World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
965 / 1,646

交渉の下準備

しおりを挟む
 拘束されたシン達は、獣人達に連れて行かれるまま街の中央付近までやって来ると、一際大きな大樹の中へと入れられた。

 中はくり抜いたかのように空洞になっており、その空間を利用して施設の広場のような内装が作り上げられていた。幾つかの灯籠に獣人族が火を灯していく。

 「ここで大人しくしていろ!貴様らの処遇は追って言い渡す。束の間の命を、せいぜい悔いて過ごす事だ」

 そう言い残すと、先導していた獣人とその取り巻きの数人が建物を後にした。残っているのは、取り押さえられたシン達が妙な気を起こさぬように監視する見張り役の獣人達数名。

 上手く立ち回れば、拘束を解き不意をついて形勢を逆転させることも可能だろう。しかし、今はシン達のように戦える者ばかりではない。下手な動きを見せれば、人間への恨みを強く持つ者によってアカリやツバキが狙われかねない。

 「悔いる事なんて、何もしてねぇっつうの!」

 「・・・・・」

 残された見張りの中には、シンの予想通り自分達の行いに疑問を持つ者も混じっていた。文句を垂れるツバキを難しい顔で見つめる一人の獣人に、何とか訴えかけられないだろうかとシンが動こうとした時、同じことを考えていたのか先にダラーヒムが動き出した。

 「なぁ、何故お前達はそれほど人間を憎む?話してはくれないか?」

 「・・・俺らだって、全ての人間が憎い訳じゃないさ・・・」
 「おい、やめろ。アイツらに聞かれたら・・・」

 「アイツら?」

 「過激派の奴らの事さ。ボスを頼り崇め支持する連中・・・。勿論、そうなってしまうのも分からなくはないが・・・」
 「よせよ。何を話したところで変わりゃしないんだ。攫われた奴らだってもう・・・」

 「攫われた?人間に攫われたっていうのか?」

 どうやら彼らが人間を恨む理由は、そこにあるらしい。それに彼らの口ぶりからすると、攫われた者達は帰って来ず、無事でもなさそうだった。

 「あぁそうさ。それに奴らは攫うだけじゃなく、何かしやがったんだ・・・」

 「何か・・・?」

 「たまに・・・本当にたまに、いなくなった奴を森でフラッと見かけることがあるんだ。無事だったのかと思い近づいて声を掛けると、そいつらはもう意識なんてものを持っちゃいなかったんだ・・・」

 彼の話を聞いて、シンとダラーヒムには大方の予想はついた。

 ここに至るまでの道中、シン達を乗せた商人の馬車はモンスターの襲撃を受けた。相手は本来森に生息するモンスターばかりで、樹木の姿をしたトレントと、今シン達の目の前にいる獣人達と良く似たウェアウルフだったのだ。

 そして襲われたのが見晴らしのいい草原という、通常なら出会わないであろうフィールドであった事に疑問を抱いた二人は、そのモンスター達を注意深く観察し調べた。

 シンが感じたのは、現実世界でWoFユーザーを食らい成長したモンスター達と同じ気配だけだったが、ダラーヒムの方は彼の錬金術のクラスを用いた呼び出した精霊により、モンスター達が何らかの薬物を投与された可能性を見出していた。

 もしそれが本当だったとするならば、シン達の前に現れたモンスター達は、人間に攫われ薬を盛られた獣人族であった事になる。

 「まさか・・・モンスター化していたのか・・・?」

 「ッ・・・!お前達、何故それを!?」

 「お前らに襲われる前、森の外の草原で本来森にいる筈のモンスター達に襲われた。少し妙だったんで調べてみたら、そいつら何か薬のようなものを盛られたような様子が見受けられた」

 「アイツら、森の外に・・・。それでアンタらはアイツらを」

 「悪いが始末させてもらった。人間でも獣人でも、一度モンスターになっちまったらもう元には戻れない。俺ぁそう聞いているんでな、せめて苦しまないように送ってやったよ」

 知らずとはいえ、彼ら獣人族の元仲間であったことを知ったシン達は、罪悪感や後悔といった後ろめたい気持ちが心の中に芽生えてしまう。

 「でっでもよぉ!俺らだってやらなきゃやられてたんだろ!?」

 ツバキの言葉に、話をしてくれた獣人は静かに首を横に振った。

 「いいんだ。分かってる・・・。俺達も、変わっちまったアイツらに何人も襲われてる。それは仕方のない事だ。・・・そうか、アイツらやっぱり何かされて・・・」

 失った仲間達の事を思い大人しくなる彼らを見てチャンスだと思ったのか、ダラーヒムはすかさず彼らに交渉を持ちかける。それは彼にしか出来ないことで、シン達の目的にも繋がる重要な話だった。

 「お前らの仲間に薬を盛った奴ら。そいつらについての情報を持っている」

 彼の言葉に、話をしていた獣人の他にも、周りの見張り達まで表情を変えて、ダラーヒムの話に食いついてきた。

 「何ッ!?それは本当か!」
 「もし本当なら、貴重な情報源になる!」
 「すぐにボスへ報告をッ・・・!」

 ざわめき出す彼らは、まるで見張りの仕事を忘れてしまったかのように取り乱している。今ならば逃げ出すことも可能かもしれないが、それ以上に良い方法を思いついたようで、ダラーヒムはその話を彼らのボスに伝えるよう言い渡す。

 これにより、すぐに始末されるということは免れただろう。しかし、このままでは情報を聞き出す為に、拷問を仕掛けてくるかもしれない。そこはダラーヒムにとっても賭けだったが、彼らのボスが理性的である事を祈るしかなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...