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神代 コウ

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神獣とコートの男

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 ロバーツの意外な反応に驚いた表情を見せるデイヴィス。てっきり彼は、巨大蟒蛇が弱るまで計画実行に協力しないものだと思っていたからだ。だがデイヴィスにとっては好都合。彼の提案を飲み、レイド戦を繰り広げる人間対蟒蛇の行方をもう少しだけ見守ることにした。

 「感謝するぜぇ・・・ロバーツ。お前が親友で良かったよまったく・・・」

 「デイヴィス、お前もな。だからどうか、無事でいてくれ・・・友よ」

 二人は軽く抱擁を交わすと、デイヴィスはシン達の乗るツバキの船へ、ロバーツは協力者の船へそれぞれ無線を飛ばす。別の場所で交戦するフィリップス達の船団の元へ、遠目にキングの船団が見える位置で戦う政府の海賊達の元へ。

 時間は限られている。蟒蛇の異変が彼らにとって悪い方へ転がる前に、事を済ませなければデイヴィスの宿願がなされることはないだろう。

 一方、その蟒蛇は黒コートの男によりかけられた呪術のようなものにより、依然苦しんでいる様子を見せる。黒コートの男は、風のように素早く蟒蛇の身体を頭部から背を渡り駆け抜けていく。

 そして数カ所、蟒蛇の頭部に突き刺したように、大きな鱗を軽々しく剥がし短剣で突き刺していく。その度に文字のようなものが、短剣を中心に蟒蛇の身体を這いずるように駆け回り、広がっていく。

 蟒蛇の力はみるみる失われていく。この調子ならば、攻撃を仕掛ける海賊達に討伐されるのも時間の問題かもしれない。

 「何 ヲ シタ!?コノヨウナ 真似ガ 出来ル ト 言ウコト ハ 貴様モ 奴等ノ 手ノ者カ・・・!」

 「いいや、違うな。お前をここへ送り込んだのは、言わばこの世界の管理者さ。俺はお前を在るべき場所へ帰すだけだ。それに・・・、お前は人間がまだこの世にいる限り決して滅びることのない、不滅の存在だろう?」

 黒コートの男は、移動しながら離れつつある頭部から聞こえてくる蟒蛇の声であろうものと会話をしている。誰にも聴こえていない、二人だけの会話。その内容は、例え現実の世界からWoFの世界へ来たシン達が聞いても、到底理解出来ないものだった。

 「人間トハ 何トモ 勝手ナ モノダ・・・。貴様ラ ノ 都合デ 我ヲ 生ミ出シ ソシテ 利用スル。 何トモ 悍シイ 姿ニ 何トモ 恐ロシイ チカラ。 コンナ モノヲ 創造スル トハ・・・」

 「だが、その人間がいなければお前は存在していないし、その圧倒的な力を得ることもなかった。違うか?」

 「ソウダトモ。ヤハリ 楽園デ 実ヲ 得テシマッタノガ 全テノ 始マリカ・・・。ヨモヤ コレ程マデニ 創造力ヲ ツケル 種デアルトハ 神モ 思ワナンダロウナ・・・」

 蟒蛇の身体からは、それまで発現していた能力も、動く力さえも抜けていくようだった。すっかり大人しくなってしまった蟒蛇に、黒コートの男は口を噤む。彼自身、蟒蛇からそんな言葉が聞けるとは思ってもいなかったのだろう。

 「ダガ ソノ時マデハ 全力デ 争ワセテモラオウ」

 一時的に動くのをやめたかのように思われた蟒蛇は、再び身体に力を込めて動き出す。まるで最後の足掻きと言わんばかりに抵抗する。振り落とされそうになりながらも、短剣を突き刺した場所から、次のポイントへ向かう黒コートの男。

 「流石と言うべきか・・・。これが神の元を離れ、叡智を手に入れた人の生み出す力か・・・。人の手を離れる前でよかったと、心の底から感謝しよう。大海の神獣、“リヴァイアサン“・・・」

 黒コートの口から、蟒蛇の本当の名が語られた。それはシン達の暮らす現実世界における聖書にある、創世記の一文に存在する名だった。神が天地創造の際に造り出した存在の一つ。大海に造られた最強の生物、リヴァイアサン。

 様々な創作物で出てくるその名は、シン達のような者達であっても名前くらいは知っているような有名な名前。その多くはファンタジー作品に描かれることが多く、実在したかどうかなどは確認の取りようがない。

 WoFの世界も、元はと言えば誰かが造り出したファンタジー作品の一つ。神や悪魔、神獣や魔物などが存在していること自体は、別段おかしな話ではない。問題は、それが何故このような場に現れたのかと言うことだ。

 その海域に潜む危険なモンスターがいれば、海で生きる海賊達の誰もが知らないと言うことはまずあり得ない。これだけ巨大な身体を、幾年もの歳月の中で隠し切ることなど不可能だろう。

 リヴァイアサンの言葉の中に興味深いものがある。それは、この神獣をレースのレイド戦の場に送り込んだ者がいるということだ。そしてそれは、今この場にいる黒いコートを着た男と、その連れの者ではないということだ。

 だが、ここにいる黒コートの男であれば、リヴァイアサンを在るべき場所に戻せるのだそうだ。男の正体も、その言葉も本当であるかは分からない。しかし海賊達やシン達は、その行動に乗じる他なかった。
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