茶が入りました是非一緒に……」
「珍しいお菓子を……」
貴族子息の婚約者のいない者達なのだろう
一斉にクリスの周りを囲み、我先にと声をかけ始めていた。
困っているのは間違いないことだろうから、手っ取り早く助けてあげる方法を思いついたので近づいて声をかける。
「クリス。アンネリーゼ殿下が呼んでいるよ」
「あら、アル。──そう、分かったわ。何か急ぎの用件ね」
クリスは即座に俺の意図を組んで、貴族令息達に、そそくさと挨拶をして、その場を立ち去ろうとする。
「……ああ、折角のチャンスが。シュタインベルグの宝石が運良くフリーになったのに」
「憧れのシュタインベルグの宝石と一言話せただけでも」
「一体、あれだけの女性の心を誰が射止めるのやら」
そんなざわざわとしたなか。
「クリスティーナ侯爵令嬢」
「……どちら様でしょうか」
「アタナス・フーシェと申します! 南部で伯爵家を営ませていただいております、どうぞお見知り置きください」
クリスは先月婚約破棄されたばかりだ。普通、しばらくはそっとしておくべきだろう。そんな簡単に新しい縁談を進めるなど、クリスへの配慮が足らない。
普通、気落ちして、それどころではないのだ。
この男、他人を思いやる気持ちがない。他の令息にしてもそうだが。
だが、この男はかなり強引なんだろう、他の令息はそれはわかっていても気持ちが抑えきれず……と言う感じで、クリスが困ったような顔とそそくさと去る様子を見て諦めてくれたのに、この男は一切それを考慮することがないようだ。
「先日の終末の化け物との一戦、治癒魔法しか使えない欠点を克服されたクリスティーナ様のあくなき努力、私は感銘を受けました! つきましては是非お話が──」
「縁談ですよね?」
「クリス様は聡明ですな! ご明察の通り! さすが王子殿下の元婚約者であらされる」
「申し訳ございません」
もう何度も繰り返したくだり、既にクリスは事務的に効率よく少ない言葉で申し出を絶った。
「今は、まだ何も考えられないのです。なので今日のところはお断りさせていただきます。大変ありがたいとは思っておりますが」
「そ、そうは言わず、私は以前からあなたのことが! 私に何卒チャンスを!」
「……あの」
クリスの発言の言外の意味を汲もうとせず、ひたすら自身の想いを、そしてこちらの話などお構いなく、強引に自分の都合で話を進めようとする。
すると、クリスも言外に察してもらうことを諦めたのか、ハッキリとした言葉を伝えた。
「伯爵様、私は先月、第一王子殿下に婚約破棄されたばかりの身なのです!」
「!?」
「そのことをご理解頂いておりますか? それを踏まえた上でお考えください」
「そ、それはそうですが!」
クリスの言うことは当然だ。先月まで王子殿下と婚約していたのだ、それがもう新しい男性と縁談を進めるなど、体裁が悪い。ましては相手は王族だったのである。
慎重な配慮が必要だった。
しかし、男の愚かさは、俺達の想像外だった。
「王子殿下もクリス様が光魔法の常識を打ち破るなど、予想出来なかったのでしょう! それに殿下は周りが良く見えておられないと地方では有名な話ですよ!」
「は、伯爵様、やめて下さい!」
「あなたは謙虚過ぎる、あなたのように美しく、才能に溢れ、女神様の愛情を一身に受けて! あなたの光魔法は既に王子殿下以上と。カール殿下があなたとの婚約を破棄したことははっきり言って──」
「ほう。私が、なんだと?」
冷たく冴え渡った声が大きく響いた。
大勢の参加客の中でも、はっきり通る声。それを聞いた途端、全ての人の声が一斉に静まり返った。
静粛の中、高い靴音を響かせてこちらにやって来る人物。
人の壁が自然に通り道となって開かれていく。全ての人が靴音の主に道を譲り、人垣の中からその姿があらわになる。
光の束を集めたような金髪、黒曜石のように美しく、意思の強そうな目。
長身の美丈夫、端正な顔立ちとスタイル、優雅な貴賓を纏い、自信にみなぎり、傲岸を感じさせる表情。
そして、誰もを威圧する圧を纏いその男は現れた。
さすがに自身の失態に気がついたのか、例の若い伯爵は青ざめた顔で震えて言葉がでない。
クリスがその男の名を呼んだ。
「……カール、殿下」
カール・フィリップ・。
この国の第一王子であり、クリスを死へと追いやろうとした男。
アルが既にこの王子にとって、敵となっていることは間違いない。
実家を追放されたときは気ままにスローライフを送ろうとした。
だが、今はクリスを守るため、亜人を守るため、そしてこの国が亡国へと進むのを防ぐため、自然に衝突するだろう人物。
それがカール王子、ついにアルはついに真の敵と邂逅した。
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