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一夜を明かす為に
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ホープ・コーストを出発したミア達は、ツバキの手配した馬車に乗り、黒いコートの者達の情報を探るため、最も技術の発達している街と言われている目的地、アーティフィシャル・アークこと“アークシティ“を目指していた。
ツバキの話では、レースを終えたゴールの港街であるホープ・コーストからアークシティまでは距離があり、幾つかの街や村などを経由していかなければならないとのことだった。
馬車は順調に進んでいき、一つ二つの村を経由して行きながら、とある街にまでやって来た。
最初の馬車がミア達を運ぶのはここまで。馬車の心地よい揺れが眠気を誘い、気が付けばすっかり陽が落ちて夜になっていた。
いくらダンジョンではないとはいえ、野生のモンスターが活発になる為、夜の移動は出来ないというのも、街を経由しなければならない一つの理由でもあった。
ここまでの運賃を支払い、ミア達はその街で泊まる宿を探すことにした。
「あぁ~・・・すっかり寝ちまったなぁ」
「先ずは宿を探さないと・・・。金はあるんだ、ある程度融通も効くだろうぜ?」
「余裕があるからって散財するのは、見過ごせないぞ?ツバキ」
「何だよ、でももう夜も遅いんだ。少しくらいは目を瞑ってくれてもいいだろ?それとも野宿でもするのか?」
文句を言いながらも、まだ受付のできる宿屋を探す一行。すると、彼らの側を通り掛かった身嗜みの整った紳士風の男が、宿屋の側で立ち止まるミア達に声を掛けてきた。
「泊まるところをお探しかな?」
「えぇ、そうなんですけど・・・。この辺でまだやってる宿屋ってありますか?」
ミアやツバキでは話が拗れると思ったツクヨが、声をかけてくれた男の問いに答える。恐らくこの街の人か、或いはよくこの街に来る人なのだろう。
声を掛けてきた内容から、少し希望を見い出したツクヨは、何とか話をこじつけられないか試みる。
「この街は色々なところから来る人達が、夜明けを待つのに利用していく街でもあるんだ。だから、夕方頃には殆どの宿が満室になってしまってね。宿屋を探す人が結構いるんだ」
「もう少し早く出発するべきだったな・・・」
そう言ったツバキが、片目を瞑りミアの表情を伺っている。
「何だ?アタシのせいだってのか?」
二人がまた言い合いを始めてしまいそうになると、慌ててそれを遮るように口を開いたツクヨが、事情を察してくれた男に何か解決策はないか尋ねる。
彼の様子から、今のミア達のように宿屋を探す人間を見かけたのは初めてではなさそうだった。
「あぁ~すみません!宿屋じゃなくても、どこか泊まれるところでもいいんです!心当たりとか、あったりします?」
「私の家でよければ案内しよう。丁度帰るところだったんだ。少し歩くことになってしまうが・・・どうかね?」
「よろしいのですか!?是非お願いします!」
男の厚意に、心からの感謝をするツクヨ。その横でツバキが彼の袖を指で小さく引くと、ニヤリと悪そうな表情を浮かべていた。
「よかったな。宿代が浮いたぜ」
小さく失礼なことを呟くツバキの頭を、ツクヨは平手で軽く叩いた。
「馬鹿ッ!なんて失礼なことをッ・・・!」
「ははは。運が良かったねぇボク。さぁ、外は冷えるから早速向かおうか」
彼らを案内するように歩き出す男。小声で言ったツバキの失礼な発言も、全く気にする様子もない穏やかな人で安堵するツクヨだった。
一行が男に案内されたのは、街の一角にある大きな屋敷だった。それは一般人が所有するにはあまりに大きな建物で、看板や立て札こそないものの、何か商業的なものを営んでいてもおかしくない外観だった。
「これが・・・貴方の、お家ですか・・・?」
「驚かれましたか?申し遅れましたが私、この街の役人をしております“エディ・ローヴェン“と申します」
屋敷に通された彼らは、エディと名乗る男と屋敷内にいた使用人の男に、今夜泊まる部屋へと案内される。
屋敷内は西洋風の内観をしており、赤い絨毯の敷かれた高級感のある雰囲気がある。夜ということもあるのか、建物内は静かで彼ら以外の人の気配が感じられない。
「あまり立派とはいえませんが、どうぞここを自由にお使い下さい」
謙遜をして話すエディだったが、とても三人で使う部屋とは思えない広さの部屋へと案内された。だが、男の言う通り元々多人数で泊まることを想定していない部屋のようで、寝室にはダブルベッドしかなかった。
「いえ、十分過ぎるほどです!いいんですか?こんなに立派な部屋を」
「すげぇ!下手な宿よりよっぽど豪華じゃねぇか!」
「喜んでいただけたようで安心しました。元々私の両親の為に用意した部屋だったのですが、家が完成する前に亡くなってしまって・・・」
建築段階では生きていたというエディの両親。しかし、それ以前から病を患っていたようで、静かに暮らせるようにと用意していたものの、結局一度も使われることもなかったのだという。
それ以来、屋敷で働く使用人やミア達のように泊まる場所のない者達に提供する一室として使っているのだという。
「夕食は取られましたか?もしよければ何か用意させますが」
「いえいえ!そこまで迷惑をかけるわけには」
「泊まれる場所を用意してもらっただけでも十分です。ありがとうございます」
エディの申し出を丁寧に断るミアとツクヨに、不服そうな表情を浮かべるツバキ。男の手厚い歓迎はありがたかったが、その厚意が無償のものなのかと深読みをし始めたミアは、これ以上の恩恵を受けることを避けるような様子を見せる。
ツバキの話では、レースを終えたゴールの港街であるホープ・コーストからアークシティまでは距離があり、幾つかの街や村などを経由していかなければならないとのことだった。
馬車は順調に進んでいき、一つ二つの村を経由して行きながら、とある街にまでやって来た。
最初の馬車がミア達を運ぶのはここまで。馬車の心地よい揺れが眠気を誘い、気が付けばすっかり陽が落ちて夜になっていた。
いくらダンジョンではないとはいえ、野生のモンスターが活発になる為、夜の移動は出来ないというのも、街を経由しなければならない一つの理由でもあった。
ここまでの運賃を支払い、ミア達はその街で泊まる宿を探すことにした。
「あぁ~・・・すっかり寝ちまったなぁ」
「先ずは宿を探さないと・・・。金はあるんだ、ある程度融通も効くだろうぜ?」
「余裕があるからって散財するのは、見過ごせないぞ?ツバキ」
「何だよ、でももう夜も遅いんだ。少しくらいは目を瞑ってくれてもいいだろ?それとも野宿でもするのか?」
文句を言いながらも、まだ受付のできる宿屋を探す一行。すると、彼らの側を通り掛かった身嗜みの整った紳士風の男が、宿屋の側で立ち止まるミア達に声を掛けてきた。
「泊まるところをお探しかな?」
「えぇ、そうなんですけど・・・。この辺でまだやってる宿屋ってありますか?」
ミアやツバキでは話が拗れると思ったツクヨが、声をかけてくれた男の問いに答える。恐らくこの街の人か、或いはよくこの街に来る人なのだろう。
声を掛けてきた内容から、少し希望を見い出したツクヨは、何とか話をこじつけられないか試みる。
「この街は色々なところから来る人達が、夜明けを待つのに利用していく街でもあるんだ。だから、夕方頃には殆どの宿が満室になってしまってね。宿屋を探す人が結構いるんだ」
「もう少し早く出発するべきだったな・・・」
そう言ったツバキが、片目を瞑りミアの表情を伺っている。
「何だ?アタシのせいだってのか?」
二人がまた言い合いを始めてしまいそうになると、慌ててそれを遮るように口を開いたツクヨが、事情を察してくれた男に何か解決策はないか尋ねる。
彼の様子から、今のミア達のように宿屋を探す人間を見かけたのは初めてではなさそうだった。
「あぁ~すみません!宿屋じゃなくても、どこか泊まれるところでもいいんです!心当たりとか、あったりします?」
「私の家でよければ案内しよう。丁度帰るところだったんだ。少し歩くことになってしまうが・・・どうかね?」
「よろしいのですか!?是非お願いします!」
男の厚意に、心からの感謝をするツクヨ。その横でツバキが彼の袖を指で小さく引くと、ニヤリと悪そうな表情を浮かべていた。
「よかったな。宿代が浮いたぜ」
小さく失礼なことを呟くツバキの頭を、ツクヨは平手で軽く叩いた。
「馬鹿ッ!なんて失礼なことをッ・・・!」
「ははは。運が良かったねぇボク。さぁ、外は冷えるから早速向かおうか」
彼らを案内するように歩き出す男。小声で言ったツバキの失礼な発言も、全く気にする様子もない穏やかな人で安堵するツクヨだった。
一行が男に案内されたのは、街の一角にある大きな屋敷だった。それは一般人が所有するにはあまりに大きな建物で、看板や立て札こそないものの、何か商業的なものを営んでいてもおかしくない外観だった。
「これが・・・貴方の、お家ですか・・・?」
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屋敷内は西洋風の内観をしており、赤い絨毯の敷かれた高級感のある雰囲気がある。夜ということもあるのか、建物内は静かで彼ら以外の人の気配が感じられない。
「あまり立派とはいえませんが、どうぞここを自由にお使い下さい」
謙遜をして話すエディだったが、とても三人で使う部屋とは思えない広さの部屋へと案内された。だが、男の言う通り元々多人数で泊まることを想定していない部屋のようで、寝室にはダブルベッドしかなかった。
「いえ、十分過ぎるほどです!いいんですか?こんなに立派な部屋を」
「すげぇ!下手な宿よりよっぽど豪華じゃねぇか!」
「喜んでいただけたようで安心しました。元々私の両親の為に用意した部屋だったのですが、家が完成する前に亡くなってしまって・・・」
建築段階では生きていたというエディの両親。しかし、それ以前から病を患っていたようで、静かに暮らせるようにと用意していたものの、結局一度も使われることもなかったのだという。
それ以来、屋敷で働く使用人やミア達のように泊まる場所のない者達に提供する一室として使っているのだという。
「夕食は取られましたか?もしよければ何か用意させますが」
「いえいえ!そこまで迷惑をかけるわけには」
「泊まれる場所を用意してもらっただけでも十分です。ありがとうございます」
エディの申し出を丁寧に断るミアとツクヨに、不服そうな表情を浮かべるツバキ。男の手厚い歓迎はありがたかったが、その厚意が無償のものなのかと深読みをし始めたミアは、これ以上の恩恵を受けることを避けるような様子を見せる。
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