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交渉の下準備
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拘束されたシン達は、獣人達に連れて行かれるまま街の中央付近までやって来ると、一際大きな大樹の中へと入れられた。
中はくり抜いたかのように空洞になっており、その空間を利用して施設の広場のような内装が作り上げられていた。幾つかの灯籠に獣人族が火を灯していく。
「ここで大人しくしていろ!貴様らの処遇は追って言い渡す。束の間の命を、せいぜい悔いて過ごす事だ」
そう言い残すと、先導していた獣人とその取り巻きの数人が建物を後にした。残っているのは、取り押さえられたシン達が妙な気を起こさぬように監視する見張り役の獣人達数名。
上手く立ち回れば、拘束を解き不意をついて形勢を逆転させることも可能だろう。しかし、今はシン達のように戦える者ばかりではない。下手な動きを見せれば、人間への恨みを強く持つ者によってアカリやツバキが狙われかねない。
「悔いる事なんて、何もしてねぇっつうの!」
「・・・・・」
残された見張りの中には、シンの予想通り自分達の行いに疑問を持つ者も混じっていた。文句を垂れるツバキを難しい顔で見つめる一人の獣人に、何とか訴えかけられないだろうかとシンが動こうとした時、同じことを考えていたのか先にダラーヒムが動き出した。
「なぁ、何故お前達はそれほど人間を憎む?話してはくれないか?」
「・・・俺らだって、全ての人間が憎い訳じゃないさ・・・」
「おい、やめろ。アイツらに聞かれたら・・・」
「アイツら?」
「過激派の奴らの事さ。ボスを頼り崇め支持する連中・・・。勿論、そうなってしまうのも分からなくはないが・・・」
「よせよ。何を話したところで変わりゃしないんだ。攫われた奴らだってもう・・・」
「攫われた?人間に攫われたっていうのか?」
どうやら彼らが人間を恨む理由は、そこにあるらしい。それに彼らの口ぶりからすると、攫われた者達は帰って来ず、無事でもなさそうだった。
「あぁそうさ。それに奴らは攫うだけじゃなく、何かしやがったんだ・・・」
「何か・・・?」
「たまに・・・本当にたまに、いなくなった奴を森でフラッと見かけることがあるんだ。無事だったのかと思い近づいて声を掛けると、そいつらはもう意識なんてものを持っちゃいなかったんだ・・・」
彼の話を聞いて、シンとダラーヒムには大方の予想はついた。
ここに至るまでの道中、シン達を乗せた商人の馬車はモンスターの襲撃を受けた。相手は本来森に生息するモンスターばかりで、樹木の姿をしたトレントと、今シン達の目の前にいる獣人達と良く似たウェアウルフだったのだ。
そして襲われたのが見晴らしのいい草原という、通常なら出会わないであろうフィールドであった事に疑問を抱いた二人は、そのモンスター達を注意深く観察し調べた。
シンが感じたのは、現実世界でWoFユーザーを食らい成長したモンスター達と同じ気配だけだったが、ダラーヒムの方は彼の錬金術のクラスを用いた呼び出した精霊により、モンスター達が何らかの薬物を投与された可能性を見出していた。
もしそれが本当だったとするならば、シン達の前に現れたモンスター達は、人間に攫われ薬を盛られた獣人族であった事になる。
「まさか・・・モンスター化していたのか・・・?」
「ッ・・・!お前達、何故それを!?」
「お前らに襲われる前、森の外の草原で本来森にいる筈のモンスター達に襲われた。少し妙だったんで調べてみたら、そいつら何か薬のようなものを盛られたような様子が見受けられた」
「アイツら、森の外に・・・。それでアンタらはアイツらを」
「悪いが始末させてもらった。人間でも獣人でも、一度モンスターになっちまったらもう元には戻れない。俺ぁそう聞いているんでな、せめて苦しまないように送ってやったよ」
知らずとはいえ、彼ら獣人族の元仲間であったことを知ったシン達は、罪悪感や後悔といった後ろめたい気持ちが心の中に芽生えてしまう。
「でっでもよぉ!俺らだってやらなきゃやられてたんだろ!?」
ツバキの言葉に、話をしてくれた獣人は静かに首を横に振った。
「いいんだ。分かってる・・・。俺達も、変わっちまったアイツらに何人も襲われてる。それは仕方のない事だ。・・・そうか、アイツらやっぱり何かされて・・・」
失った仲間達の事を思い大人しくなる彼らを見てチャンスだと思ったのか、ダラーヒムはすかさず彼らに交渉を持ちかける。それは彼にしか出来ないことで、シン達の目的にも繋がる重要な話だった。
「お前らの仲間に薬を盛った奴ら。そいつらについての情報を持っている」
彼の言葉に、話をしていた獣人の他にも、周りの見張り達まで表情を変えて、ダラーヒムの話に食いついてきた。
「何ッ!?それは本当か!」
「もし本当なら、貴重な情報源になる!」
「すぐにボスへ報告をッ・・・!」
ざわめき出す彼らは、まるで見張りの仕事を忘れてしまったかのように取り乱している。今ならば逃げ出すことも可能かもしれないが、それ以上に良い方法を思いついたようで、ダラーヒムはその話を彼らのボスに伝えるよう言い渡す。
これにより、すぐに始末されるということは免れただろう。しかし、このままでは情報を聞き出す為に、拷問を仕掛けてくるかもしれない。そこはダラーヒムにとっても賭けだったが、彼らのボスが理性的である事を祈るしかなかった。
中はくり抜いたかのように空洞になっており、その空間を利用して施設の広場のような内装が作り上げられていた。幾つかの灯籠に獣人族が火を灯していく。
「ここで大人しくしていろ!貴様らの処遇は追って言い渡す。束の間の命を、せいぜい悔いて過ごす事だ」
そう言い残すと、先導していた獣人とその取り巻きの数人が建物を後にした。残っているのは、取り押さえられたシン達が妙な気を起こさぬように監視する見張り役の獣人達数名。
上手く立ち回れば、拘束を解き不意をついて形勢を逆転させることも可能だろう。しかし、今はシン達のように戦える者ばかりではない。下手な動きを見せれば、人間への恨みを強く持つ者によってアカリやツバキが狙われかねない。
「悔いる事なんて、何もしてねぇっつうの!」
「・・・・・」
残された見張りの中には、シンの予想通り自分達の行いに疑問を持つ者も混じっていた。文句を垂れるツバキを難しい顔で見つめる一人の獣人に、何とか訴えかけられないだろうかとシンが動こうとした時、同じことを考えていたのか先にダラーヒムが動き出した。
「なぁ、何故お前達はそれほど人間を憎む?話してはくれないか?」
「・・・俺らだって、全ての人間が憎い訳じゃないさ・・・」
「おい、やめろ。アイツらに聞かれたら・・・」
「アイツら?」
「過激派の奴らの事さ。ボスを頼り崇め支持する連中・・・。勿論、そうなってしまうのも分からなくはないが・・・」
「よせよ。何を話したところで変わりゃしないんだ。攫われた奴らだってもう・・・」
「攫われた?人間に攫われたっていうのか?」
どうやら彼らが人間を恨む理由は、そこにあるらしい。それに彼らの口ぶりからすると、攫われた者達は帰って来ず、無事でもなさそうだった。
「あぁそうさ。それに奴らは攫うだけじゃなく、何かしやがったんだ・・・」
「何か・・・?」
「たまに・・・本当にたまに、いなくなった奴を森でフラッと見かけることがあるんだ。無事だったのかと思い近づいて声を掛けると、そいつらはもう意識なんてものを持っちゃいなかったんだ・・・」
彼の話を聞いて、シンとダラーヒムには大方の予想はついた。
ここに至るまでの道中、シン達を乗せた商人の馬車はモンスターの襲撃を受けた。相手は本来森に生息するモンスターばかりで、樹木の姿をしたトレントと、今シン達の目の前にいる獣人達と良く似たウェアウルフだったのだ。
そして襲われたのが見晴らしのいい草原という、通常なら出会わないであろうフィールドであった事に疑問を抱いた二人は、そのモンスター達を注意深く観察し調べた。
シンが感じたのは、現実世界でWoFユーザーを食らい成長したモンスター達と同じ気配だけだったが、ダラーヒムの方は彼の錬金術のクラスを用いた呼び出した精霊により、モンスター達が何らかの薬物を投与された可能性を見出していた。
もしそれが本当だったとするならば、シン達の前に現れたモンスター達は、人間に攫われ薬を盛られた獣人族であった事になる。
「まさか・・・モンスター化していたのか・・・?」
「ッ・・・!お前達、何故それを!?」
「お前らに襲われる前、森の外の草原で本来森にいる筈のモンスター達に襲われた。少し妙だったんで調べてみたら、そいつら何か薬のようなものを盛られたような様子が見受けられた」
「アイツら、森の外に・・・。それでアンタらはアイツらを」
「悪いが始末させてもらった。人間でも獣人でも、一度モンスターになっちまったらもう元には戻れない。俺ぁそう聞いているんでな、せめて苦しまないように送ってやったよ」
知らずとはいえ、彼ら獣人族の元仲間であったことを知ったシン達は、罪悪感や後悔といった後ろめたい気持ちが心の中に芽生えてしまう。
「でっでもよぉ!俺らだってやらなきゃやられてたんだろ!?」
ツバキの言葉に、話をしてくれた獣人は静かに首を横に振った。
「いいんだ。分かってる・・・。俺達も、変わっちまったアイツらに何人も襲われてる。それは仕方のない事だ。・・・そうか、アイツらやっぱり何かされて・・・」
失った仲間達の事を思い大人しくなる彼らを見てチャンスだと思ったのか、ダラーヒムはすかさず彼らに交渉を持ちかける。それは彼にしか出来ないことで、シン達の目的にも繋がる重要な話だった。
「お前らの仲間に薬を盛った奴ら。そいつらについての情報を持っている」
彼の言葉に、話をしていた獣人の他にも、周りの見張り達まで表情を変えて、ダラーヒムの話に食いついてきた。
「何ッ!?それは本当か!」
「もし本当なら、貴重な情報源になる!」
「すぐにボスへ報告をッ・・・!」
ざわめき出す彼らは、まるで見張りの仕事を忘れてしまったかのように取り乱している。今ならば逃げ出すことも可能かもしれないが、それ以上に良い方法を思いついたようで、ダラーヒムはその話を彼らのボスに伝えるよう言い渡す。
これにより、すぐに始末されるということは免れただろう。しかし、このままでは情報を聞き出す為に、拷問を仕掛けてくるかもしれない。そこはダラーヒムにとっても賭けだったが、彼らのボスが理性的である事を祈るしかなかった。
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