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神代 コウ

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意志の相違

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 シン達を襲撃した獣人族らしき者達は、人間というものに強い恨みを抱えているようだった。無論、シン達には心当たりなど無い。仮にここへ向かう途中の草原で襲ってきたモンスター達が彼らの仲間であったとしても、それは彼らの責任ではないだろう。

 一方的に襲われた結果、あのような形となったのだ。彼らもそれを恨みに思うこともないだろう。

 「何故そんなに人間のことを・・・?」

 「黙れ!そんなことを知る必要はないし、俺達に話す義務もない!」

 「あぁそうかい。随分と勝手な言い分だな。俺達がお前らに何かしたってのかよ!?」

 これまで黙って話を聞いていたツバキが痺れを切らしたのか、反抗的な態度を取り始める。苛立っている相手を刺激するのは良くないが、ただ彼らの犯行の動機くらいは聞き出せるかもしれない。

 万が一ツバキが手を上げられるような事があれば、黙って言わせてしまった代わりに身を乗り出して庇う覚悟をしていたシン。しかし、意外にもその獣人は暴力的になるどころか、先程よりも冷静にすらなっていた。

 「はぁ・・・そうじゃない。お前みたいなガキでも、いずれ分かるようになるかもな・・・」

 「ガキ扱いすんじゃねぇよ!」

 威勢のいいツバキを尻目に、シン達を制圧した獣人達は腕を後ろで組ませ、蔦のようなものを使い彼らを拘束する。すると、ツバキを縛っていた獣人は彼のような勇気のある子供の行動を見てか、小声でツバキに何かを伝えていた。

 「大人しくしてれば痛い目には合わない筈だ。無駄口もここまでにしておけよ?」

 「あぁ!?」

 「これ以上は保証できんということだ・・・」

 「ぁ・・・ぁあ?」

 理不尽な事に対し怒りをぶつけようとしたツバキだったのだが、相手の思わぬ反応に思わず困惑してしまう。言い争いをするつもりで突っかかったのに、寧ろ心配とも哀れみとも捉えられる返しをしてきたのだ。

 完全に想定外の反応だったのが、よりツバキの調子を狂わせたに違いない。

 だがこれで、僅かながらでも彼ら獣人族の中にも、良心を持ち合わせている者もいるということが分かった。

 人間という種族を須く憎んでいる者もいれば、人間全てに憎しみを持っているという訳ではないと考えを持つ者もいるということだ。だが恐らく、彼らをまとめる者によって、そういった考えや感情を持つことを抑制されてしまっているのかもしれない。

 これは問題解決の糸口になるかもしれないと、シンはこの事を深く心の中に留めておく事にした。いずれ交渉のチャンスでも訪れることがあれば、上手く利用できるかもしれない。

 彼らが人間を憎む理由は分からないが、それで人間という種族全てを憎むのは間違っている。これは人間だけではなく、知性や意志を持った者であれば全てに言える事かもしれない。

 その行いを“悪“だと思う者もいれば、“正義“だと思う者もいる。これは嘗てシン達が聖都で見てきたもの、感じたものでもある。

 実際、シュトラールという統治者に感謝し崇める者は少なくなかった。それでもそのやり方によって、苦しむ者達も確かに存在していた。

 何を“正義“とし、何を“悪“とするのかなど、それを受け取った者の環境や立場によっても大きく変わる。今、こうしてシン達を拘束する獣人達の中にも、これが良くない行いであることを理解している者も必ずいる筈。

 何とかして彼らのボスに理解してもらえれば、互いの解決の為にもなるかもしれない。どうやら拘束するということは、すぐに殺すという訳でも無いらしい。

 それでもいつまでも流暢にはしていられない。限られた時間の中で反逆の意志を持つ者と協力者を見つけなければならない。行動を移すにしても、先ずは仲間の協力が必要だ。

 彼ら獣人族と取引できるだけの情報を持っていそうなのは、丁度運良くシン達と行動を共にしていた、シー・ギャングの幹部であるダラーヒムだ。

 それに何処か様子を伺っているような素振りをみせる彼にも、意見を聞いておきたい。

 両腕の自由を奪われ、シン達は馬車を降ろされるとそのままリナムルの街の中へと連れて行かれる。街の中へやって来ても、何処にも人の気配は感じられない。

 シン達を襲撃する前に、恐らくここも彼らによって襲撃を受けたのだろう。だが、これと言って目立った争いの跡も見受けられない。馬車を襲撃した身のこなしや気配の消し方からすれば、随分とスマートに事を成したのが分かるようだった。

 「街に人がいないようだが?」

 「ここはもう、俺達によって制圧されたんだよ。貴様らを捕らえる随分前にな」

 「計画的だったようだ。争いの痕跡が見当たらない・・・」

 「だから何だってんだぁ?黙って歩けッ!」

 次から次へと質問を繰り返すダラーヒムに、側で話を聞かされていた獣人の一人が苛立ち、持っていた武器の柄で彼の頭部を殴りつける。向こうはそれ程強く殴ったつもりではないのだろうが、ダラーヒムの頭部からは僅かに血が流れていた。

 「おい!やりすぎだ・・・」

 「構いやしねぇさこんな奴ら。死んだって当然なんだからなぁ!」

 捕らえた者達の前で、獣人達は僅かな関係の歪みを見せた。これが彼の意図してやった事なのかは分からないが、おかげでそれを見ていたミアやツクヨ、ツバキでさえも、獣人達の間で意志の相違がある事を理解した。
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