やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その9-01

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 セスの結婚式後、数日と1週間ほどステイしていったアイラの両親も、それぞれに去って行き、アイラと廉の日常が戻り始め出し、季節は真夏の8月へと突進していった。

 まだまだ暑い日々が続き、夏の終わりを見せない乾いた風が、街並みを軽く通り過ぎていくようだった。

 そんなある日、アイラの母親からの電話を受け取っていたアイラが、居間で立ちながら話をしていて、
「――いつ……?」

 その声が震えて、廉は即座に椅子から立ち上がっていた。

 すぐに、アイラに腕を伸ばして、アイラの顔を覗きこんだ。

 覗き込んだ先でアイラの瞳には涙が溢れていて、一度、深い瞬きをすると一緒に、その涙が、ツーっと、頬を流れ落ちていった。

「――そう……。わかった――。決まり次第、連絡するから……」

 アイラが電話を切り、瞳を瞑ったままアイラは廉を見ない。

「アイラ、どうしたんだ?」

 廉が、スーッと、アイラの横髪を梳いていきながら、その頬を包み込むようにした。

「――Pop が……今朝、亡くなったの……」
「そうか――」

 廉がアイラを引き寄せて、そっと抱き締めていく。

「それで……来週の初めに葬儀があるから、イギリスに行くから……」
「わかった」

 アイラの頭が垂れていって、顔を上げないアイラの肩が震え出していた。

 それで、そのアイラを包み込むように、廉が強く抱き締めて、アイラの髪の毛にそっとキスをした。

「アイラ、おじいさんが亡くなって、――とても残念だと思う」
「うん……、年だから……仕方ないけど――」

 それでも、一度会ったきりのアイラの祖父だったが、あの時だって、アイラがどれほど祖父を大切にして、とても愛していたか、他人の廉にだって簡単に見て取れた。

「いつ発つことになる?」
「明日、チケットを予約してみてから……」

「アイラ、俺も一緒に行ったら、迷惑になる?」

 それで、アイラが少しだけ顔を上げて、廉を見返す。

「仕事――あるから、いいわよ」
「明日、待ってくれたら、調整できると思う。俺がいたら、迷惑になる?」

「ならないわ」
「だったら、明日は待ってみて。たぶん、週末前には、飛び立てると思うから」

 うんと、アイラは頷いて、そのまま腕を伸ばして、ぎゅうっと、廉にしがみついていった。

 そのアイラを、廉が強く抱き締め返す。

「アイラ、今は泣いていいんだ。誰も見てないから」
「うん……。Pop が、亡くなっちゃった……」

 アイラの涙が廉のシャツを通して伝わってくる。

 その肩が震えているのに、アイラの泣き声は聞こえなかった。

「強がりばかりだ」
「いいの……」

 廉は抱き締めながら、そっと、アイラの額にもキスをしていた。

 そして、廉は少しアイラを押し返すようにして、その動きで廉を見返したアイラを、少し屈んで抱き上げていた。

「ベッドで泣いたら、その後も眠れるから」

 廉がアイラを抱き上げたまま寝室に連れて行き、ゆっくりと、ベッドにアイラを寝かせるようにした。

 それが終わると、そのまま廉も横になって行き、アイラを引き寄せながら、また、しっかりと抱き締めて行った。

「泣いていいよ。その後は、休めばいい」
「目が、腫れるわ――」

「明日は仕事を休めばいいだけだ」

 泣いていいよ――と、廉がアイラの額に優しくキスを落とし、アイラはそのまま廉にしがみついていた――


* * *


「アイラ――」
「Nana」

 アイラは腕を伸ばして、すぐに、アイラの祖母に抱きついていった。

 アイラの祖母がアイラを抱き締め返して、アイラの胸に顔を埋める。

「よく来てくれたわ……」
「Nana――」

 アイラは、もう一度、アイラの祖母を、ぎゅっと、抱き締めて、それから、少しだけその腕を緩めていくようにした。

 それで、アイラの祖母の視界に、アイラの後ろに立っている廉の姿を認めて、アイラの祖母が瞳を細めて微笑みをみせた。

「よく、来てくれたのね。ありがとう……」
「お久しぶりです」

 アイラの祖母が廉に腕を伸ばし、その細い腕で、廉もしっかりと抱き締めていた。

 廉がその抱擁を少し返すように、そっと、アイラの祖母を抱き返す。

「ギデオン」

 アイラが、後ろに来ていたギデオンにも抱きついていった。
 ギデオンもアイラを抱き締め返し、そして、前に立っている廉を見やる。

「久しぶり」
「そうだな。セスの結婚式は、逃げたくせしてな」

 廉は、少々、微苦笑をみせたが、それはあまり否定しない。

 ギデオンはアイラから離れて、その腕を伸ばし、廉も抱き締めるようにした。

「あんた、あんまり変わらないじゃん」
「まあ」

 まさか、アイラの身内――兄弟の一人から、家族の抱擁をされるとは思いもよらず、廉も、一応、腕を上げて、ギデオンの肩を抱くようにした。

「中に入れよ。結構、集まってるから、挨拶も済ませれるだろうし」

 ギデオンが、そっと、アイラの祖母を促すようにして、家の中に戻っていき、アイラと廉は荷物をその入り口に置いて、二人の後をゆっくりとついていく。

「ギデオンは、まだここに住んでいたんだ」

「そう……。やっぱり、Pop とNana だけじゃ心配だし。それに、ギデオンは大学のペーパーがまだ残ってるから、大学通ってる間は、ここから通ってるのよ。ジェイドも、週末とかはここに泊まってるわ。ショウの家族も、1~2週間に一度くらいは遊びにくるし」

「大きな家なんだね」

「そうね。5人も息子や娘がいるから。大きくなって孫が生まれて、もっとたくさんになったし」

 廊下を歩いていく廉の横には、大小異なったたくさんの写真が壁に飾られていた。
 どれも、その時々の時代を映しているもので、家族写真があったり、子供達の写真があったり、新しいひ孫の写真があったりと、たくさんの家族の歴史がそこに飾られていた。

 居間に足を進めていくと、ギデオンの話した通り、アイラの伯父・叔父や伯母・叔母がほとんど揃っているようだった。

 アイラと廉が入ってきたので、それぞれにソファーや椅子や、持ってきていた折りたたみの椅子から立ち上がっていく。

「アイラ」
「伯母さん」

 そこにいる全員の抱擁が繰り返されて、そこにいる廉も同じようにそれを繰り返し、一応の挨拶を終わらせていた。

「二人とも、よく来てくれたわ。今夜の泊まる所は大勢だけど、部屋を詰めれば、なんとかなると思うのよね」

 美花の母親の春香と、アイラの伯母で2番目の娘のグエンがその相談をしていた。

 アイラの母親が廉とアイラにジュースを運んできて、それぞれに、色々な場所に座り直すが、居間はそこに集まった身内で溢れ返っていた。

「その心配はいらないわ。近くのB&Bに泊まるから。ここから、車で15分もしない所に一つあるし」
「あら、でも――そんな面倒なことをしなくても」

「部屋は、伯父さん達と伯母さん達が泊まればいいのよ。それに、ショウとか来たら、子供がいるから、家にステイする方が楽だろうし。子供がいない孫組みは、そこらで泊まるからいいのよ」
「でもね……」

 アイラの言っていることは理に適っているのだが、それでも、アメリカから飛んできたアイラ達が、モーテルやホテルで泊まるのも気の毒に思えてしまう春香なのだ。

「大丈夫よ。伯母さん達の方が疲れてるじゃない。すぐに飛んできたんでしょう?」
「そうだけどね」

「ミカはいつ来るって?」
「時間が取れないから、土曜には飛ぶって、言っていたわ」

「そっか」

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