World of Fantasia

神代 コウ

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 ツバキが意識を取り戻すと、直ぐにでもレースに戻らなければシン達に勝機はない。感謝とお礼を済ませ、船員達によって応急処置を施されたツバキの船に戻るシン達一行。船の中にはある程度の物資と、修繕の道具が積み込まれていた。

 「こんないっぱい・・・。いいのか?」

 小さな船に沢山積み込まれた様々な物資やアイテムを見て、本来であればチン・シー海賊団の船にも必要な物まで積んであることに、少し引目を感じたシン達だったが、何も気にすることはないと、わざわざ自ら見送りに来てくれていたチン・シーが答える。

 「遠慮はするな。汝らはそれだけの功績を立てて見せた。寧ろ、この程度の褒美しか用意できぬこと許せ」

 これ以上乗せたら沈んでしまうと、冗談交じりに語るツクヨが場を和ませる。それにシン達は、本当に彼女の期待に添えるだけの活躍が出来たのだろうかと、心のどこかで思っていた。

 彼らの戦いは、誰にでも誇れる勝利だっただろうか。少なくともシンとミアは悔しい思いをしていた。二人の戦果は勝利には貢献したものの、決定打にはなっていない。成長はあれど、立ちはだかる壁を打ち壊すには至らなかったことが心残りとなっていた。

 「とんでもない。結果的に勝敗を決めたのはアンタ達だ。それに、死力を尽くして戦ったのは皆同じ・・・。いなくなってしまった者達もきっと、誇りに思っている筈だ・・・」

 「・・・それだけ分かっているのなら胸を張れ。言ったであろう?一人の武勲が勝利を招くのではない。各々の武勲で勝利を招くのだと。奴らの内、誰が欠けていてもこのような結果にはならなかったと妾は思う。だから卑屈にならず、自分を褒めてやれ。時にはそういう時も必要ぞ」

 彼女の言葉はどれもシン達の胸に染みた。それは彼らの目指す、強さの理想の形によく似ているからだろう。個人による絶対的な強さよりも、仲間との協力により得られる強さに憧れていたからだ。

 現実世界で他者に裏切られ、傷付けられようとも人を嫌いになった訳ではない。誰かと寄り添い語らい、喜怒哀楽を共有する。そんな何処にでもある当たり前の光景が、シンとミアにとって羨ましくもあり、憧れた日々だったのだ。

 だが、そんな何処にでもある幸せに巡り会えなかったからこそ、今の彼らがいる。そして今、大勢による一致団結を果たし、大きな困難を乗り越えた。そう思うことで彼らの心も軽くなった気がした。

 「さぁ、行くがよい!我らも直ぐに追いつく故、安心いたせ。・・・まぁレースに関しては手加減せぬがな。ハオラン、お前も準備をせよ。先にレイド戦へ赴き、情報を集めて来い!それを我らへ手をあげたことに対する贖罪と致す」

 チン・シーの後方から現れたハオランが、ツバキから譲り受けたボードを持ち、シン達の前に歩み寄る。不可抗力とはいえ、ロロネーの術中にハマり主人や仲間達に攻撃をしてしまったことは、規律を重んじる彼女らにとって許されることではない。

 通常、入る筈の無線が入らなかったということは、レイド戦においても何か良からぬことが起きているやも知れない。先を急ぐハオランは、シン達と共には行かず、ツバキのボードの能力を活かし、最速でレイド戦が行われているであろう場所へと向かう。

 シン達やツバキにとっても、ハオランが先陣を切って進んでくれることはありがたかった。道中で異世界への転移ポータルを生成できるアイテムの回収を目的とするシン達と、レースで自身の名と実績を手に入れたいツバキの目的を、ハオランが上位に入賞することで両方達成させることが出来るのだから。

 シン達WoFのユーザーとは違い、傷の治りが遅いツバキを庇い、彼らはここから最寄りの島々を巡るルートを辿ることを決め、チン・シー海賊団に別れを告げる。何れ誰かしらの協力は必要となる筈だったが、図らずして優勝候補である強力な大海賊の助力を得ることになったシン達一行。

 これでレイド戦へ突入しても、グレイスやチン・シーとの連携が取れるようになった。応急処置を施されたツバキの船は、ゆっくりとその歩みを進めながら大海原を渡って行く。

 操縦をツクヨに任せ、周囲の警戒をシンとミアが、そして休憩がてらにチン・シーから譲り受けた物資で、船の修繕を行うツバキ。そのついで船の性能を向上させると息巻くツバキは、より小回りの利くスピードを重視した修繕と改良を施す。

 元々の船の大きさが、他の海賊団や参加者達の船に比べ小さい為、強度や攻撃性能を伸ばしたところで張り合うことはまず出来ない。ならば有利な点を突出させることで、他にはない動きで勝負しようと考えた。

 ツバキが改良を施していると、見張りをしていたシン達から報告が入る。何でも船の進路上に一つ目の島が見えてきたというのだ。最初にハオランを見つけ、グレイス海賊団と合流した時の孤島と然程変わりのない規模の島。

 財宝やアイテムがどのように隠してあるのか、未だ分からなかったシン達は初めての探索には丁度良いと、早速島の安全を確認し上陸する準備を始める。周辺には他の船などは見当たらない。如何やら他の参加者はいないようだった。

 島に近づくとゆっくり船を近づけ、先に島へと降り立つシンとミア。いつ何時戦闘になってもいいように、武器を構え海岸を進む。これと言って変わったところはない、至って普通の無人島といったところだろうか。

 砂浜に足跡もなく、島には誰かが上陸していたような痕跡もない。ただ風に揺れる草木の音と、鳥の囀りが聞こえるだけで、危険な様子はなかった。ツクヨとツバキは船に残り、いつでも島を脱せられるように待機し、探索はシンとミアだけで行った。

 以前の失敗を活かし、今回は二手に分かれることなく二人一緒に探索をしていると、島の植物の中に隠されるようにして息を潜める箱を見つける。短剣で葉を払い箱を取り出すと、見てくれはまるで宝箱のような外装をしている。

 だがそれは綺麗なものではなく、どれだけの時間が経ったのだろうか、酷く風化している。中身が分からない以上、無闇に素手で開けるのも危険かと謀ったシンは、手にした短剣の剣先で蓋を開ける。

 中身は何となく予想はついていた。軋むような音を立てながら口を開いた宝箱の中には、何も入っていなかった。強いていうのであれば、島の砂と植物が入っていると言ったところ。

 二人は視線を交わし顔を見合わせる。そして言葉を発することなく、再び探索を再開し、その後もいくつかの箱を見つけるも、中身は空っぽのものばかりで収穫はなかった。

 「これもダメだ。この島には何もないのか?」

 「それか、もう漁られた後か・・・だな。比較的綺麗な宝箱もあったが、中身はない。誰かがいた痕跡はないが、私らより先に既に誰か来ていたのだろう。それだけ時間を食われたからな・・・」

 ロッシュやロロネーとの戦闘で、どれだけのタイムロスをしたのかは分からない。ただレースであれば先を行った船が多くいたのは確実。ミアの言う通り、先陣を行った者達が既にアイテムを回収していったのだろう。

 「戻ろう。これ以上は時間の無駄だ」

 その場を後にし、船へ戻ろうとしたところに、いるはずの無い人の声が聞こえてくる。島中を確認し、痕跡すら見つけることが出来なかった故、シン達は真っ暗な夜道に背後から急に話しかけられたかのように驚いた。

 「探し物は見つかったかい?」

 背後を振り返るが誰もいない。すると視界にパラパラと上の方から砂のようなものが降っているのを捉えると、視線を木の上の方へと移す。そこには太い木の枝に腰掛ける一人の男の姿があった。
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