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音の衝撃波
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チャドを安全な場所へ運ぶ少年らに加え、主人であるアンドレイが戦場を離れた後、アンナ・マグダレーナの霊体と対峙するシアラは、その手に小さな銀色の棒を数本持った状態で相手の出方を伺っていた。
それと言うのも、彼女の手にする特殊なアイテムが音を増幅したり反射させるなど、謎の人物達を従える特異な霊体の攻撃とよく似た特徴を持っているからだった。
だが同時に、設置型のアイテムというものは相手も同じように利用することが出来るというのがデメリットでもある。それも同じ特徴を持ったスキルや能力を有する者同士であれば尚更の事。
安易に設置して仕舞えば、自分にもその刃が降りかかる事にもなるからだ。幸い正気を失っている状態と思われるアンナの霊体には、生者であるシアラを盲目的に攻撃するというような単純な意図でしか動いていないのが救いだろう。
彼女もそれに勘付いているのか、すぐに訪れるであろう敵の攻撃に備えているという状態で、その目はアンナの霊体を視界に捉え続けている。彼女がアンドレイらを追いかけるかどうかは分からないが、今この場でまともに戦える戦力はシアラ一人しかいない。
そんな彼女の元に、周囲で謎の人物達と戦っていた教団の護衛が援護に駆け付けてくれた。相手の手の内がまだ分からないシアラにとって、我が身を危険に晒さず相手の攻撃を観察する機会が得られるというのは、貴重なアドバンテージとなるだろう。
「すまない、敵の襲撃を受けて駆けつけるのが遅れた。状況はどうだ?」
「最悪・・・って程ではないけれど、少し手をこまねいているわ。私と彼女とでは相性が悪くて・・・」
「相性?」
「彼女、音を使った攻撃をするのよ。そこを壊したのも彼女の音の衝撃波によるもの」
教団の護衛はシアラの話を信じられないと言った様子で聞いていた。しかし実際に音によって物体を破壊するという現象自体は存在する。よく知られているもので例えるならば、人の出す声によってガラス製のグラスを割ったりするものがある。
これは物体にはそれぞれ固有の周波数というものが存在し、これを共振周波数と呼ぶ。その周波数と音程を合わせる事により、手を触れずにグラスなどを割っているのだ。
だが当然ながら、より硬度の高いものになると人の声だけではどうにもならない。それを可能にしているのが魔力であったり、シアラの用いているアイテムなのだ。
「音か・・・。目に見えないのは厄介なものだな」
「幸い、発生源は分かるわ。彼女の口に注目するのよ。向こうもスピーカーなどを使って振動を増幅させている。要は音の鳴る場所と瞬間に注意すれば対処は可能よ」
「なるほど・・・」
とは言うものの、音の発生を聞いてからであっては到底避けられるものではない。それでも外で受けたアンナの霊体が使った衝撃波は、その威力が故か空気の歪みを目で確認する事ができ、シアラ一人であれば範囲から脱出することもできた。
それは単に、彼女が音に関する攻撃の知識を持っていたからに過ぎない。それでも教団の護衛に与えた情報は決して間違えていない。無知で挑むよりも、遥かに生存率を上げた事だろう。
漠然とした攻略法を教えることで、シアラは彼に戦えるかも知れないという自信という名のバフを付与したのだ。
彼女らが話している間に、アンナの霊体は両手を広げながらゆっくりと上げていく。同時に彼女の周りには、シアラ達の方を向いた大砲のようなスピーカーが出現していく。
その間に入口の物音を聞きつけた警備隊や護衛が数人集まってきてくれた。彼らと情報を共有し、シアラが自らのスキルで彼らを援護するという形で、ついに戦闘が再開される。
大きく息を吸ったアンナ。そして彼女が高音の声を発すると、彼女自身の口と周囲に召喚されたスピーカーから、空気の震えのようなものが生じ、シアラ達の元へ迫ってくる。
「今よ!」
シアラの声で散会する一行。音の衝撃波は彼女の声で発生したものと、スピーカーから放たれたものでそれぞれ違った伝わり方をしているのが分かった。
アンナの声は口から波紋状に広がり、広範囲に広がりながら威力を弱め、比較的ゆっくりとした速度で迫るタイプのもの。そして大きなスピーカーから放たれた衝撃波は、宛ら砲撃のように貫通力と速度のある直線的な伝わり方をしていたのだ。
スピーカーの攻撃はアンナの声に反応し、対象へ向けて放たれる為、やや本体であるアンナの攻撃との間にラグが生じている。故にシアラのアドバイス通り、スピーカーが向いている方向にさえ気をつけていれば回避は可能だった。
しかしながら、アンナ自身の声による攻撃は彼女と離れていれば離れているだけ避けづらいものになっており、手が届くくらいの近距離でなければとても避け切る事は出来ない攻撃になっていた。
「うッ・・・!」
「かっ身体に力がッ・・・!」
攻撃を避けた先で、護衛達が皆一様に膝をついて足を止めてしまう。大きなダメージこそないものの、一時的な麻痺状態になってしまっているようだ。
シアラは皆には黙っていたアイテムを足元に放つ事により、音の振動を和らげており一切ダメージや状態異常などを受けていなかった。自分だけ回避手段を持っている事により、護衛達に対し不信を抱かせる前に、蜘蛛の糸のように肉眼では捉えづらい糸を引き、アイテムを回収する。
それと同時にシアラは後方へと飛び退き、場に不相応なほど優雅で美しい踊りを踊り始めた。だがそれは、前線で動きを止めてしまっていた護衛達を、麻痺から救うばかりではなく、身体能力を向上させるバフをも付与した。
音楽家アンドレイ・ネルソンスの護衛の一人であるシアラは、踊り子のクラス有するサポート性能に優れた能力とスキルを持ち合わせていたのだ。だがそれでは、彼女の言っていたアンナと似た能力であるという話と辻褄が合わない。
つまりシアラは、ミアのように二つのクラスに就いているという事になる。そしてそれこそが彼女の攻撃手段であり、もう一つの戦闘において主体となるクラスなのだろう。
それと言うのも、彼女の手にする特殊なアイテムが音を増幅したり反射させるなど、謎の人物達を従える特異な霊体の攻撃とよく似た特徴を持っているからだった。
だが同時に、設置型のアイテムというものは相手も同じように利用することが出来るというのがデメリットでもある。それも同じ特徴を持ったスキルや能力を有する者同士であれば尚更の事。
安易に設置して仕舞えば、自分にもその刃が降りかかる事にもなるからだ。幸い正気を失っている状態と思われるアンナの霊体には、生者であるシアラを盲目的に攻撃するというような単純な意図でしか動いていないのが救いだろう。
彼女もそれに勘付いているのか、すぐに訪れるであろう敵の攻撃に備えているという状態で、その目はアンナの霊体を視界に捉え続けている。彼女がアンドレイらを追いかけるかどうかは分からないが、今この場でまともに戦える戦力はシアラ一人しかいない。
そんな彼女の元に、周囲で謎の人物達と戦っていた教団の護衛が援護に駆け付けてくれた。相手の手の内がまだ分からないシアラにとって、我が身を危険に晒さず相手の攻撃を観察する機会が得られるというのは、貴重なアドバンテージとなるだろう。
「すまない、敵の襲撃を受けて駆けつけるのが遅れた。状況はどうだ?」
「最悪・・・って程ではないけれど、少し手をこまねいているわ。私と彼女とでは相性が悪くて・・・」
「相性?」
「彼女、音を使った攻撃をするのよ。そこを壊したのも彼女の音の衝撃波によるもの」
教団の護衛はシアラの話を信じられないと言った様子で聞いていた。しかし実際に音によって物体を破壊するという現象自体は存在する。よく知られているもので例えるならば、人の出す声によってガラス製のグラスを割ったりするものがある。
これは物体にはそれぞれ固有の周波数というものが存在し、これを共振周波数と呼ぶ。その周波数と音程を合わせる事により、手を触れずにグラスなどを割っているのだ。
だが当然ながら、より硬度の高いものになると人の声だけではどうにもならない。それを可能にしているのが魔力であったり、シアラの用いているアイテムなのだ。
「音か・・・。目に見えないのは厄介なものだな」
「幸い、発生源は分かるわ。彼女の口に注目するのよ。向こうもスピーカーなどを使って振動を増幅させている。要は音の鳴る場所と瞬間に注意すれば対処は可能よ」
「なるほど・・・」
とは言うものの、音の発生を聞いてからであっては到底避けられるものではない。それでも外で受けたアンナの霊体が使った衝撃波は、その威力が故か空気の歪みを目で確認する事ができ、シアラ一人であれば範囲から脱出することもできた。
それは単に、彼女が音に関する攻撃の知識を持っていたからに過ぎない。それでも教団の護衛に与えた情報は決して間違えていない。無知で挑むよりも、遥かに生存率を上げた事だろう。
漠然とした攻略法を教えることで、シアラは彼に戦えるかも知れないという自信という名のバフを付与したのだ。
彼女らが話している間に、アンナの霊体は両手を広げながらゆっくりと上げていく。同時に彼女の周りには、シアラ達の方を向いた大砲のようなスピーカーが出現していく。
その間に入口の物音を聞きつけた警備隊や護衛が数人集まってきてくれた。彼らと情報を共有し、シアラが自らのスキルで彼らを援護するという形で、ついに戦闘が再開される。
大きく息を吸ったアンナ。そして彼女が高音の声を発すると、彼女自身の口と周囲に召喚されたスピーカーから、空気の震えのようなものが生じ、シアラ達の元へ迫ってくる。
「今よ!」
シアラの声で散会する一行。音の衝撃波は彼女の声で発生したものと、スピーカーから放たれたものでそれぞれ違った伝わり方をしているのが分かった。
アンナの声は口から波紋状に広がり、広範囲に広がりながら威力を弱め、比較的ゆっくりとした速度で迫るタイプのもの。そして大きなスピーカーから放たれた衝撃波は、宛ら砲撃のように貫通力と速度のある直線的な伝わり方をしていたのだ。
スピーカーの攻撃はアンナの声に反応し、対象へ向けて放たれる為、やや本体であるアンナの攻撃との間にラグが生じている。故にシアラのアドバイス通り、スピーカーが向いている方向にさえ気をつけていれば回避は可能だった。
しかしながら、アンナ自身の声による攻撃は彼女と離れていれば離れているだけ避けづらいものになっており、手が届くくらいの近距離でなければとても避け切る事は出来ない攻撃になっていた。
「うッ・・・!」
「かっ身体に力がッ・・・!」
攻撃を避けた先で、護衛達が皆一様に膝をついて足を止めてしまう。大きなダメージこそないものの、一時的な麻痺状態になってしまっているようだ。
シアラは皆には黙っていたアイテムを足元に放つ事により、音の振動を和らげており一切ダメージや状態異常などを受けていなかった。自分だけ回避手段を持っている事により、護衛達に対し不信を抱かせる前に、蜘蛛の糸のように肉眼では捉えづらい糸を引き、アイテムを回収する。
それと同時にシアラは後方へと飛び退き、場に不相応なほど優雅で美しい踊りを踊り始めた。だがそれは、前線で動きを止めてしまっていた護衛達を、麻痺から救うばかりではなく、身体能力を向上させるバフをも付与した。
音楽家アンドレイ・ネルソンスの護衛の一人であるシアラは、踊り子のクラス有するサポート性能に優れた能力とスキルを持ち合わせていたのだ。だがそれでは、彼女の言っていたアンナと似た能力であるという話と辻褄が合わない。
つまりシアラは、ミアのように二つのクラスに就いているという事になる。そしてそれこそが彼女の攻撃手段であり、もう一つの戦闘において主体となるクラスなのだろう。
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