12 / 26
第12章 悲しみの中で
しおりを挟む
【療養所】
〈診察室で精油などを袋に詰め込んでいる光の神〉
「小倉杏ちゃん怒ってたわよ。だって貴方と決着付ける為によその村の代表になったんだもの」
「済まないと思っている」
「まあ、仕方ないわよね。じゃ、そろそろ行くわよ」
【王宮フィナンシェ姫の部屋】
「(あの方がご無事で本当に良かった…いいえ、いけない。皆んなが無事で良かったのだわ)」
「失礼致します。姫様、越野餡様をお連れし致しました」
「お通ししてください」
〈フィナンシェ姫の胸が高鳴る〉
「(あの方も来てくださったかしら?)」
「どうぞお入りください」
「失礼致します」
〈餡先生が入って来る〉
「良く来てくださいました」
〈餡先生の後ろを見るフィナンシェ〉
「光君、早くいらっしゃい」
「只今参る」
〈大きな荷物を持って光の神が入って来る〉
「まあ、大変な荷物です事」
「精油やらクリスタルやら入ってるんです」
「フー…」
〈フーっと息を吐いて荷物を下ろす光の神と猫魔〉
「それにしてもあの時は大変だったニャ」
「ええ、皆さんご無事で何よりです」
「あの祈祷師から奴の臭いがしたのニャ。奴の魂が人間界に来てるニャ。またあの時みたいに大変な事になるニャ」
「猫魔さん、もう少し詳しく聞かせてくださいますか?あの時とは?」
〈餡先生は会話を聞いていないようで遠くを見て何か物思う〉
「え?あの神々が降りていらした時代ですか?」
「あの時は人間達が滅びると思ったニャ」
「言い伝えでは一人の人間が招いた事と」
「あの魔道士ニャ」
「ええ、その魔道士の魂が本当に?」
「餡先生?」
「さっきから何を気にしてるのニャ?」
〈静かに瞳を閉じる餡先生〉
「霊視か」
〈餡先生は霊視をしてしばらくすると目を開けて戸口に向かう〉
「騎士隊長さん、お願いが有るの」
「いかが致した?」
「私を陛下の…国王陛下のお部屋に連れて行ってください」
〈瞳を潤ませて訴える餡先生に少し驚く騎士隊長〉
「わ、わかった。参られよ」
「フィナンシェ姫様、少しお待ちくださいね」
「ええ…」
〈餡先生と騎士隊長が部屋を出て行く。何かを察したようで、誰もが口を噤む〉
「(お父様の具合が良くないの…少しでも生きていてほしいと思うのは、わたくしのわがままなのかしら?苦しむお父様を…陛下を楽にして差し上げた方が…でも…でもやっぱり生きていてほしい)」
【国王の部屋】
「う…うぅ…」
〈餡先生が国王の手を取ると国王は薄らと目を開ける〉
「そなた…は…来てくれた…のか…」
「ヒーリングしますので、少しお休みください」
「済まぬ…な…」
〈そう言うと国王は目を閉じた。瞳を潤ませながらヒーリングする餡先生。荒い息をしていた国王の呼吸が少しずつ静かになる〉
「(おそばに居て差し上げたい。その時まで…最期のその瞬間までそばに居て、少しでも痛みを和らげて差し上げたい)」
「そなた…名は何と…申した?」
「餡です。越野餡と申します」
「餡…フィナンシェを…姫を頼む…」
「はい」
〈目を潤ませながら頷く餡先生〉
「(フィナンシェ姫は私達でお護りします。必ず。必ず)」
「眠られたようだな」
「ええ…」
「もう良いか?」
「もう少し、もう少しだけ」
「…構わんよ」
「ありがとう…」
〈餡先生の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる〉
【フィナンシェ姫の部屋】
「あー、にゃんニャか腹減ったニャ」
「まあ、猫魔さんたら」
「(良かったニャ、フィナンシェちゃんちょっとだけ笑ったのニャ)」
「お待たせしました。さあ、始めましょうか」
〈言いながら餡先生が早足に入って来る〉
「ええ、お願いします」
【猫茶屋】
「あぁん、もう!私もお城に行きたかった」
「しょうがないだろう、猫まんまが付いて行っちまって、猫の手も借りたいぐらい忙しいんだからね。文句言わないで手伝いな」
「はーい(あぁん、月に一度の検診の日は私もお城に行っても良いって、フィナンシェちゃんが言ったのにー)」
「ニャー」
「ミミ、猫の手も借りたいぐらい忙しいのよ。ご飯ちょっと待ってね」
【療養所】
〈数日後。棚を整理する餡先生と光の神〉
「これはここにに置いて良いのかな?」
「うーん、良く使う精油は私の手の届く所に置いてね。いつもいつも光君に取ってもらえないでしょう?」
「承知した」
「これは、こっちね」
「た、た、た、大変だ!」
〈杵が息を切らして入って来る〉
「どうしたの杵さん。誰か怪我人?」
「怪我人どころじゃねえよ、し、し、し、死んじまったんだよ」
「えーっ?どうして早く連れて来ないの!」
「連れて来れるもんなら連れて来るさ」
「どういう事?」
「こ、こ、国王が、国王が死んじまった」
「え?今何て?」
「だから国王が」
「何て言ったの?何て?」
〈泣きながら聞き返す餡先生を抱き締める光の神〉
「崩御…されたのだ」
【王宮】
「姫様、いえ女王陛下。御即位おめでとうございます」
「おめでとうですって?ついさっきお父様が亡くなったのよ」
「も、申し訳ございません。ですが、戴冠の準備を」
「(父を亡くしたというのに、わたくしにはお別れを悲しむ時間も無いのですね…)一人になりたい」
「姫様」
「一人にさせて」
「ですが時間が」
「お願い一人に(いいえ、そばに…居てほしい…誰か…誰か…こんな時そばに居てほしいのは…そばに居てほしいのは…ハッ?!)」
〈光の神の姿が浮かぶ。一瞬驚き見開くフィナンシェ姫〉
「(あの方なのね…何故?何故懐かしいのかしら?遠い昔から知っていたような…こんな時、何故貴方はそばに居てくださらないの?)」
〈そして戴冠式が行われ貴族達が挨拶に訪れた。その中にはあのザッハトルテ公爵の一族も居た。薄ら笑いを浮かべながらフィナンシェを見るザッハトルテ公爵〉
「(フフフ、ハハハ、女王だと?小娘が。まあ良い。いずれその玉座から引きずり下ろしてくれるわ。その玉座に座るは、私のような者こそ相応しいというものだ」
【バルコニー】
〈新女王フィナンシェが国民の前に姿を現す〉
「わー!」
「キャー!」
「フィナンシェ様!」
「女王陛下万歳!!」
〈庭園からバルコニーのフィナンシェを見ている七都、満、シイラ達〉
【庭園】
「フィナンシェちゃん女王様になっちゃったね」
「もうフィナンシェちゃんなんて呼べないわね」
「そうそうお城も抜け出せないだろうし」
「女王様だもん、もう一人で街になんか来ないよ」
「じゃあもうフィナンシェちゃんとは会えないの?私の魚料理食べにマルシェにも来ないのかな?」
「しょうがないよ。女王様になっちゃったんだもん、もう私達となんて遊んでくれないよ」
「あら、そんな寂しい事を言わないで」
「フィナンシェちゃん!」
「オッホン。陛下参りますぞ」
「もう、嫌な爺」
〈侍従長に促されて七都達に小さく手を振り去って行く女王フィナンシェ。七都達と少し離れた所に居る光の神と猫魔。そばを通るフィナンシェの胸が高鳴る〉
「(あの方が微笑んでくださった。懐かしい微笑み。懐かしい…何故かしら?前に餡さんが「魂が感じるのよ」って言っていたわね…感じるのかしら?わたくしの魂。光さんは神様だって、猫魔さんが…本当なの?)」
「姫様、いえ女王陛下。お急ぎください」
「(地上に降りられた神々…そのお一人は光の神。猫魔さんが言っていた事は本当なの?あの方が光の神?そして人間として生まれて苦しむ人々を助けられたの。あの言い伝えの…)」
「陛下。晩餐会のお時間です」
「ええ、参りましょう」
【ブリのマルシェ】
「昨日の晩餐会でウチの魚達はどんな料理になったのかな?」
「そりゃ宮廷料理人が作るんだ、お前の料理とは比べものにならないぐらい豪華な料理になっただろうよ」
「フィナンシェ姫、じゃなかった。女王陛下は私の料理を「美味しい」って食べてくれたもん」
「お前何言ってんだ?まさかそんな事が有るわけないだろ」
「本当に食べてくれたんだもん。私の料理が食べたくてお城を抜け出して来てくれたんだもん」
「夢でも見たんじゃないか?それとも変なもんでも食ったか?」
「本当だもん。フィナンシェちゃんは私のイワシ団子が好きなんだもん」
「シイラさん」
「あ!フィ、フィ…」
「へい、いらっしゃい!」
「(来てくれたんだ、女王様になっても来てくれた)」
「おいシイラ。何ボサッとしてんだ?へい、お嬢さん、何しましょう?今日はカニの良いのが入ったんでね、どうです?」
「お父さんは黙ってて」
「シイラさんのお父様ですの?」
「お、お父様?俺が?こいつの親父ですけどね、お父様なんてそんな良いもんじゃ、ハハハ」
「もう、あっち行っててよ」
「イサキちゃん、ちょいと来とくれよ」
「ほら、真希おばちゃんが呼んでるよ」
「イサキちゃん」
「何だよ?海苔巻き。ちゃんはよせっていつも言ってるだろ?」
「あんただって。あたしゃ海苔巻きじゃなくて森真希だよ」
〈なんだかんだ言いながら森真希の所へ行くイサキ〉
「ふフフフ、何だか七都さんと栗金団さんみたいね」
「あの二人も幼馴染み。真希おばちゃんとウチのお父さんも幼馴染みなのよ」
「そうなのね。幼馴染みって良いものですね」
「そんな事より、良くお城を抜け出せたね。女王様になっちゃったから、もうここには来てくれないと思ったよ」
「どうしてそのように思うのです?」
「だって、姫様がここに来るんだって大変な事なのに女王様だよ。それに前より忙しいんじゃない?」
「ええ、確かに忙しいですけれど、それでもここへは来ます。ここへ来ればお友達に会えますもの」
「お城の中に友達は居ないって言ってたよね。じゃあ幼馴染みは?」
「居りません」
「そっか、ちょっと寂しいね。でもさ、私も七都も満も友達だからね」
「俺も居るニャ」
「猫まんま来たね。はい、魚取っといたよ」
「ありがとニャ。フィナンシェちゃん、俺も友達ニャ」
「二人共ありがとう」
「でもさ、フィナンシェちゃんのお父さん、国王陛下が亡くなったんだもん、服喪中じゃない。街に出て来ちゃって大丈夫?」
「城の中は息が詰まるの」
「そうか、そうだよね。まあさ、ここに居る間は楽しんで行きなよ」
〈マルシェの通路を光の神と満が店を見ながら歩いている〉
「満」
「なぁに?」
「欲しい物は有るか?」
「欲しい物?」
「何か買ってやりたいのだが」
「え?どうしちゃったの?お兄ちゃん。熱でも有るんじゃない?」
「熱など無いよ」
「じゃあ、雨でも降るんじゃないかしら」
「この着物はどうだ?」
「良いわよ、着物は高いもの」
「では髪飾りは?」
「そうね…」
「誕生日なのだから、遠慮はいらんよ」
「あ、そうだった。今日私誕生日だったのね。忙しくて忘れてたわ。お兄ちゃん良く覚えてたわね。前はプレゼントなんてくれた事無かったのに」
「(餡先生が教えてくれたのは黙っておこう)」
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「この子に似合いそうな髪飾りは有りますか?」
「可愛いお嬢さんだから、何だって似合いそうですよ。そうだな…この辺りのはどうです?」
「満。どっちが良い?」
「どっちも素敵ね」
「好きな方を選ぶと良い」
「お兄ちゃんが選んで」
「え?自分の好きな物が良いのでは?」
「お兄ちゃんが選んでくれた方が嬉しいの」
「しかしなぁ」
「お客さん、女心って奴ですよ」
「そんな物なのか?」
「そんな物です」
「では、こちらを貰おう」
「毎度!」
「本当に私が選んで良かったのかな?」
「お待ちどうさま」
〈光の神は品物を受け取り満に渡す〉
「ありがとう」
〈大事そうに胸に抱えて微笑む満〉
「(嬉しい!お兄ちゃんが私の為に髪飾りを買ってくれたの。私の為に選んでくれたの。ずっとずっと大切にするわ)」
【シイラの魚屋】
「あれ?満じゃない?光も一緒だ」
「えっ?」
〈光の姿を見つけフィナンシェの胸が高鳴る。そして同時に切なくなる〉
「(とっても仲が良いのね、妹さんと…血は繋がていないと聞いているけれど…)」
〈診察室で精油などを袋に詰め込んでいる光の神〉
「小倉杏ちゃん怒ってたわよ。だって貴方と決着付ける為によその村の代表になったんだもの」
「済まないと思っている」
「まあ、仕方ないわよね。じゃ、そろそろ行くわよ」
【王宮フィナンシェ姫の部屋】
「(あの方がご無事で本当に良かった…いいえ、いけない。皆んなが無事で良かったのだわ)」
「失礼致します。姫様、越野餡様をお連れし致しました」
「お通ししてください」
〈フィナンシェ姫の胸が高鳴る〉
「(あの方も来てくださったかしら?)」
「どうぞお入りください」
「失礼致します」
〈餡先生が入って来る〉
「良く来てくださいました」
〈餡先生の後ろを見るフィナンシェ〉
「光君、早くいらっしゃい」
「只今参る」
〈大きな荷物を持って光の神が入って来る〉
「まあ、大変な荷物です事」
「精油やらクリスタルやら入ってるんです」
「フー…」
〈フーっと息を吐いて荷物を下ろす光の神と猫魔〉
「それにしてもあの時は大変だったニャ」
「ええ、皆さんご無事で何よりです」
「あの祈祷師から奴の臭いがしたのニャ。奴の魂が人間界に来てるニャ。またあの時みたいに大変な事になるニャ」
「猫魔さん、もう少し詳しく聞かせてくださいますか?あの時とは?」
〈餡先生は会話を聞いていないようで遠くを見て何か物思う〉
「え?あの神々が降りていらした時代ですか?」
「あの時は人間達が滅びると思ったニャ」
「言い伝えでは一人の人間が招いた事と」
「あの魔道士ニャ」
「ええ、その魔道士の魂が本当に?」
「餡先生?」
「さっきから何を気にしてるのニャ?」
〈静かに瞳を閉じる餡先生〉
「霊視か」
〈餡先生は霊視をしてしばらくすると目を開けて戸口に向かう〉
「騎士隊長さん、お願いが有るの」
「いかが致した?」
「私を陛下の…国王陛下のお部屋に連れて行ってください」
〈瞳を潤ませて訴える餡先生に少し驚く騎士隊長〉
「わ、わかった。参られよ」
「フィナンシェ姫様、少しお待ちくださいね」
「ええ…」
〈餡先生と騎士隊長が部屋を出て行く。何かを察したようで、誰もが口を噤む〉
「(お父様の具合が良くないの…少しでも生きていてほしいと思うのは、わたくしのわがままなのかしら?苦しむお父様を…陛下を楽にして差し上げた方が…でも…でもやっぱり生きていてほしい)」
【国王の部屋】
「う…うぅ…」
〈餡先生が国王の手を取ると国王は薄らと目を開ける〉
「そなた…は…来てくれた…のか…」
「ヒーリングしますので、少しお休みください」
「済まぬ…な…」
〈そう言うと国王は目を閉じた。瞳を潤ませながらヒーリングする餡先生。荒い息をしていた国王の呼吸が少しずつ静かになる〉
「(おそばに居て差し上げたい。その時まで…最期のその瞬間までそばに居て、少しでも痛みを和らげて差し上げたい)」
「そなた…名は何と…申した?」
「餡です。越野餡と申します」
「餡…フィナンシェを…姫を頼む…」
「はい」
〈目を潤ませながら頷く餡先生〉
「(フィナンシェ姫は私達でお護りします。必ず。必ず)」
「眠られたようだな」
「ええ…」
「もう良いか?」
「もう少し、もう少しだけ」
「…構わんよ」
「ありがとう…」
〈餡先生の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる〉
【フィナンシェ姫の部屋】
「あー、にゃんニャか腹減ったニャ」
「まあ、猫魔さんたら」
「(良かったニャ、フィナンシェちゃんちょっとだけ笑ったのニャ)」
「お待たせしました。さあ、始めましょうか」
〈言いながら餡先生が早足に入って来る〉
「ええ、お願いします」
【猫茶屋】
「あぁん、もう!私もお城に行きたかった」
「しょうがないだろう、猫まんまが付いて行っちまって、猫の手も借りたいぐらい忙しいんだからね。文句言わないで手伝いな」
「はーい(あぁん、月に一度の検診の日は私もお城に行っても良いって、フィナンシェちゃんが言ったのにー)」
「ニャー」
「ミミ、猫の手も借りたいぐらい忙しいのよ。ご飯ちょっと待ってね」
【療養所】
〈数日後。棚を整理する餡先生と光の神〉
「これはここにに置いて良いのかな?」
「うーん、良く使う精油は私の手の届く所に置いてね。いつもいつも光君に取ってもらえないでしょう?」
「承知した」
「これは、こっちね」
「た、た、た、大変だ!」
〈杵が息を切らして入って来る〉
「どうしたの杵さん。誰か怪我人?」
「怪我人どころじゃねえよ、し、し、し、死んじまったんだよ」
「えーっ?どうして早く連れて来ないの!」
「連れて来れるもんなら連れて来るさ」
「どういう事?」
「こ、こ、国王が、国王が死んじまった」
「え?今何て?」
「だから国王が」
「何て言ったの?何て?」
〈泣きながら聞き返す餡先生を抱き締める光の神〉
「崩御…されたのだ」
【王宮】
「姫様、いえ女王陛下。御即位おめでとうございます」
「おめでとうですって?ついさっきお父様が亡くなったのよ」
「も、申し訳ございません。ですが、戴冠の準備を」
「(父を亡くしたというのに、わたくしにはお別れを悲しむ時間も無いのですね…)一人になりたい」
「姫様」
「一人にさせて」
「ですが時間が」
「お願い一人に(いいえ、そばに…居てほしい…誰か…誰か…こんな時そばに居てほしいのは…そばに居てほしいのは…ハッ?!)」
〈光の神の姿が浮かぶ。一瞬驚き見開くフィナンシェ姫〉
「(あの方なのね…何故?何故懐かしいのかしら?遠い昔から知っていたような…こんな時、何故貴方はそばに居てくださらないの?)」
〈そして戴冠式が行われ貴族達が挨拶に訪れた。その中にはあのザッハトルテ公爵の一族も居た。薄ら笑いを浮かべながらフィナンシェを見るザッハトルテ公爵〉
「(フフフ、ハハハ、女王だと?小娘が。まあ良い。いずれその玉座から引きずり下ろしてくれるわ。その玉座に座るは、私のような者こそ相応しいというものだ」
【バルコニー】
〈新女王フィナンシェが国民の前に姿を現す〉
「わー!」
「キャー!」
「フィナンシェ様!」
「女王陛下万歳!!」
〈庭園からバルコニーのフィナンシェを見ている七都、満、シイラ達〉
【庭園】
「フィナンシェちゃん女王様になっちゃったね」
「もうフィナンシェちゃんなんて呼べないわね」
「そうそうお城も抜け出せないだろうし」
「女王様だもん、もう一人で街になんか来ないよ」
「じゃあもうフィナンシェちゃんとは会えないの?私の魚料理食べにマルシェにも来ないのかな?」
「しょうがないよ。女王様になっちゃったんだもん、もう私達となんて遊んでくれないよ」
「あら、そんな寂しい事を言わないで」
「フィナンシェちゃん!」
「オッホン。陛下参りますぞ」
「もう、嫌な爺」
〈侍従長に促されて七都達に小さく手を振り去って行く女王フィナンシェ。七都達と少し離れた所に居る光の神と猫魔。そばを通るフィナンシェの胸が高鳴る〉
「(あの方が微笑んでくださった。懐かしい微笑み。懐かしい…何故かしら?前に餡さんが「魂が感じるのよ」って言っていたわね…感じるのかしら?わたくしの魂。光さんは神様だって、猫魔さんが…本当なの?)」
「姫様、いえ女王陛下。お急ぎください」
「(地上に降りられた神々…そのお一人は光の神。猫魔さんが言っていた事は本当なの?あの方が光の神?そして人間として生まれて苦しむ人々を助けられたの。あの言い伝えの…)」
「陛下。晩餐会のお時間です」
「ええ、参りましょう」
【ブリのマルシェ】
「昨日の晩餐会でウチの魚達はどんな料理になったのかな?」
「そりゃ宮廷料理人が作るんだ、お前の料理とは比べものにならないぐらい豪華な料理になっただろうよ」
「フィナンシェ姫、じゃなかった。女王陛下は私の料理を「美味しい」って食べてくれたもん」
「お前何言ってんだ?まさかそんな事が有るわけないだろ」
「本当に食べてくれたんだもん。私の料理が食べたくてお城を抜け出して来てくれたんだもん」
「夢でも見たんじゃないか?それとも変なもんでも食ったか?」
「本当だもん。フィナンシェちゃんは私のイワシ団子が好きなんだもん」
「シイラさん」
「あ!フィ、フィ…」
「へい、いらっしゃい!」
「(来てくれたんだ、女王様になっても来てくれた)」
「おいシイラ。何ボサッとしてんだ?へい、お嬢さん、何しましょう?今日はカニの良いのが入ったんでね、どうです?」
「お父さんは黙ってて」
「シイラさんのお父様ですの?」
「お、お父様?俺が?こいつの親父ですけどね、お父様なんてそんな良いもんじゃ、ハハハ」
「もう、あっち行っててよ」
「イサキちゃん、ちょいと来とくれよ」
「ほら、真希おばちゃんが呼んでるよ」
「イサキちゃん」
「何だよ?海苔巻き。ちゃんはよせっていつも言ってるだろ?」
「あんただって。あたしゃ海苔巻きじゃなくて森真希だよ」
〈なんだかんだ言いながら森真希の所へ行くイサキ〉
「ふフフフ、何だか七都さんと栗金団さんみたいね」
「あの二人も幼馴染み。真希おばちゃんとウチのお父さんも幼馴染みなのよ」
「そうなのね。幼馴染みって良いものですね」
「そんな事より、良くお城を抜け出せたね。女王様になっちゃったから、もうここには来てくれないと思ったよ」
「どうしてそのように思うのです?」
「だって、姫様がここに来るんだって大変な事なのに女王様だよ。それに前より忙しいんじゃない?」
「ええ、確かに忙しいですけれど、それでもここへは来ます。ここへ来ればお友達に会えますもの」
「お城の中に友達は居ないって言ってたよね。じゃあ幼馴染みは?」
「居りません」
「そっか、ちょっと寂しいね。でもさ、私も七都も満も友達だからね」
「俺も居るニャ」
「猫まんま来たね。はい、魚取っといたよ」
「ありがとニャ。フィナンシェちゃん、俺も友達ニャ」
「二人共ありがとう」
「でもさ、フィナンシェちゃんのお父さん、国王陛下が亡くなったんだもん、服喪中じゃない。街に出て来ちゃって大丈夫?」
「城の中は息が詰まるの」
「そうか、そうだよね。まあさ、ここに居る間は楽しんで行きなよ」
〈マルシェの通路を光の神と満が店を見ながら歩いている〉
「満」
「なぁに?」
「欲しい物は有るか?」
「欲しい物?」
「何か買ってやりたいのだが」
「え?どうしちゃったの?お兄ちゃん。熱でも有るんじゃない?」
「熱など無いよ」
「じゃあ、雨でも降るんじゃないかしら」
「この着物はどうだ?」
「良いわよ、着物は高いもの」
「では髪飾りは?」
「そうね…」
「誕生日なのだから、遠慮はいらんよ」
「あ、そうだった。今日私誕生日だったのね。忙しくて忘れてたわ。お兄ちゃん良く覚えてたわね。前はプレゼントなんてくれた事無かったのに」
「(餡先生が教えてくれたのは黙っておこう)」
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「この子に似合いそうな髪飾りは有りますか?」
「可愛いお嬢さんだから、何だって似合いそうですよ。そうだな…この辺りのはどうです?」
「満。どっちが良い?」
「どっちも素敵ね」
「好きな方を選ぶと良い」
「お兄ちゃんが選んで」
「え?自分の好きな物が良いのでは?」
「お兄ちゃんが選んでくれた方が嬉しいの」
「しかしなぁ」
「お客さん、女心って奴ですよ」
「そんな物なのか?」
「そんな物です」
「では、こちらを貰おう」
「毎度!」
「本当に私が選んで良かったのかな?」
「お待ちどうさま」
〈光の神は品物を受け取り満に渡す〉
「ありがとう」
〈大事そうに胸に抱えて微笑む満〉
「(嬉しい!お兄ちゃんが私の為に髪飾りを買ってくれたの。私の為に選んでくれたの。ずっとずっと大切にするわ)」
【シイラの魚屋】
「あれ?満じゃない?光も一緒だ」
「えっ?」
〈光の姿を見つけフィナンシェの胸が高鳴る。そして同時に切なくなる〉
「(とっても仲が良いのね、妹さんと…血は繋がていないと聞いているけれど…)」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる