World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
536 / 1,646

隠された獣の牙

しおりを挟む
 彼を部隊に引き入れ、その功績に見合う席を用意し褒美を与えた。彼は忠実に男の指示を全うし、海賊団の為に粉骨砕身努力していた。しかし、それは一方的な観点でしかなく、本当の彼の姿を誰も見ることはなかったのだ。

 共に戦った戦士も、同じ窯の飯を食らった仲間も、信頼し背中を預け全てを任せていた上官であろうとも。誰にも正体を明かすことなく、その獣は獲物の喉元に噛み付き、宿願を果たした。

 「どうして・・・。誰よりも信頼していたのに・・・」

 驚きと混乱で、辿々しい言葉しか出てこなかった。本人を目の前にしたら尚更だ。目的を果たした男の顔は、これまで見たこともないほど狡猾で醜悪に満ちた目つきをしていた。

 「アンタにはお礼を言わないとな。今にして思えば、アンタに拾われて良かったぜアンスティス。おかげで一切気取られることなく、ここまでやってこれた。言うなればこれは、アンタの功績だぜ。ありがとよ」

 「・・・俺の・・・?」

 アンスティスは、一味の中でも浮いていた自分を部隊長に抜擢し、自由に研究を行えるラボを与えてくれたデイヴィスに感謝していた。いつか彼の役に立ちたいと、心の底から思っていたのだ。

 口に出して言えばそれだけで良かったことなのかもしれない。だが彼は、口下手で語られる言葉よりも、態度と功績で示したかったのだ。なかなか仲間達から理解されない性格のアンスティスは、言葉では本当の気持ちを表現できないことを分かっていた。

 だからこそ、彼の意図を汲み取り体現する者が必要だった。それを率先して実行してくれていたのが、ウォルターだった。

 アンスティスの部隊に配属されてからと言うもの、彼ほどアンスティスの意図を汲み取ってくれる者はいなかった。アンスティスも彼を頼り、苦手な前線での戦闘と仲間達への指示、統率を見事にこなして見せた。

 それでもウォルターは、部隊長であるアンスティスの席を狙うこともなく、彼を誤解する者達への配慮もしてくれていた。他の部隊との仲を取り持つ役目も担い、デイヴィス海賊団の団結に大きな貢献をしたのだ。

 一人の手柄ではない。皆の理解と賛同があってこそだと、言葉巧みに一味を出し抜いて。

 「あぁ。アンタが俺の背中を押し、翼を授けてくれた!有象無象の狂信者達の中に活路を見出し、愛しきデイヴィスの元へと導いてくれた!俺をこんなにしたのは・・・アンタだぜ?アンスティス・・・」

 舌なめずりをし、悪魔のように不気味な微笑みで、動揺するアンスティスを煽るウォルター。傷心する彼の傷口に、浸透するように悪魔の囁きが染み渡る。自分の信じた者が、恩人の命を奪う獣であったことを知らず、その道標を示してしまった。

 強かな悪魔の計略を見抜けなかった自分の情けなさと、恩人に対して何たる仕打ちをしてしまったのかという後悔と懺悔が、彼の心の中で渦巻いていた。またしてもウォルターの饒舌に惑わされてしまうアンスティス。

 苦悩し自身の過去の行いに目を向けるアンスティス。無防備となった彼を見逃すほど、ウォルターは間抜けではない。言葉巧みに相手を操り、隙を突く彼の常套手段だ。

 ふと、視線をアンスティスの背後に向けるウォルター。そこには蜃気楼のように揺らめく不可視の、小動物の姿をした爆弾が彼の元へと近づいていた。

 動揺するアンスティスに、それを見極める余裕などない。このままでは彼も、悪魔の餌食になろうかというところで、突如ウォルターの差し向けた爆弾が、アンスティスを仕留めきれないような位置で爆発を引き起こす。

 「ボケッとすんな!戦闘に集中しろッ!」

 地を伝う錬金術でウォルターの爆弾を起爆したのは、ダラーヒムだった。ウォルターの意識がアンスティスに向いている間に、彼は気付かれぬようスキルを発動させていた。

 そして起爆と共にアンスティスの元へと駆け寄り、彼を悪の魔の手から救った。細身の身体はダラーヒムの逞しい腕に、まるで丸太のように片脇に抱えられ、安全なところへと運ばれる。

 「アンタはッ・・・!すまない、助かった」

 「安心すんのはまだ早ぇぞ!奴の爆弾がどこに潜んでいるのか分からねぇ・・・」

 「あぁ、大丈夫だ。ウォルターの爆弾を特定する手段はある」

 頼りないと思っていた男の口から出た言葉が嘘か真か。だがその表情は自信に満ち溢れている。伊達に長く一緒の船に乗っていた訳ではない。彼の心に潜む獰猛な獣こそ見つけることは出来なかったが、その牙を回避する術は習得していた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...