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前線への出撃指令
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余程余裕がない状況なのか、オイゲンはオイゲンで手が離せず、これまで各々の監視体制というものを厳守して来た教団だが、事態の急展開によりこれを一時的に解除するといった決断を下す。
犯人のこれまでの大人しい手口とは真逆に、ブルースの襲撃を境に突如として強硬手段をとりに来た事により、一気に敵と味方が分かれる展開となる。単純に考えるならば、今宮殿内で謎の人物達に攻撃を受けている勢力は、犯人側ではないことが分かる。
その事からも、最早互いを疑い合う余地は無くなったのではないかとオイゲンは考えていた。ニノンも彼の意見に賛成だった。しがらみがない方が教団の護衛達も、各々の音楽家達の護衛達も心置きなく戦える。
ここは彼らに暴れさせ、敵対する者の勢力を力で押し返せれば自ずと犯人に繋がるものが見えてくるかもしれない。すると、オイゲン側から教団の護衛の者と思われる声で新たな戦況の連絡が入る。
「オイゲンさん!宮殿の周りに誰もいません!街の方にも向かおうとしたのですが、数が多くて我々では突破が出来ない状況です」
「分かった、増援を向かわせる。・・・ということだ。ニノン、済まないが私は宮殿で引き続き指揮を取る。君には街の方の調査をお願いしたい。必要とあらば、君の目で見た信頼できそうな人物を共に連れ出して行って構わない」
教団の護衛によって明かされた新たな事実。それは既に宮殿の周囲は敵勢力によって制圧されてしまったという報告だった。だが宮殿の外で騒ぎが起これば、街で待機させている音楽家達を護衛していた部隊が動き出すのではないだろうか。
それともそれすら制圧されてしまったのか。どちらにせよ、教団が抱える護衛隊がこうもあっさりと制圧されてしまうなど只事ではない。宮殿内は戦力が集中していることもあるのか、それほど攻め込まれているという様子はない。
今の二人のやり取り的にも、宮殿の外へ調査に向かうということは戦場の最前線へ飛び出していくも同じこと。危険な状況の中、未知の領域へ調査に向かうなど、それこそ命に関わる危険な任務だろう。
それを任されたニノンに迷いはない。同期であり信頼のおける人物であるオイゲンが彼女を指名したのは、彼女ならそれを成し遂げられるという信頼の表れだった。
例え調査が上手くいかずとも、彼女なら生きて帰ってくると信じているのだろう。それでも助っ人を連れ出していいという指示を出したのは、彼女に万が一の事態が起こった際のことを心配しての、彼なりの優しさだったように感じられる。
「えぇ、分かったわ。貴方がそう言うのであれば、“彼ら“がそうだと言うことなのね?」
「あぁ。少なからず私が共に行動した限りでは・・・な」
「了解したわ。貴方は自分の成すべき事を。“また連絡する“」
オイゲンとの通信はそこで途絶えた。話をそばで聞いていたシンとケヴィンには、宮殿を取り巻く現状を理解していた。一息だけ、気持ちを沈めるかのように大きく深呼吸をしたニノンは、二人の方を向いてオイゲンとの話にもあったお願いをする。
「と、言うことらしいわ。貴方達を巻き込むのは気が引けるけど、彼がそう判断したということは、それだけ危険なのでしょう」
「つまり一緒に死んでくれと?」
「安心して。戦うのは私一人で十分よ。ただ、外で得た情報を持ち帰る人物が必要になる。その時、私は手が離せないかもしれないわ」
要するに彼女に同行し、必要な情報を得たらそれを宮殿内にいるオイゲンへ届ける伝令役を買って出て欲しいというものだった。それなら適任の“物“があると提案するシン。
「それならケヴィンのスパイカメラはどうだ?ニノンと一緒に行動ができて、カメラで映像や音声をリアルタイムで宮殿内に送信できるだろ?」
誰かを同行させるよりも、機械の方が裏切る心配もなく現在の状態をそのまま通達できることもあり、例え破壊されてしまったところで、そこまでの記録を宮殿内のケヴィンのタブレットに送信し記録することができる、アークシティ製の最新鋭の機械はまさに適任に思えた。
だがそれは、浮かない表情を浮かべるケヴィンから不可能、或いは適さないであろう事が窺えた。
「過大な評価を頂いているようで恐縮なのですが、恐らくお役には立てないかと・・・」
「何故だ?耐久性にでも問題があるとか?」
「あぁいえ、そういう訳ではないのですが・・・」
時折歯切れの悪くなるケヴィンに疑いの目を持ちつつも、彼の言い分を聞いてみると、どうやら彼は既にカメラを使って宮殿の外の様子を見ようと試みていたのだと語る。
「貴様はまたそのような勝手な真似をッ!」
「こうなるだろうと思って言えなかったんですけど、事前に私が調べていたことによって貴方の身にも関わる情報を得られたんで、それでおあいこにしませんかぁ!?」
隠れてコソコソと勝手な真似をするケヴィンに対し、むながらを掴み叱りつけるニノン。ケヴィンは申し訳なさそうに手を合わせながら謝罪しつつ、そこで得た宮殿の外でカメラが使えないという理由について口にする。
犯人のこれまでの大人しい手口とは真逆に、ブルースの襲撃を境に突如として強硬手段をとりに来た事により、一気に敵と味方が分かれる展開となる。単純に考えるならば、今宮殿内で謎の人物達に攻撃を受けている勢力は、犯人側ではないことが分かる。
その事からも、最早互いを疑い合う余地は無くなったのではないかとオイゲンは考えていた。ニノンも彼の意見に賛成だった。しがらみがない方が教団の護衛達も、各々の音楽家達の護衛達も心置きなく戦える。
ここは彼らに暴れさせ、敵対する者の勢力を力で押し返せれば自ずと犯人に繋がるものが見えてくるかもしれない。すると、オイゲン側から教団の護衛の者と思われる声で新たな戦況の連絡が入る。
「オイゲンさん!宮殿の周りに誰もいません!街の方にも向かおうとしたのですが、数が多くて我々では突破が出来ない状況です」
「分かった、増援を向かわせる。・・・ということだ。ニノン、済まないが私は宮殿で引き続き指揮を取る。君には街の方の調査をお願いしたい。必要とあらば、君の目で見た信頼できそうな人物を共に連れ出して行って構わない」
教団の護衛によって明かされた新たな事実。それは既に宮殿の周囲は敵勢力によって制圧されてしまったという報告だった。だが宮殿の外で騒ぎが起これば、街で待機させている音楽家達を護衛していた部隊が動き出すのではないだろうか。
それともそれすら制圧されてしまったのか。どちらにせよ、教団が抱える護衛隊がこうもあっさりと制圧されてしまうなど只事ではない。宮殿内は戦力が集中していることもあるのか、それほど攻め込まれているという様子はない。
今の二人のやり取り的にも、宮殿の外へ調査に向かうということは戦場の最前線へ飛び出していくも同じこと。危険な状況の中、未知の領域へ調査に向かうなど、それこそ命に関わる危険な任務だろう。
それを任されたニノンに迷いはない。同期であり信頼のおける人物であるオイゲンが彼女を指名したのは、彼女ならそれを成し遂げられるという信頼の表れだった。
例え調査が上手くいかずとも、彼女なら生きて帰ってくると信じているのだろう。それでも助っ人を連れ出していいという指示を出したのは、彼女に万が一の事態が起こった際のことを心配しての、彼なりの優しさだったように感じられる。
「えぇ、分かったわ。貴方がそう言うのであれば、“彼ら“がそうだと言うことなのね?」
「あぁ。少なからず私が共に行動した限りでは・・・な」
「了解したわ。貴方は自分の成すべき事を。“また連絡する“」
オイゲンとの通信はそこで途絶えた。話をそばで聞いていたシンとケヴィンには、宮殿を取り巻く現状を理解していた。一息だけ、気持ちを沈めるかのように大きく深呼吸をしたニノンは、二人の方を向いてオイゲンとの話にもあったお願いをする。
「と、言うことらしいわ。貴方達を巻き込むのは気が引けるけど、彼がそう判断したということは、それだけ危険なのでしょう」
「つまり一緒に死んでくれと?」
「安心して。戦うのは私一人で十分よ。ただ、外で得た情報を持ち帰る人物が必要になる。その時、私は手が離せないかもしれないわ」
要するに彼女に同行し、必要な情報を得たらそれを宮殿内にいるオイゲンへ届ける伝令役を買って出て欲しいというものだった。それなら適任の“物“があると提案するシン。
「それならケヴィンのスパイカメラはどうだ?ニノンと一緒に行動ができて、カメラで映像や音声をリアルタイムで宮殿内に送信できるだろ?」
誰かを同行させるよりも、機械の方が裏切る心配もなく現在の状態をそのまま通達できることもあり、例え破壊されてしまったところで、そこまでの記録を宮殿内のケヴィンのタブレットに送信し記録することができる、アークシティ製の最新鋭の機械はまさに適任に思えた。
だがそれは、浮かない表情を浮かべるケヴィンから不可能、或いは適さないであろう事が窺えた。
「過大な評価を頂いているようで恐縮なのですが、恐らくお役には立てないかと・・・」
「何故だ?耐久性にでも問題があるとか?」
「あぁいえ、そういう訳ではないのですが・・・」
時折歯切れの悪くなるケヴィンに疑いの目を持ちつつも、彼の言い分を聞いてみると、どうやら彼は既にカメラを使って宮殿の外の様子を見ようと試みていたのだと語る。
「貴様はまたそのような勝手な真似をッ!」
「こうなるだろうと思って言えなかったんですけど、事前に私が調べていたことによって貴方の身にも関わる情報を得られたんで、それでおあいこにしませんかぁ!?」
隠れてコソコソと勝手な真似をするケヴィンに対し、むながらを掴み叱りつけるニノン。ケヴィンは申し訳なさそうに手を合わせながら謝罪しつつ、そこで得た宮殿の外でカメラが使えないという理由について口にする。
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