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戦う者達と消える者達
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身体から痺れの消えた護衛達は、一斉に自らの武器にそれぞれの得意分野であろう属性を纏い攻勢へと転じる。援軍に駆けつけた護衛は全部で五人。
彼らは即座に標的の分担をし、三人でアンナの召喚したスピーカーの破壊。そして残りの二人で直接アンナを狙いに行った。シアラの踊り子のスキルにより、普段よりも身体が軽く早く動けるようになった彼らは、その教団の護衛の名に恥じない働きを見せる。
スピーカーを破壊する役割を担った三人は、次々にスピーカーを破壊し敵の攻撃手段を奪う。アンナを狙う二人の護衛の刃が彼女に向かって振り抜かれる。得体の知れぬ相手に、彼らも女だからと躊躇うこともなく、ましてや容赦するような事もなかった。
左右から息のあった攻撃がアンナを襲う。しかしそこで新たな情報が明らかになった。彼らの奮った刃は、彼女の前でピタリと止まってしまったのだ。
「なッ・・・!?」
「何だ!?攻撃が届かねぇ・・・!」
普段よりも攻撃力を増している筈の彼らの攻撃は、まるで見えぬ壁に阻まれるようにして止まってしまい、何故か彼らもそのまま引こうとはしなかったのだ。
「何をしているの!?早く下がって!」
「そ・・・それがッ・・・」
「動かねぇんだッ・・・身体がッ!」
教団で護衛隊を組んでいる程の者達が引き時を見極められぬ筈もないかと、再びアンナの歌声に麻痺の状態異常でも付与されてしまったのかと疑うも、どうやら先程までの彼らとも様子が違っていた。
アンナは迫り来る護衛の攻撃に一歩も引く事もなく、その場で悠長に歌を歌い始めたのだ。彼女が歌うのは、夫であるバッハの作曲したマタイ受難曲。アルバの式典以来、度々耳にしていた曲だった。
一瞬、その場にいた者達の目はアンナに惹きつけられたが、それと同時に壊した筈のスピーカーが再びそこら中から召喚され始めてしまったのだ。近くにいる生者をまるでセンサーのように嗅ぎ分け向きを変えるスピーカー。
三人の護衛もすかさずスピーカーの破壊に向かうも、今度は大砲のような直線的な音の衝撃波ではなく、アンナ本体の口から発せられた広範囲に広がる衝撃波へと、攻撃のバリエーションを変えたのだ。
「くッ・・・!」
「さっきまでと攻撃が違う!?」
咄嗟にスピーカーの正面を避けて攻撃に移るも、広く響き渡る衝撃波を避け切る事ができず浴びてしまう護衛達だったが、これまでの衝撃を伝える衝撃波とは違い、身体に何も異常はなかった。
「あっ・・・あぁ?何ともねぇ・・・?」
すぐに不気味な攻撃を始めたスピーカーを破壊する護衛達だったが、スピーカーは壊しても壊してもそこら中から湧いてくる。だが壊さなければ一定の量のスピーカーが常に湧き続ける。
視界内でカバーし切れない場所からの攻撃を止める為にも、放って置くわけにはいかないが、やはり元凶であるアンナの霊体を何とかしなければ、このループから抜け出すことも出来ないだろう。
肝心のアンナを攻撃した護衛達だが、少し目を離した隙にどこかへと姿を消してしまっていた。決してシアラや他の仲間を置いて逃げた訳ではない。シアラがスピーカー組の方へ僅かな時間、目を向けていた間にそれは起きていたのだ。
アンナの身の回りにある見えぬ壁に攻撃を阻まれた二人は、そのまま引くことも出来ず動きを封じられてしまっていた。そして、アンナの霊体による攻撃の本当に恐ろしい部分を、攻撃を受けた護衛の二人だけが体験する。
シアラや周りの者達からしたら、アンナはただ歌を歌っているだけのように見えていたが、身動きを封じられた二人にはそれ以上の恐怖が身体の内部を這いずり回るように駆け巡った。
「ッ!?」
「・・・・・!?」
彼らは音を操る彼女の能力によって、自ら音を発する行為を封じられてしまい、声すら出せなくなっていた。故に周りも気付くのが遅れてしまったのかも知れない。
最も近くで彼女の歌声を聴いていた二人は、まるでその歌声に心臓を握られているかのように緊迫感を覚えた。そして次の瞬間、その例えが現実のものとなる。
音の振動は彼らの体内へと入り込み、心臓にあらぬ振動を与え身体を巡る血の道を塞ぎ、破裂させたのだ。声にならぬ痛みと衝撃に、二人は立ったまま気を失ってしまい、他の謎の人物達が退治された時の消滅の仕方と同じように、身体が黒い塵となって崩れ去ってしまっていたのだった。
彼らが消滅した直後に視線をアンナの方へ向けたシアラの目には、僅かに残る彼らの残骸と呼ぶべき黒い塵が見えていた。
「ッ!?どこへ消えた?・・・それとも消した?」
シアラの視線に気がついたアンナは、次のターゲットに彼女を選んだ。アンナは歌いながら不気味な笑みを浮かべると、彼女の方にゆっくりと腕を伸ばし、引き寄せるように手招きをする。
今までに見せなかった不気味な行動に嫌な予感がしたシアラは、無意識に距離を取ろうと後ろへ一歩下がる。するとその時だった。まるで誰かが背中を突き飛ばしたかのような衝撃がシアラを襲う。
「えっ・・・?」
後を振り返ると、そこには彼女の身体を突き飛ばすようなものは何も見当たらなかった。その代わり、アルバの街には当然のように漂う音のシャボン玉が、壊れた外壁から宮殿の内部に入り込んでいたのだろう。
シアラが突き飛ばされたと同時に、何かの音が彼女の背後から聞こえていた。何をされたのかわからない状況の中、それをアンナの能力と結びつけるには要素が足りなかったが、彼女が召喚するスピーカーも見当たらない以上、それ以外にシアラを押したと思われる衝撃波を発生させるものはない。
まるで猛獣の檻の中に落とされたかのような悪寒がシアラの全身を包み込む。彼女に攻撃を仕掛けた護衛達は、こんな状態で身動きを封じられていたのかと思うと気が気ではない。
そして消えてしまった護衛達と同様に、身体の自由を奪われてしまい硬直するシアラの元に、アンナの霊体が歩み寄る。そしてアンナは彼女の耳元で囁くように夫の曲を歌う。
彼らは即座に標的の分担をし、三人でアンナの召喚したスピーカーの破壊。そして残りの二人で直接アンナを狙いに行った。シアラの踊り子のスキルにより、普段よりも身体が軽く早く動けるようになった彼らは、その教団の護衛の名に恥じない働きを見せる。
スピーカーを破壊する役割を担った三人は、次々にスピーカーを破壊し敵の攻撃手段を奪う。アンナを狙う二人の護衛の刃が彼女に向かって振り抜かれる。得体の知れぬ相手に、彼らも女だからと躊躇うこともなく、ましてや容赦するような事もなかった。
左右から息のあった攻撃がアンナを襲う。しかしそこで新たな情報が明らかになった。彼らの奮った刃は、彼女の前でピタリと止まってしまったのだ。
「なッ・・・!?」
「何だ!?攻撃が届かねぇ・・・!」
普段よりも攻撃力を増している筈の彼らの攻撃は、まるで見えぬ壁に阻まれるようにして止まってしまい、何故か彼らもそのまま引こうとはしなかったのだ。
「何をしているの!?早く下がって!」
「そ・・・それがッ・・・」
「動かねぇんだッ・・・身体がッ!」
教団で護衛隊を組んでいる程の者達が引き時を見極められぬ筈もないかと、再びアンナの歌声に麻痺の状態異常でも付与されてしまったのかと疑うも、どうやら先程までの彼らとも様子が違っていた。
アンナは迫り来る護衛の攻撃に一歩も引く事もなく、その場で悠長に歌を歌い始めたのだ。彼女が歌うのは、夫であるバッハの作曲したマタイ受難曲。アルバの式典以来、度々耳にしていた曲だった。
一瞬、その場にいた者達の目はアンナに惹きつけられたが、それと同時に壊した筈のスピーカーが再びそこら中から召喚され始めてしまったのだ。近くにいる生者をまるでセンサーのように嗅ぎ分け向きを変えるスピーカー。
三人の護衛もすかさずスピーカーの破壊に向かうも、今度は大砲のような直線的な音の衝撃波ではなく、アンナ本体の口から発せられた広範囲に広がる衝撃波へと、攻撃のバリエーションを変えたのだ。
「くッ・・・!」
「さっきまでと攻撃が違う!?」
咄嗟にスピーカーの正面を避けて攻撃に移るも、広く響き渡る衝撃波を避け切る事ができず浴びてしまう護衛達だったが、これまでの衝撃を伝える衝撃波とは違い、身体に何も異常はなかった。
「あっ・・・あぁ?何ともねぇ・・・?」
すぐに不気味な攻撃を始めたスピーカーを破壊する護衛達だったが、スピーカーは壊しても壊してもそこら中から湧いてくる。だが壊さなければ一定の量のスピーカーが常に湧き続ける。
視界内でカバーし切れない場所からの攻撃を止める為にも、放って置くわけにはいかないが、やはり元凶であるアンナの霊体を何とかしなければ、このループから抜け出すことも出来ないだろう。
肝心のアンナを攻撃した護衛達だが、少し目を離した隙にどこかへと姿を消してしまっていた。決してシアラや他の仲間を置いて逃げた訳ではない。シアラがスピーカー組の方へ僅かな時間、目を向けていた間にそれは起きていたのだ。
アンナの身の回りにある見えぬ壁に攻撃を阻まれた二人は、そのまま引くことも出来ず動きを封じられてしまっていた。そして、アンナの霊体による攻撃の本当に恐ろしい部分を、攻撃を受けた護衛の二人だけが体験する。
シアラや周りの者達からしたら、アンナはただ歌を歌っているだけのように見えていたが、身動きを封じられた二人にはそれ以上の恐怖が身体の内部を這いずり回るように駆け巡った。
「ッ!?」
「・・・・・!?」
彼らは音を操る彼女の能力によって、自ら音を発する行為を封じられてしまい、声すら出せなくなっていた。故に周りも気付くのが遅れてしまったのかも知れない。
最も近くで彼女の歌声を聴いていた二人は、まるでその歌声に心臓を握られているかのように緊迫感を覚えた。そして次の瞬間、その例えが現実のものとなる。
音の振動は彼らの体内へと入り込み、心臓にあらぬ振動を与え身体を巡る血の道を塞ぎ、破裂させたのだ。声にならぬ痛みと衝撃に、二人は立ったまま気を失ってしまい、他の謎の人物達が退治された時の消滅の仕方と同じように、身体が黒い塵となって崩れ去ってしまっていたのだった。
彼らが消滅した直後に視線をアンナの方へ向けたシアラの目には、僅かに残る彼らの残骸と呼ぶべき黒い塵が見えていた。
「ッ!?どこへ消えた?・・・それとも消した?」
シアラの視線に気がついたアンナは、次のターゲットに彼女を選んだ。アンナは歌いながら不気味な笑みを浮かべると、彼女の方にゆっくりと腕を伸ばし、引き寄せるように手招きをする。
今までに見せなかった不気味な行動に嫌な予感がしたシアラは、無意識に距離を取ろうと後ろへ一歩下がる。するとその時だった。まるで誰かが背中を突き飛ばしたかのような衝撃がシアラを襲う。
「えっ・・・?」
後を振り返ると、そこには彼女の身体を突き飛ばすようなものは何も見当たらなかった。その代わり、アルバの街には当然のように漂う音のシャボン玉が、壊れた外壁から宮殿の内部に入り込んでいたのだろう。
シアラが突き飛ばされたと同時に、何かの音が彼女の背後から聞こえていた。何をされたのかわからない状況の中、それをアンナの能力と結びつけるには要素が足りなかったが、彼女が召喚するスピーカーも見当たらない以上、それ以外にシアラを押したと思われる衝撃波を発生させるものはない。
まるで猛獣の檻の中に落とされたかのような悪寒がシアラの全身を包み込む。彼女に攻撃を仕掛けた護衛達は、こんな状態で身動きを封じられていたのかと思うと気が気ではない。
そして消えてしまった護衛達と同様に、身体の自由を奪われてしまい硬直するシアラの元に、アンナの霊体が歩み寄る。そしてアンナは彼女の耳元で囁くように夫の曲を歌う。
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