World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,426 / 1,646

戦う者達と消える者達

しおりを挟む
 身体から痺れの消えた護衛達は、一斉に自らの武器にそれぞれの得意分野であろう属性を纏い攻勢へと転じる。援軍に駆けつけた護衛は全部で五人。

 彼らは即座に標的の分担をし、三人でアンナの召喚したスピーカーの破壊。そして残りの二人で直接アンナを狙いに行った。シアラの踊り子のスキルにより、普段よりも身体が軽く早く動けるようになった彼らは、その教団の護衛の名に恥じない働きを見せる。

 スピーカーを破壊する役割を担った三人は、次々にスピーカーを破壊し敵の攻撃手段を奪う。アンナを狙う二人の護衛の刃が彼女に向かって振り抜かれる。得体の知れぬ相手に、彼らも女だからと躊躇うこともなく、ましてや容赦するような事もなかった。

 左右から息のあった攻撃がアンナを襲う。しかしそこで新たな情報が明らかになった。彼らの奮った刃は、彼女の前でピタリと止まってしまったのだ。

「なッ・・・!?」
「何だ!?攻撃が届かねぇ・・・!」

 普段よりも攻撃力を増している筈の彼らの攻撃は、まるで見えぬ壁に阻まれるようにして止まってしまい、何故か彼らもそのまま引こうとはしなかったのだ。

「何をしているの!?早く下がって!」

「そ・・・それがッ・・・」
「動かねぇんだッ・・・身体がッ!」

 教団で護衛隊を組んでいる程の者達が引き時を見極められぬ筈もないかと、再びアンナの歌声に麻痺の状態異常でも付与されてしまったのかと疑うも、どうやら先程までの彼らとも様子が違っていた。

 アンナは迫り来る護衛の攻撃に一歩も引く事もなく、その場で悠長に歌を歌い始めたのだ。彼女が歌うのは、夫であるバッハの作曲したマタイ受難曲。アルバの式典以来、度々耳にしていた曲だった。

 一瞬、その場にいた者達の目はアンナに惹きつけられたが、それと同時に壊した筈のスピーカーが再びそこら中から召喚され始めてしまったのだ。近くにいる生者をまるでセンサーのように嗅ぎ分け向きを変えるスピーカー。

 三人の護衛もすかさずスピーカーの破壊に向かうも、今度は大砲のような直線的な音の衝撃波ではなく、アンナ本体の口から発せられた広範囲に広がる衝撃波へと、攻撃のバリエーションを変えたのだ。

「くッ・・・!」
「さっきまでと攻撃が違う!?」

 咄嗟にスピーカーの正面を避けて攻撃に移るも、広く響き渡る衝撃波を避け切る事ができず浴びてしまう護衛達だったが、これまでの衝撃を伝える衝撃波とは違い、身体に何も異常はなかった。

「あっ・・・あぁ?何ともねぇ・・・?」

 すぐに不気味な攻撃を始めたスピーカーを破壊する護衛達だったが、スピーカーは壊しても壊してもそこら中から湧いてくる。だが壊さなければ一定の量のスピーカーが常に湧き続ける。

 視界内でカバーし切れない場所からの攻撃を止める為にも、放って置くわけにはいかないが、やはり元凶であるアンナの霊体を何とかしなければ、このループから抜け出すことも出来ないだろう。

 肝心のアンナを攻撃した護衛達だが、少し目を離した隙にどこかへと姿を消してしまっていた。決してシアラや他の仲間を置いて逃げた訳ではない。シアラがスピーカー組の方へ僅かな時間、目を向けていた間にそれは起きていたのだ。

 アンナの身の回りにある見えぬ壁に攻撃を阻まれた二人は、そのまま引くことも出来ず動きを封じられてしまっていた。そして、アンナの霊体による攻撃の本当に恐ろしい部分を、攻撃を受けた護衛の二人だけが体験する。

 シアラや周りの者達からしたら、アンナはただ歌を歌っているだけのように見えていたが、身動きを封じられた二人にはそれ以上の恐怖が身体の内部を這いずり回るように駆け巡った。

「ッ!?」
「・・・・・!?」

 彼らは音を操る彼女の能力によって、自ら音を発する行為を封じられてしまい、声すら出せなくなっていた。故に周りも気付くのが遅れてしまったのかも知れない。

 最も近くで彼女の歌声を聴いていた二人は、まるでその歌声に心臓を握られているかのように緊迫感を覚えた。そして次の瞬間、その例えが現実のものとなる。

 音の振動は彼らの体内へと入り込み、心臓にあらぬ振動を与え身体を巡る血の道を塞ぎ、破裂させたのだ。声にならぬ痛みと衝撃に、二人は立ったまま気を失ってしまい、他の謎の人物達が退治された時の消滅の仕方と同じように、身体が黒い塵となって崩れ去ってしまっていたのだった。

 彼らが消滅した直後に視線をアンナの方へ向けたシアラの目には、僅かに残る彼らの残骸と呼ぶべき黒い塵が見えていた。

「ッ!?どこへ消えた?・・・それとも消した?」

 シアラの視線に気がついたアンナは、次のターゲットに彼女を選んだ。アンナは歌いながら不気味な笑みを浮かべると、彼女の方にゆっくりと腕を伸ばし、引き寄せるように手招きをする。

 今までに見せなかった不気味な行動に嫌な予感がしたシアラは、無意識に距離を取ろうと後ろへ一歩下がる。するとその時だった。まるで誰かが背中を突き飛ばしたかのような衝撃がシアラを襲う。

「えっ・・・?」

 後を振り返ると、そこには彼女の身体を突き飛ばすようなものは何も見当たらなかった。その代わり、アルバの街には当然のように漂う音のシャボン玉が、壊れた外壁から宮殿の内部に入り込んでいたのだろう。

 シアラが突き飛ばされたと同時に、何かの音が彼女の背後から聞こえていた。何をされたのかわからない状況の中、それをアンナの能力と結びつけるには要素が足りなかったが、彼女が召喚するスピーカーも見当たらない以上、それ以外にシアラを押したと思われる衝撃波を発生させるものはない。

 まるで猛獣の檻の中に落とされたかのような悪寒がシアラの全身を包み込む。彼女に攻撃を仕掛けた護衛達は、こんな状態で身動きを封じられていたのかと思うと気が気ではない。

 そして消えてしまった護衛達と同様に、身体の自由を奪われてしまい硬直するシアラの元に、アンナの霊体が歩み寄る。そしてアンナは彼女の耳元で囁くように夫の曲を歌う。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...