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第25話 人は変われる
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「ヴァイゼン様。今までお世話になりました」
俺が頭を下げると、ヴァイゼンに叱られた。
「離縁したいだと? 番契約までしたというのに、何を言っている!」
「だって俺……。ヒートの時、最低でしたよね? ヴァイゼン様に跨ったり、いやらしいことをしてほしいって命令したり。ろくにお休みも取らせなかったし……」
「ヒートとはそういうものだろう」
「俺のこと、嫌いになったんじゃ?」
「なぜそうなる。ますます好きになったぞ」
ヒートが明けて、着替えと入浴を済ませた俺たちは遅い朝食をとっていた。ヴァイゼンはもりもりと白米を平らげている。無理をさせてしまったなあと俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ヴァイゼン様は巨鯨狩りで疲れたあとだったのに……。本当にごめんなさい!」
「正直、果ててしまいそうになった時もあったが、こうやって元気でいるじゃないか。だから、ヒートの際に起きたことは不問にする」
「どうせなら、記憶喪失になればいいのに。俺、いやらしいこといっぱい言ってしまいました!」
恥ずかしくてヴァイゼンの顔をまともに見られない。
俺が南域の伝統衣装、ソレルの袖で顔を隠していると、ヴァイゼンが近づいてきた。そして、俺の体をそっと抱きしめた。
「これから何度でもあることなんだから。気にするな」
「次のヒートは秋ですね……」
「それ以外の期間は、抱かせてくれないのか?」
「い、今の俺に聞かないでください!」
「はははっ。きみは本当に愛らしいなあ」
俺の旦那様はいつもこうだ。
鷹揚で、どっしり構えていて、俺のワガママをなんでも受け止めてくれる。
「俺、……ヴァイゼン様に尽くします」
「充分やってくれてるよ。また塩むすびを作ってくれ」
「はい、いくらでも!」
「なあ、レムート。ここでの暮らしが好きか?」
「それはもう」
「よかった。きみは居場所を見つけたんだな」
ヴァイゼンは俺の前髪をさらりと指先で弄んだ。
「初めて会った時のきみは……とても傷ついていたな」
「俺は自分がオメガであることが嫌でたまりませんでしたから」
「でも、きみは変わった。姉上の作業所に通い、俺に愛妻弁当を作り、南域の歌も覚えた」
「人って……変われるものなんですね」
「これからだって、どんどんきみは成長していくだろう。なんと言っても、きみはまだ18歳なんだから」
「俺……ヴァイゼン様の赤ちゃんが欲しいけど、しばらくはあなたと二人っきりの生活を送りたいな」
「ああ。子どもはあと一年後ぐらいにできれば理想的だな」
「でも、授かりものですからね」
「うん。そうだな」
俺たちは互いに「あーん」をして、残りの料理を食べ進めた。
南域の自然の恵みが、俺の体を養ってくれる。俺は元気を取り戻した。
「ヴァイゼン様。愛してます」
「俺の方が、もっときみを愛してるよ」
海のように心が広い旦那様と暮らして、俺の運命は変わった。
神様は天に星、地に花を与えた。
そして俺という人間には、ヴァイゼンとの出会いをくれた。
俺、もうオメガだからって自己否定するのはやめる。ヴァイゼンが愛してくれた俺を、自分でも好きになる。
すべての恵みに感謝します。
俺はまだまだ良妻には程遠い悪妻だけど、ヴァイゼンとの時間を大切にします。
「レムート。海を見に行こうか」
「はい!」
ヴァイゼンが俺を横抱きにして、海辺へと運んでいく。
寄せては返す波が、美しいリズムを刻んでいる。天然の音楽だ。
俺は愛しい人とともに、すべての命が生まれた場所を眺めた。
俺が頭を下げると、ヴァイゼンに叱られた。
「離縁したいだと? 番契約までしたというのに、何を言っている!」
「だって俺……。ヒートの時、最低でしたよね? ヴァイゼン様に跨ったり、いやらしいことをしてほしいって命令したり。ろくにお休みも取らせなかったし……」
「ヒートとはそういうものだろう」
「俺のこと、嫌いになったんじゃ?」
「なぜそうなる。ますます好きになったぞ」
ヒートが明けて、着替えと入浴を済ませた俺たちは遅い朝食をとっていた。ヴァイゼンはもりもりと白米を平らげている。無理をさせてしまったなあと俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ヴァイゼン様は巨鯨狩りで疲れたあとだったのに……。本当にごめんなさい!」
「正直、果ててしまいそうになった時もあったが、こうやって元気でいるじゃないか。だから、ヒートの際に起きたことは不問にする」
「どうせなら、記憶喪失になればいいのに。俺、いやらしいこといっぱい言ってしまいました!」
恥ずかしくてヴァイゼンの顔をまともに見られない。
俺が南域の伝統衣装、ソレルの袖で顔を隠していると、ヴァイゼンが近づいてきた。そして、俺の体をそっと抱きしめた。
「これから何度でもあることなんだから。気にするな」
「次のヒートは秋ですね……」
「それ以外の期間は、抱かせてくれないのか?」
「い、今の俺に聞かないでください!」
「はははっ。きみは本当に愛らしいなあ」
俺の旦那様はいつもこうだ。
鷹揚で、どっしり構えていて、俺のワガママをなんでも受け止めてくれる。
「俺、……ヴァイゼン様に尽くします」
「充分やってくれてるよ。また塩むすびを作ってくれ」
「はい、いくらでも!」
「なあ、レムート。ここでの暮らしが好きか?」
「それはもう」
「よかった。きみは居場所を見つけたんだな」
ヴァイゼンは俺の前髪をさらりと指先で弄んだ。
「初めて会った時のきみは……とても傷ついていたな」
「俺は自分がオメガであることが嫌でたまりませんでしたから」
「でも、きみは変わった。姉上の作業所に通い、俺に愛妻弁当を作り、南域の歌も覚えた」
「人って……変われるものなんですね」
「これからだって、どんどんきみは成長していくだろう。なんと言っても、きみはまだ18歳なんだから」
「俺……ヴァイゼン様の赤ちゃんが欲しいけど、しばらくはあなたと二人っきりの生活を送りたいな」
「ああ。子どもはあと一年後ぐらいにできれば理想的だな」
「でも、授かりものですからね」
「うん。そうだな」
俺たちは互いに「あーん」をして、残りの料理を食べ進めた。
南域の自然の恵みが、俺の体を養ってくれる。俺は元気を取り戻した。
「ヴァイゼン様。愛してます」
「俺の方が、もっときみを愛してるよ」
海のように心が広い旦那様と暮らして、俺の運命は変わった。
神様は天に星、地に花を与えた。
そして俺という人間には、ヴァイゼンとの出会いをくれた。
俺、もうオメガだからって自己否定するのはやめる。ヴァイゼンが愛してくれた俺を、自分でも好きになる。
すべての恵みに感謝します。
俺はまだまだ良妻には程遠い悪妻だけど、ヴァイゼンとの時間を大切にします。
「レムート。海を見に行こうか」
「はい!」
ヴァイゼンが俺を横抱きにして、海辺へと運んでいく。
寄せては返す波が、美しいリズムを刻んでいる。天然の音楽だ。
俺は愛しい人とともに、すべての命が生まれた場所を眺めた。
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