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神代 コウ

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隠された獣の牙

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 彼を部隊に引き入れ、その功績に見合う席を用意し褒美を与えた。彼は忠実に男の指示を全うし、海賊団の為に粉骨砕身努力していた。しかし、それは一方的な観点でしかなく、本当の彼の姿を誰も見ることはなかったのだ。

 共に戦った戦士も、同じ窯の飯を食らった仲間も、信頼し背中を預け全てを任せていた上官であろうとも。誰にも正体を明かすことなく、その獣は獲物の喉元に噛み付き、宿願を果たした。

 「どうして・・・。誰よりも信頼していたのに・・・」

 驚きと混乱で、辿々しい言葉しか出てこなかった。本人を目の前にしたら尚更だ。目的を果たした男の顔は、これまで見たこともないほど狡猾で醜悪に満ちた目つきをしていた。

 「アンタにはお礼を言わないとな。今にして思えば、アンタに拾われて良かったぜアンスティス。おかげで一切気取られることなく、ここまでやってこれた。言うなればこれは、アンタの功績だぜ。ありがとよ」

 「・・・俺の・・・?」

 アンスティスは、一味の中でも浮いていた自分を部隊長に抜擢し、自由に研究を行えるラボを与えてくれたデイヴィスに感謝していた。いつか彼の役に立ちたいと、心の底から思っていたのだ。

 口に出して言えばそれだけで良かったことなのかもしれない。だが彼は、口下手で語られる言葉よりも、態度と功績で示したかったのだ。なかなか仲間達から理解されない性格のアンスティスは、言葉では本当の気持ちを表現できないことを分かっていた。

 だからこそ、彼の意図を汲み取り体現する者が必要だった。それを率先して実行してくれていたのが、ウォルターだった。

 アンスティスの部隊に配属されてからと言うもの、彼ほどアンスティスの意図を汲み取ってくれる者はいなかった。アンスティスも彼を頼り、苦手な前線での戦闘と仲間達への指示、統率を見事にこなして見せた。

 それでもウォルターは、部隊長であるアンスティスの席を狙うこともなく、彼を誤解する者達への配慮もしてくれていた。他の部隊との仲を取り持つ役目も担い、デイヴィス海賊団の団結に大きな貢献をしたのだ。

 一人の手柄ではない。皆の理解と賛同があってこそだと、言葉巧みに一味を出し抜いて。

 「あぁ。アンタが俺の背中を押し、翼を授けてくれた!有象無象の狂信者達の中に活路を見出し、愛しきデイヴィスの元へと導いてくれた!俺をこんなにしたのは・・・アンタだぜ?アンスティス・・・」

 舌なめずりをし、悪魔のように不気味な微笑みで、動揺するアンスティスを煽るウォルター。傷心する彼の傷口に、浸透するように悪魔の囁きが染み渡る。自分の信じた者が、恩人の命を奪う獣であったことを知らず、その道標を示してしまった。

 強かな悪魔の計略を見抜けなかった自分の情けなさと、恩人に対して何たる仕打ちをしてしまったのかという後悔と懺悔が、彼の心の中で渦巻いていた。またしてもウォルターの饒舌に惑わされてしまうアンスティス。

 苦悩し自身の過去の行いに目を向けるアンスティス。無防備となった彼を見逃すほど、ウォルターは間抜けではない。言葉巧みに相手を操り、隙を突く彼の常套手段だ。

 ふと、視線をアンスティスの背後に向けるウォルター。そこには蜃気楼のように揺らめく不可視の、小動物の姿をした爆弾が彼の元へと近づいていた。

 動揺するアンスティスに、それを見極める余裕などない。このままでは彼も、悪魔の餌食になろうかというところで、突如ウォルターの差し向けた爆弾が、アンスティスを仕留めきれないような位置で爆発を引き起こす。

 「ボケッとすんな!戦闘に集中しろッ!」

 地を伝う錬金術でウォルターの爆弾を起爆したのは、ダラーヒムだった。ウォルターの意識がアンスティスに向いている間に、彼は気付かれぬようスキルを発動させていた。

 そして起爆と共にアンスティスの元へと駆け寄り、彼を悪の魔の手から救った。細身の身体はダラーヒムの逞しい腕に、まるで丸太のように片脇に抱えられ、安全なところへと運ばれる。

 「アンタはッ・・・!すまない、助かった」

 「安心すんのはまだ早ぇぞ!奴の爆弾がどこに潜んでいるのか分からねぇ・・・」

 「あぁ、大丈夫だ。ウォルターの爆弾を特定する手段はある」

 頼りないと思っていた男の口から出た言葉が嘘か真か。だがその表情は自信に満ち溢れている。伊達に長く一緒の船に乗っていた訳ではない。彼の心に潜む獰猛な獣こそ見つけることは出来なかったが、その牙を回避する術は習得していた。
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