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神代 コウ

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船長としての道と景色

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 予期せぬ事態が立て続けに起き、判断に困っていたロバーツ。彼はデイヴィスとは違い守らねばならない多くの部下がいる。下手に全滅を招くような危険な真似はしたくない筈。

 しかし、慎重になる彼とは反対に、このチャンスを無駄には出来ないと焦りを見せるデイヴィス。計画の邪魔をしていた蟒蛇の弱体化は、彼の追い続けてきた陰る真実への道を再び導き出す追い風となっていた。

 「ロバーツ!このチャンスがいつまで続くか分からない・・・。今こそ計画を実行する時だ!」

 「いや、まだだデイヴィス!何が起こるか分からない現状で、キングんとこの戦力を削ぐのは危険だ。もう少し様子を見てからでも遅くないだろ!?」

 「次に起こるかもしれない変化が、必ずしも俺達にとってプラスに働くとは限らないだろ!?今起きているチャンスは今しかないんだぞ!俺は一人でもッ・・・」

 下を俯き野心に燃えるデイヴィス。このままでは本当に一人で乗り込んでしまいそうな勢いだった。熱くなるデイヴィスの肩を両手で掴み、必死に冷静さを取り戻させようとするロバーツ。

 「ここで無茶をすれば、全員の命が危うくなるんだ!・・頼むよ、デイヴィス。また俺達を振り回すのか・・・?」

 ロバーツの切実な声に、漸く頭を冷やしたデイヴィス。過去の過ちを再び再現してしまいそうになる彼は、残された船員達のことを思い出し、その胸中を想像し思いとどまる。

 自分勝手な理由で船を降り、散々船員達を振り回してきたデイヴィス。それでも彼らは、デイヴィスの望みを叶えてやろうと再び集まってくれた。そんな彼らの思いを無碍には出来ない。できる筈がなかった。

 「俺はまた同じ過ちを・・・。すまないロバーツ。お前の協力なくして、ここまで人員を集めることなど出来なかったというのに・・・」

 「分かってるよ、デイヴィス。お前のはやる気持ちも分からなくはない。俺だってここまで来るのに、大切な人や仲間を大勢失ってきた・・・。それでも立ち止まらなかったのは、アイツらがいるからだ。俺個人で見る世界と、アイツらと共に見る世界はまるで別ものだったからな・・・」

 思い出に耽るような遠い目をするロバーツ。大所帯となった海賊団の船長である重圧は、それ相応のものだった。それはデイヴィス海賊団の時代から、彼の背中を見て分かっていた。

 どんなに下っ端の船員の命も救い上げようとしていたデイヴィス。その決断で何度も危険な橋を渡ってきた。中にはついて行けない者もいたが、それでも仲間思いのデイヴィスだったからこそ、彼らもまたこうして集まってくれたのだろう。

 そんなデイヴィスの背中を見て、船長としての未来の道の一つを見届けたロバーツ。全ての命を平等に扱い、全てを助けようとするのはとても素晴らしく胸を打たれるものがあった。実際に命を救われた場面を経験したロバーツには、それが痛いほど分かる。

 だが、デイヴィスの後任を任される時、ロバーツは彼とは違うやり方で船長をしていくことを選んだ。デイヴィスのやり方に疑問や不満を持っていた訳ではない。

 ただ純粋に、一人の海賊の道を行く末を見たロバーツは、同じ道を歩きたいと思うのではなく、別の道で別の景色を見てみたいと思ったのだ。そこでロバーツが目指したのが、より多くの命を救う決断を下すというものだった。

 少数の犠牲で多くの命が救われるのなら、ロバーツは迷うことなく多くの命を選んできた。元デイヴィス海賊団であった彼らからしたら全く真逆の、心のない決断を下すロバーツのやり方に不満を抱く者が多かったのだ。

 それ故、デイヴィスのいなくなった後の新生ロバーツ海賊団は、幾つもの海賊団に枝分かれしていき、別々の道を歩んでいく結果となった。それでもロバーツは、自分が間違っているとは思わなかった。少なくとも、彼のやり方で救われた命も多くある。

 彼が自分のやり方を貫き通したのは、いつか自分もデイヴィスのように船長の座から降りた時、デイヴィスに会いに行き自分の見てきた道の景色を肴に、全てを忘れるくらい酔っ払って過去を語らえる日を夢見ていたからだ。

 そんな他愛のない未来の為に、道を踏み外す訳にはいかなかった。このままではきっと、望んだ未来が来たとしても、胸を張って語らえないと思ったからこそ、デイヴィスに無茶をさせる訳にはいかなかった。

 「だが、お前の言うことも一理ある。だからこそもう少しだ。もう少しだけ様子を見た後、その間に俺が他の連中と連携を取るから。そうしたらお前は、信号弾で合図をくれ。俺達は直ぐにレイド戦から手を引き、キング暗殺を優先する・・・」

 何もデイヴィスの気持ちを、ただ単に押さえ込んでいた訳ではない。ロバーツには混乱している他の海賊達と連携を取る時間が欲しかったのだ。蟒蛇の様子を見つつ、フィリップスや彼の掻き集めた政府に与する海賊達に連絡を取り、息を合わせる必要があった。

 それだけキングの組織は協力で、油断ならないからだ。なるべく被害を採取源に抑えつつ、最大限の力を発揮できる体勢で不意打ちを仕掛けることが、この計画が成就する何よりのポイントなのだから。
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