World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
537 / 1,646

獣を狩る二人の戦士

しおりを挟む
 爆弾を精製するにあたってよく耳にするのが、ニトロと呼ばれる成分が有名だろう。他にも様々な成分が混合されて作られている。

 少し掘り下げると、ニトロ基というものを芳香環に導入し、硝酸条件でニトロ化するのだという。イメージとしては、ニトロ基という孤立したものを、芳香環という組織の中に組み込むことで、ニトロ化するということだろうか。

 アンスティスは薬剤の知識を身につけており、ウォルターの作り出す爆弾に含まれるニトロに反応する薬剤を調合していたのだ。これにより、ウォルターの不可視の爆弾をより肉眼で確認しやすくすることが出来るのだという。

 「既に伏線は張った。これでウォルターの爆弾を確認出来る様になる筈だ・・・」

 「ほう?そいつは助かる。目に見えるのであればこれまで程の脅威ではなくなるな!」

 折角アンスティスがウォルターに気取られないように小声で伝えたことを、ダラーヒムはその豪快な体格や性格同様に、大きく口を開けて嬉しそうな表情をする。

 「はぁ・・・。君はもう少し手の内を隠す術を身につけた方が良いのでは・・・?」

 「性に合わねぇ!こそこそすんのは、俺らのやり方じゃぁねぇんだわ!」

 案の定、ウォルターはこちらを伺い何かを観察するように、攻撃の手を休めている。勘の鋭い彼が、アンスティスらの企みを見逃すはずがない。警戒しているのか、通常の目に見える砲弾型の爆弾を彼らに向けて差し向けるウォルター。

 両腕を頭上で交差させ、扇状に大きく腕を開く。その動線の上に、次々に砲弾が生成させれていくと、ウォルターは風を巻き起こすように腕を振り払い、砲弾は大筒から放たれたかのように撃ち出されていく。

 ダラーヒムはすかさずアンスティスの前に身を乗り出すと、手刀で床に指を突き刺し、板を剥がすように床を持ち上げると同時に、床の素材を錬金術のスキルで別の物体へと変化させる。

 木材はバチバチと稲光を纏い、鉄板のように強度の高い性質の板へと姿を変える。砲弾は鉄板に接触すると大きな爆発を起こす。ダラーヒムの作り出した鉄で出来た大きな壁は、爆発を受けるごとにその形を歪ませていく。

 長くは持たない。ダラーヒムがウォルターの気を引き付けている内に、素早くアンスティスは物陰へと走り、姿を隠す。ウォルターが一瞬、こちらへ視線を向けたような気がしたが、まるで眼中にないのか、ダラーヒムへの猛攻を続けている。

 アンスティスはウォルターに気付かれないように、物陰から身体を一切出さずに、懐に忍ばせた薬剤の入った小瓶を取り出すと、栓を抜き床へこぼした。するとアンスティスは、そのまま迂回するように物陰から物陰へと移動していき、同じことを繰り返していく。

 「オラァオラァッ!キングの護衛がこの程度かぁ!?守ってばかりじゃ妻らねぇだろ!」

 爆発の隙を伺い、錬金術で遠距離からウォルターへ攻撃を仕掛けるダラーヒムだったが、彼のスキルは物質の変化を表すように稲光を発してしまい、まるで導火線についた炎のように近づいてくるのが分かってしまう。

 足元に来るよりも先に、違う場所へと飛び退くウォルター。彼が元いた場所に稲光が到達すると、鋭利に尖った石柱のようなものが生成され、槍のようにウォルター目掛けて突き出した。

 空中で身を翻し、突き出る石柱を足場にして飛び上がる方向を変えるウォルター。爆弾で遠距離から戦う戦闘スタイルかと思いきや、素早い身のこなしも可能な、接近戦も行える万能な戦いを見せる。

 ウォルターの爆撃を受け、向こう側が覗けるような穴が空いた鉄板を、そのまま円盤投げのように投げるダラーヒム。それがウォルターに命中するなどとは、初めから思っていない。

 僅かでも視界から姿を消すことで、ウォルターの緊張感を保ちつつ、別の場所で新たな鉄板を生成し、大盾と石柱の槍で応戦する。一向に戦闘へ参加してこないアンスティスを警戒しつつ、ウォルターは遂に不可視の爆弾を使用する。

 爆発から身を守るダラーヒムの背後から、蜘蛛の形をした小型の不可視の爆弾が近づく。爪先をカチカチと小さく鳴らしながら、忍び寄るようにして迫る不可視の爆弾蜘蛛。

 爆発の音と鉄を打ち鳴らす衝撃に、爆弾が近づいていることに気がつかないダラーヒム。すると、彼の足元に小瓶が飛んで来て床に落ちる。割れた瓶の中身から飛び出した液体が、不可視の爆弾蜘蛛にかかるとその姿を表す。

 爆弾蜘蛛は液体をかけられたことで驚き、直様その場で爆発を試みる。だが、蜘蛛は何も起こらないことに動揺したかのように周囲を見渡す。そこへ音もなく近づいて来たアンスティスが、爆弾蜘蛛を短剣で突き刺し、床に固定する。

 もがき苦しむように足をバタつかせる蜘蛛。そのやり取りに、遅れて気がついたダラーヒムが窮地を救ってくれたアンスティスに感謝の言葉を贈る。

 「助かったぜぇ!お前がいなけりゃ、要らぬ傷を負っていたかもな」

 「死んでいたかもしれないがな・・・」

 「この程度で俺様が死ぬ?ハハハッ!こんなの擦り傷程度にしかならんわ!」

 やはりこの男は苦手だと、頭を抱えるアンスティスと、豪快に彼の背中を叩くダラーヒム。アンスティスが思う以上に二人は相性がいい。だが決定打にかける。それも時間の問題だろう。

 ウォルターの救援が来るのが先か、アンスティスの後を追っているロバーツが先か。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...