『ショパンへのオマージュ』“愛する姉上様”

大輝

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第12章 恋ですか?2

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さっきより遠い所から、晴香の悲鳴が聞こえる。

だいぶ離れてしまったようだ。

僕は、桜井さんの手を引っ張って奥へと進んだ。

「やだ…私…何だかドキドキしてる」

「怖いの?」

「貴方のせいよ」

「釣り橋の恋って話し、聞いた事が有るよ」

「知ってる。恐怖でドキドキしてる時、そばに居る人にときめいているような錯覚に陥るんでしょ?」

「落ち着いたら、何だったんだ?ってなるよ、きっと」

「そうかしら…?」

「………」

【神社の裏の奥】

〈健人の腕を掴む晴香〉

「お前、どうでも良いけど、もう少し力抜いてくれない?それじゃ血が通わないだろ」

「しょうがないじゃないですか、怖いんだもん。だいたい橘さんが、肝試ししようなんて言うからよ」

「ほら、出た!」

「キャー!」

〈晴香は健人に抱きついた〉

「もう、やだー」

「お前、意外と可愛いトコ有るな」

「こんな時に、からかわないでよー」

「別に…からかってるわけじゃ…」

「脅かして喜んでるでしょ?」

「悪かったよ」

「もー」


「俺じゃ、ダメなのか?」

「え?何?」

「だから、星じゃなくて」

〈ガサガサと音がする〉

「わっわー!」

「あーもう、ただの猫だよ。行くぞ」

「絶対、ぜーっ対置いて行かないでくださいね」

【神社の裏入り口近く】

〈足を引きずって歩く菜々〉

「大丈夫?」

「下駄の鼻緒が擦れて痛いの」

「どれ」

〈星は、しゃがんで菜々の下駄を脱がせた〉

暗くて良く見えないけど…

手で触れると、豆が潰れて皮が剥けているようだ。

「こういうの、結構痛いんだよね」

「うん、凄く痛い」

「歩くのは、無理かな」

〈しゃがんで背中を向け、両手を後ろにおんぶを促す星〉

「はい」

「え?でも…」

「早く」

「恥ずかしいから、良いわよ」

「誰も見てないから」

「そうじゃなくて…」

「人が居る所まで行ったら下ろすよ」


「重いわよ私」

僕は、彼女を背負った。

「ああ、凄く重い」

「ひどーい」

「フッ」

2人で笑った。

本当は、それ程重くなかったんだ。

とにかく戻る事にした。

「男の人の背中…父しか知らないから…意外と逞しいのね、城咲君」

時々ドキッとする事言うよな…

「私…ドキドキしてるのがわかる?」

「え?」

「…」

「わからないよ」

あんまり背中にくっつかないでほしいな…僕までドキドキしてくる。

神社の明かりが見えてきた…やれやれ…

神社まで戻ると、健人に電話した。

【神社の裏の奥】

〈健人の携帯が鳴る。健人にしがみつく晴香〉

「わっわっ、わー、もうびっくりしたー」

「携帯鳴っただけだろ…あ、星からだ」

【神社】

桜井さんの足のケガの事を話すと、2人は戻って来た。

「もー、本当怖かったんだから…あ、そうだ、私絆創膏持ってる…はい」

「ありがとう」

そして帰り道、いつも別れる三叉路…

「え?どうしてこっち?」

「もう遅いから送って行くよ。その足じゃ時間かかりそうだしね」

「ありがとう。本当は心細かったの」

【菜々のマンション】

女性の一人暮らし…

今日はもう遅いから、玄関にも入らないぞ、絶対。


彼女を部屋まで送り届けて、下に降りてふと見上げると…

ベランダから手を振っている…

「城咲君、またね」

〈手を挙げて応える星〉

ハア…帰ろ帰ろ…

【城咲家のリビング】

〈そして…〉

夏休みもそろそろ終わりだ。

今日姉上は、埼玉で演奏会が有る。

今部屋の掃除をしているらしくて、猫達が皆んな逃げて来た。

本当掃除機嫌いだよな。

〈電話が鳴る〉

「はい、城咲でございます」

「先生いらっしゃいますか?昨日現地入りして頂く予定でホテルをお取りしたのですが、お見えにならないので…」

って、大変だ!

僕は2階に駆け上がって、電話の内容を伝えた。

「あら~当日で良いと思ってたわ~」

「早く行かないと」

「今から行けば間に合うわよ~」

これだよ…

そして、演奏会にギリギリ間に合い、何事も無かったようにピアノを弾いたらしい。

ホッ…

もうすぐ9月、学内コンクールが始まる。

涼太と晴香は、夏休みの間も一緒に練習をしていたようだ。

コンクールの後は、秋のオルフェウス音楽祭だ。

オルフェウスアカデミーオーケストラと姉上が共演すると言っていたな。

桜井さんに聞いただけで、姉上とは話していないけれど…


【レッスン室】

〈ヴァイオリンを弾く星。曲はバッハのシャコンヌ〉

姉上が帰って来た。

〈陽はピアノの前に座る〉

僕がブラームスの雨の歌(ヴァイオリンソナタ第1番)を弾くと、姉上のピアノが入って来る。

そして、最初から一緒に弾く。

こうやって、ピアノとヴァイオリンが会話するのが楽しい。

ヴァイオリニストになろうかな、と思うのは、こんな時だな…

いやいや、こんな遊び半分の奴がプロになれる筈が無い。

そんな甘い世界ではないんだ。

それに…城咲陽の弟という目で見られるの嫌だし…

姉上は宇宙にたった一つの太陽で、僕は沢山有る星だから…

そして、曲が終わると、姉上のピアノが歌い始める。

ショパンのワルツ第7番だ。

こうしてピアノを聞いている時が一番幸せだな。

城咲陽のピアノを独り占め出来るファンは、僕ぐらいだろうね。

お姉様のピアノ大好きだよ。


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