World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,356 / 1,646

前線への出撃指令

しおりを挟む
 余程余裕がない状況なのか、オイゲンはオイゲンで手が離せず、これまで各々の監視体制というものを厳守して来た教団だが、事態の急展開によりこれを一時的に解除するといった決断を下す。

 犯人のこれまでの大人しい手口とは真逆に、ブルースの襲撃を境に突如として強硬手段をとりに来た事により、一気に敵と味方が分かれる展開となる。単純に考えるならば、今宮殿内で謎の人物達に攻撃を受けている勢力は、犯人側ではないことが分かる。

 その事からも、最早互いを疑い合う余地は無くなったのではないかとオイゲンは考えていた。ニノンも彼の意見に賛成だった。しがらみがない方が教団の護衛達も、各々の音楽家達の護衛達も心置きなく戦える。

 ここは彼らに暴れさせ、敵対する者の勢力を力で押し返せれば自ずと犯人に繋がるものが見えてくるかもしれない。すると、オイゲン側から教団の護衛の者と思われる声で新たな戦況の連絡が入る。

 「オイゲンさん!宮殿の周りに誰もいません!街の方にも向かおうとしたのですが、数が多くて我々では突破が出来ない状況です」

 「分かった、増援を向かわせる。・・・ということだ。ニノン、済まないが私は宮殿で引き続き指揮を取る。君には街の方の調査をお願いしたい。必要とあらば、君の目で見た信頼できそうな人物を共に連れ出して行って構わない」

 教団の護衛によって明かされた新たな事実。それは既に宮殿の周囲は敵勢力によって制圧されてしまったという報告だった。だが宮殿の外で騒ぎが起これば、街で待機させている音楽家達を護衛していた部隊が動き出すのではないだろうか。

 それともそれすら制圧されてしまったのか。どちらにせよ、教団が抱える護衛隊がこうもあっさりと制圧されてしまうなど只事ではない。宮殿内は戦力が集中していることもあるのか、それほど攻め込まれているという様子はない。

 今の二人のやり取り的にも、宮殿の外へ調査に向かうということは戦場の最前線へ飛び出していくも同じこと。危険な状況の中、未知の領域へ調査に向かうなど、それこそ命に関わる危険な任務だろう。

 それを任されたニノンに迷いはない。同期であり信頼のおける人物であるオイゲンが彼女を指名したのは、彼女ならそれを成し遂げられるという信頼の表れだった。

 例え調査が上手くいかずとも、彼女なら生きて帰ってくると信じているのだろう。それでも助っ人を連れ出していいという指示を出したのは、彼女に万が一の事態が起こった際のことを心配しての、彼なりの優しさだったように感じられる。

 「えぇ、分かったわ。貴方がそう言うのであれば、“彼ら“がそうだと言うことなのね?」

 「あぁ。少なからず私が共に行動した限りでは・・・な」

 「了解したわ。貴方は自分の成すべき事を。“また連絡する“」

 オイゲンとの通信はそこで途絶えた。話をそばで聞いていたシンとケヴィンには、宮殿を取り巻く現状を理解していた。一息だけ、気持ちを沈めるかのように大きく深呼吸をしたニノンは、二人の方を向いてオイゲンとの話にもあったお願いをする。

 「と、言うことらしいわ。貴方達を巻き込むのは気が引けるけど、彼がそう判断したということは、それだけ危険なのでしょう」

 「つまり一緒に死んでくれと?」

 「安心して。戦うのは私一人で十分よ。ただ、外で得た情報を持ち帰る人物が必要になる。その時、私は手が離せないかもしれないわ」

 要するに彼女に同行し、必要な情報を得たらそれを宮殿内にいるオイゲンへ届ける伝令役を買って出て欲しいというものだった。それなら適任の“物“があると提案するシン。

 「それならケヴィンのスパイカメラはどうだ?ニノンと一緒に行動ができて、カメラで映像や音声をリアルタイムで宮殿内に送信できるだろ?」

 誰かを同行させるよりも、機械の方が裏切る心配もなく現在の状態をそのまま通達できることもあり、例え破壊されてしまったところで、そこまでの記録を宮殿内のケヴィンのタブレットに送信し記録することができる、アークシティ製の最新鋭の機械はまさに適任に思えた。

 だがそれは、浮かない表情を浮かべるケヴィンから不可能、或いは適さないであろう事が窺えた。

 「過大な評価を頂いているようで恐縮なのですが、恐らくお役には立てないかと・・・」

 「何故だ?耐久性にでも問題があるとか?」

 「あぁいえ、そういう訳ではないのですが・・・」

 時折歯切れの悪くなるケヴィンに疑いの目を持ちつつも、彼の言い分を聞いてみると、どうやら彼は既にカメラを使って宮殿の外の様子を見ようと試みていたのだと語る。

 「貴様はまたそのような勝手な真似をッ!」

 「こうなるだろうと思って言えなかったんですけど、事前に私が調べていたことによって貴方の身にも関わる情報を得られたんで、それでおあいこにしませんかぁ!?」

 隠れてコソコソと勝手な真似をするケヴィンに対し、むながらを掴み叱りつけるニノン。ケヴィンは申し訳なさそうに手を合わせながら謝罪しつつ、そこで得た宮殿の外でカメラが使えないという理由について口にする。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...