やっぱりやらねば(続)

Anastasia

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アイラと廉

その8-05

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 グレナは少し膨れたような顔をして、夫の胸に顔を当てながら、また横になっていく。

 その頭を撫でながら、グレナの夫も、なんとなく、まだ天井を見上げていた。

「――立派な家だね」
「そうよね。驚いちゃった」

「その家を買い取る――とはね」
「パパだったら、息子が家を欲しがったら、安くする?」

「私は――そうだね。ある程度の額は、提示するだろうけど」

「まあ、パパならそうかしら。でも、タダではあげないわよね。やっぱり、自分の家くらいは、稼げるようになって、買えばいいんだもの」

「そうだね」

 二人とも自立を向上しているので、実の息子達だろうと、タダで持ち家などを譲ったりはしない。

「ねえ、レンって、稼げるのかしら?」
「さあねえ」

「やっぱり、そこら辺も、しっかり聞いておかないと、ダメよねぇ。アイラったら、肝心なことが、抜けてるんだから」

「レンも――それを予測しているような感じだったかな。だから、それほど気にしないだろうね」
「そう?」

「そう。――まあ、あの息子達を相手にするんだから、ある程度、鋭くなきゃ、やってられないだろう」

 かなり行き過ぎの傾向がある息子達を自慢するのではないが、あの息子達を相手にするなら、やはり、相手もそれ並の頭の鋭さがないと、付き合ってもいられないだろう。

 だから、のらりくらりと交わしている廉の淡々とした態度ではあっても、廉がかなり頭の切れる青年だというのは――アイラの父親はすぐに気が付いていた。

 長男は、趣味でマリーンに転属を望むような男だったが、当初の仕事は、海軍機密情報機関部に所属していたのである。

 影に潜むのが退屈で、自分からマリーンに――格下げだったのか――志願していったのも、かなりの変わり者である。

 今は、プライベートのセキュリティー会社に移行したようだったが、自分で設立した会社なのか、知り合いの会社に転がり込んでいったのか――そこら辺も、父親であっても、はっきりしないのではあったが。

 本人は、ただ、どこそこで働くことにした、との簡潔な報告だけを済ましているのであるから。

 そして、次男坊といえば、ロンドンでも屈指の、大きな保険会社のセキュリティーチームの一員である。

 保険会社であるので、事務的な要素が多いと思いがちだが、次男坊が所属している部署は、保険を下ろす際に当たっての、裏を取る部署であった。

 有名な芸術作品の保険も組み込まれているらしく、その盗作まがいの作品の確認も仕事のうちであるし、ヨーロッパ周辺では、大企業の買収に関する保険も扱っているらしく、その横領や贈収賄の裏確認や取り調べも、仕事のうちに入っているらしいとは聞いている。

 昔からスパイごっこが好きな二人だったが、まさか、大人になってまでも、そんな危ない橋を渡ることを好むとは、父親とて、一体、誰が想像したであろうか。

 次男坊の方は、その保険会社の関係からか、政府の機密機関からも、幾度かお声がかかっているらしい――とも、カイリの方から、何となく聞いている。

 本人が政府に捕らわれる気はないらしく、たまに仕事は請け負っているようだが、未だに、あの保険会社に所属している。

 少しはまともに育ってくれた一番末っ子は、一族内でも末っ子だけに、つい、皆で寄ってたかって構ってしまう。

 その本人は、大学の書類に埋もれている状態だ。
 たまに会いに行っても、自室は本が山だらけに積まれていて、ペーパーが、そこらに積み重なっているような状態ばかりを目撃している。

 本に没頭しているような息子であるから、あのまま大学に居座るかな――と、多少、平凡を離れてしまった上二人の息子と比べて、かなり安堵をしている父親でもあった。

「レンは――不思議な青年だね」

 その暗に潜んだ口調が、グレナの質問攻めが終わって、廉の新しい情報が入ってくるのを待ちきれないかな――との含みも感じられて、グレナは夫の胸の上で、くすっと、笑っていた。

「1週間でも足りないわぁ……。4年も会ってないのよ」
「そうだねぇ。私は、ママがいたいなら、長くステイしててもいいだけどね」

「それは、嬉しいけれど……、アイラも仕事があるから、1日中、一緒にいられるんじゃないしね。長くいたら、レンにも悪いでしょう?」

「気にしているようには、見えなかったかな」

「そうかもしれないけど――、昼間は、一人でブラブラすることになるだろうしね。ミカが、もしかしたら、2~3日寄れるかもしれない、とは言っていたから、ミカとも、久しぶりにお喋りできるかしらね」

「ミカも、今回は大変だったねえ。グエンも、ミカがいなかったら、結婚式ができたかどうか――と、心配していたくらいだから」

「そうね。セスは――ちょっと怠慢ね。親戚を呼ばないように――とかって、考えていたんでしょうけれど、無理があるのよ。大体、うちの一族揃って、そんなことが許されるはずもないのにね」

「そうだね。セスも、もう少し、頭のいい子だと思っていたんだが、そこら辺が甘いな」

 叔父と叔母であろうと、厳しい所は厳しいのである。

 一族を無視することなど到底不可能で、そんなことも誰一人許す人間もいなくて、初めから諦めていればよいものを、親戚は後かなぁ――と、一瞬でも望んだセスが、甘いのである。

 アイリーンの為を思っての事情とは知らずとも、やはり、そこら辺が甘いのである。

「ねえ、いい結婚式だったわよね」
「そうだね」

「うちの頼りない息子達は、いつになったら、あんな結婚式を挙げるのかしらぁ。いつなのよぉ……」

 恨みがましい口調だったが、半分、眠りかかったような、寝ぼけた妻の様子に笑いながら、ポンポンと背中を叩いて、その妻を隣にちゃんと眠らせるようにしていた。

「パパぁ……」
「なんだい?」

「初孫欲しいわよねぇ」
「欲しいね」

「そうよね。――やっぱり、カイリには、帰る前に、ちゃんと言い聞かせておかなきゃ」
「がんばりなさい。初孫――は、いいねえ。グエンが自慢していたじゃないか」

「そうよぉ……」
「そうだね」

 グレナは、隣の夫の腕に顔を寄せるようにしてしがみつきながら、緩やかな睡魔に身をゆだねて、そこで目を瞑っていたのだった。

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