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休息
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エディと使用人の男が部屋から出ていくと、ミアはその胸の内を二人に話し始める。
「なぁ、二人は信じていいと思うか?」
「信じるって・・・エディさんのことか?あんなに親切にしてくれる人、そうそういねぇぜ」
「私も疑う事はないと思うけど・・・。それに、彼らから悪意のようなものを感じたかい?仮にも私達は、騙し合いのレースの中で生き延びたんだ。少しは人を見る目が養われたとは思わないかい?」
ツクヨの言う通り、海賊だらけのレースで、誰を信じ何を疑うのかと言う環境下にあった彼らは、自ずと嘘を嘘と見抜けるようになり、誰を信じていいのかが本能的に分かってきたような感覚があった。
故に付くべき味方を正しく見極め、勝利に向かっていくことが出来たのだ。今もまだその感覚は、完全に失われてはいないだろう。
何かを企む者の目や言動は感じ取れる。ツクヨもツバキも、あの二人からはそれを感じなかったようだ。
ミアも決して彼らから悪意や邪気を感じた訳ではない。だが、彼女の中には未だ人を疑って掛かる癖のようなものが抜けずにいただけなのかもしれない。
「確かに・・・そうかもしれないけど・・・。じゃぁアタシは、彼らを信じる二人を信じるよ」
「まさかそれで飯を断ったのか!?・・・はぁ~、勘弁してくれよぉ」
ミアの心情を察したのか、ツクヨは何も言わなかったが、ツバキは茶化すかのようにミアを小突いた。或いは彼も、ミアの表情から何かを察したのかもしれない。
暗い気持ちを引き摺らぬようにという、彼なりの配慮だったのかもしれない。ミアもそれに対し、少しだけ緩んだ表情を見せた。
三人は明日の出発に備え、休むことにした。ベッドはミアとツバキに譲り、ツクヨは部屋の端に置かれていたソファーで寝ると申し出る。
思春期のようなツバキのことだから、ミアと一緒に寝ることに対し、何か文句を言われるのではないかと思っていたツクヨだったが、意外なことに彼はツクヨの提案をすんなりと受け入れた。
彼もレースや旅の疲れが残っていたのだろうか。部屋に備えられていたシャワーをミアから順番に交代で使っていき、最後にツクヨが出る頃には既に二人は寝室へと入っていた。
何かあった時の為だろうか、扉は開けっぱなしになっており、灯りは消えている。
幸い、ダブルベッドは大人二人が使ったとしても余裕があるくらいの広さがあり、ミアとツバキはそれほど密着することなく眠れているようだった。
あまり覗くのも悪いと思ったツクヨは、音を立てないように寝室の入り口から離れ、ソファーに置かれた高級そうな毛布を掛けて就寝する。
三人は久々にゆっくりと静かに眠れた。思い返せば、聖都ユスティーチからまともに熟睡できていなかったように思える。
聖都で起きた事件から、逃げるようにその場を離れた彼らは、そのまま大海原を渡り新たな大陸へいく為にグラン・ヴァーグへと入る。
そこは海賊の街で、丁度フォリーキャナルレースという大きな催し物もあったことから、昼夜問わずお祭り騒ぎだった。
そしてレース中は、気の休まることもなく戦いの数々を乗り越え、大海賊達とのデッドヒートを繰り広げる。
ゴールした後も、それを祝うお祭り騒ぎが続き、仮眠こそ取れたものの騒がしさはグラン・ヴァーグと何も変わらなかった。
馬車の中でも少しは休めたが、暖かい場所で落ち着いて寝るのとは訳が違う。穏やかな街で外から聞こえてくる虫の鳴き声と、微かに吹く風が草木や街の看板を優しく撫でるメロディーを聴きながら、暖かくして目を閉じる。
溜まっていた疲れを今こそ癒す時と、瞼が重くなり身体の力が抜けていく。熟睡するまでに時間は掛からなかった。何を考える暇もないほど早くに意識を失い、彼らはこれからの旅に備えて英気を養う。
「なぁ、二人は信じていいと思うか?」
「信じるって・・・エディさんのことか?あんなに親切にしてくれる人、そうそういねぇぜ」
「私も疑う事はないと思うけど・・・。それに、彼らから悪意のようなものを感じたかい?仮にも私達は、騙し合いのレースの中で生き延びたんだ。少しは人を見る目が養われたとは思わないかい?」
ツクヨの言う通り、海賊だらけのレースで、誰を信じ何を疑うのかと言う環境下にあった彼らは、自ずと嘘を嘘と見抜けるようになり、誰を信じていいのかが本能的に分かってきたような感覚があった。
故に付くべき味方を正しく見極め、勝利に向かっていくことが出来たのだ。今もまだその感覚は、完全に失われてはいないだろう。
何かを企む者の目や言動は感じ取れる。ツクヨもツバキも、あの二人からはそれを感じなかったようだ。
ミアも決して彼らから悪意や邪気を感じた訳ではない。だが、彼女の中には未だ人を疑って掛かる癖のようなものが抜けずにいただけなのかもしれない。
「確かに・・・そうかもしれないけど・・・。じゃぁアタシは、彼らを信じる二人を信じるよ」
「まさかそれで飯を断ったのか!?・・・はぁ~、勘弁してくれよぉ」
ミアの心情を察したのか、ツクヨは何も言わなかったが、ツバキは茶化すかのようにミアを小突いた。或いは彼も、ミアの表情から何かを察したのかもしれない。
暗い気持ちを引き摺らぬようにという、彼なりの配慮だったのかもしれない。ミアもそれに対し、少しだけ緩んだ表情を見せた。
三人は明日の出発に備え、休むことにした。ベッドはミアとツバキに譲り、ツクヨは部屋の端に置かれていたソファーで寝ると申し出る。
思春期のようなツバキのことだから、ミアと一緒に寝ることに対し、何か文句を言われるのではないかと思っていたツクヨだったが、意外なことに彼はツクヨの提案をすんなりと受け入れた。
彼もレースや旅の疲れが残っていたのだろうか。部屋に備えられていたシャワーをミアから順番に交代で使っていき、最後にツクヨが出る頃には既に二人は寝室へと入っていた。
何かあった時の為だろうか、扉は開けっぱなしになっており、灯りは消えている。
幸い、ダブルベッドは大人二人が使ったとしても余裕があるくらいの広さがあり、ミアとツバキはそれほど密着することなく眠れているようだった。
あまり覗くのも悪いと思ったツクヨは、音を立てないように寝室の入り口から離れ、ソファーに置かれた高級そうな毛布を掛けて就寝する。
三人は久々にゆっくりと静かに眠れた。思い返せば、聖都ユスティーチからまともに熟睡できていなかったように思える。
聖都で起きた事件から、逃げるようにその場を離れた彼らは、そのまま大海原を渡り新たな大陸へいく為にグラン・ヴァーグへと入る。
そこは海賊の街で、丁度フォリーキャナルレースという大きな催し物もあったことから、昼夜問わずお祭り騒ぎだった。
そしてレース中は、気の休まることもなく戦いの数々を乗り越え、大海賊達とのデッドヒートを繰り広げる。
ゴールした後も、それを祝うお祭り騒ぎが続き、仮眠こそ取れたものの騒がしさはグラン・ヴァーグと何も変わらなかった。
馬車の中でも少しは休めたが、暖かい場所で落ち着いて寝るのとは訳が違う。穏やかな街で外から聞こえてくる虫の鳴き声と、微かに吹く風が草木や街の看板を優しく撫でるメロディーを聴きながら、暖かくして目を閉じる。
溜まっていた疲れを今こそ癒す時と、瞼が重くなり身体の力が抜けていく。熟睡するまでに時間は掛からなかった。何を考える暇もないほど早くに意識を失い、彼らはこれからの旅に備えて英気を養う。
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