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知られたくない罪
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突如声をかけていた男に、空かさずミアは銃口を向ける。すると男は、攻撃する意思がないのか両手を上げて降伏の意をシン達に示した。
「おいおいッ!いきなり物騒な女だな・・・。少しは話を聞こうって気はねぇのかよ!」
「黙れ。痕跡を消し、不意を打つような奴と話すことなど無い。・・・それにアタシらには赤の他人を信じられる程の余裕など、持ち合わせてはいないのでな」
ミアの言う通り、通常海賊などというものに就いている者など、信用しろという方が難しいだろう。グレイスやチン・シーに関しては、両海賊団とも本人や幹部のメンバーと面識があり、任務という名のクエストを共にした仲でもあった。
だがこの男は違う。顔も知らなければ名前も知らない。グラン・ヴァーグの会場でも見たこともない人物だ。それが攻撃を仕掛ける訳でもなく、対話を求めてくるということは、少なからずシン達に関する何らかの情報を得ている可能性が高い。
こちらのことを知られている可能性が少しでもあるのなら、情報が他の者達に漏洩しない内に手を打っておきたいのは最もな話だろう。
「落ち着けよ。何も戦おうってんじゃねぇんだ。殺すつもりなら声なんてかけねぇだろ?」
「油断させて不意を突くんじゃないか?何処かに仲間が居るとも知れない・・・。本当に攻撃の意思が無く、話をしようっていうのなら降りて来い。拘束した状態で良ければ話を聞こう」
「・・・何て気の強ぇ女だ・・・。アンタも苦労するな」
男はシンの方へ、同情の視線を送る。そしてミアの言う通り木から降りて来ると、両手を上げたまま二人の元へと近づく。ミアはシンに、スキルで拘束するよう促すと、手の内を見られぬように自身の投擲武器を近くの影の中へ投げ込み、間接的に“繋影“で男を拘束する。
すると男は、シンの行動だけを見て見破ったのか、驚いた表情を見せて感嘆の声を上げる。ミアの読み通り、この男はシンのスキルについて知っているような様子だった。
「ほぅ・・・こりゃぁ驚いたな。なるほど、闇討ちにはもってこいのスキルだ」
「・・・何故、こちらの手の内を知っている・・・?」
拘束はしたものの、ミアの目つきは更に鋭くなる一方だった。それにこちらはこの男のことを知らない。どんなクラスでどんな能力、スキルを使うのか。拘束され、銃口を突きつけられている状況にしては、些か呑気過ぎるように思える。
直ぐにでも現状を逆転出来る術を持ち合わせているのだろうか。ミアは男の歩みを停止させ、話の内容を伺う。ここまでの条件を呑み従ってきたのだ。処遇に対して考えるのは、話を聞いて何かしらの情報を得てからでも遅くはないだろう。
ミアが相手を騙し、空かさず殺すような手段を取らなかったことに、シンは安堵した。仲間を守るためでもあるのだろうが、たまにミアが何を考えているのか分からなくなっていた。
「そっちの男の能力については、“キング“んとこの連中の話を盗み聞きして知ったんだよ。アンタら奴の“島“で騒ぎを起こしたそうじゃねぇか。怖いもの知らずって、街じゃちょっとした噂になってたぜ?」
そんなこともあったなと、片手で額を抑え頭を横にふり、大きな溜め息をついたミア。そしてシンの脳裏にも、当時の光景が思い浮かんだ。男の言った“島“とは、キングがバックに着いている店の事だろう。そしてキングはミアがダブルクラスである事と、シンがアサシンのクラスである事を見抜いていた。
どのようなルートで情報を得たのかは定かではないが、シン達が聖都ユスティーチでシュトラール死亡の一件に関与している事を知っていた。正確な情報でないにしても、あのような一件を知られてしまうのは、シン達の首を締めかねない事だ。
この男がどこまでシン達のことを聞いたのか確かめる必要が出てきた以上、話を聞かざるを得なくなった。
「連中はなんと・・・?」
先に自身の事についての情報が出てきたシンが、思わず男に問いを投げかける。興味を持ってくれたのかと、男は口角を上げて笑みを見せると話を続けた。
「何、大した事じゃねぇさ。そっちの兄ちゃんが“アサシン“っつぅ珍しいクラスである事と、アンタがダブルクラスでガンスリンガーである事。それにアンタらが聖都の方からやって来た、グラン・ヴァーグにいる者としちゃ珍しいレースの事を知らねぇ冒険者様一行だって事くらいなもんだ」
男にこちらのクラスが割れていると思った方が良さそうだ。そして恐らく、そのクラスについて調べて来ているということも考慮しなければならない。ミアのガンスリンガーに関しては、銃を見て感づいたのだろうが、もう一つのクラスに関しては触れてこなかった。
万が一戦うことになれば、頼りになるのはミアのもう一つのクラスによる能力。幸い彼女はロロネー海賊団との一戦で、そちら方面の能力が著しく成長し、大きな力を得た。
そして聖都から来たことも知られている。シュトラールの一件に関しては触れなかったが、流石にそれはこちら側から口にすることは出来ない。
「お前の目的は何だ?アタシらの事を聞いて何をしていた?」
ミアの質問に、男はそれまでの表情が消え、一転して真面目な面持ちへと変わる。まるでこれから話すことが本題であるかのように。少し息を整え目を閉じると、暫しの沈黙を経て男はシン達に声をかけた目的について語り始める。
「単刀直入に話す。俺は・・・キングを追っている。そして奴の口から真実を聞き出した後に殺す・・・」
男は二人が想像していたこととは違った答えを口にする。シン達はてっきり、弱みを握り脅しに来るのかとばかり思っていた。しかし男の口にした人物の名はキング。チン・シーと同じく、このレースの優勝候補者であり、勢力だけならチン・シー海賊団をも凌ぐと言われている。
「だが当然、奴の首を取るなど容易なことじゃねぇ・・・。それだけ奴の組織は強大なものになっている。対抗するにはそれと同等に近い戦力が必要だ・・・」
言い分は最もだ。総力戦ともなれば、それは大きな海戦とも成り兼ねないだろう。他国にまでその情報網を引くキングの組織が、一体どれ程大きな規模であるかは想像がつかない。そんなものとやり合うと言うのであれば、相応の相手が必要になる。
「俺は政府の奴らを煽り、奴にけしかけた。このレースには裏で政府に加担している海賊が紛れている。そいつらにキングを襲わせ、乱戦になっているところを暗殺しようってのが、俺の作戦だ。そしてそれには、アンタの“アサシン“としての能力が役に立つ」
あくまで男の目的は、組織の壊滅ではなくキング一人の首ということなのだろう。だがそんな危険なことに力は貸せない。シン達にとっても命の危機に陥るのは確実。万が一作戦が上手くいき、キングを暗殺出来たとしても、今後組織から命を狙われ続ける羽目に成り兼ねない。
断ろうと口を開いたシンだったが、言葉を発する前にそれを遮るようにして男が話し出す。それはシン達の心を迷わせる言葉だった。
「さっき俺は、アンタ達に鎌をかけた。そしてどうやらアンタ達は、キング知られたくねぇ事を知られているようだと分かった。奴は残酷で非道な、筋金入りのクズ野郎だ・・・。アンタらのその知られたくねぇ情報を商売に使い、世界中にばら撒かれたらどうする?奴がその気なら、あらゆる手段を使って地の果てまで命を狙い続ける事だって出来るんだ」
背筋に寒気がした。男の言っていることは、あながち夢幻とも言い切れないからだ。聖都でのシュトラール死亡による、国家転覆の危機をもたらした事件。その重要人物として全ての罪を被ってくれたのは、シン達と共にルーフェン・ヴォルフの者達や聖都の人々を解放する為に戦った“アーテム“だ。
今も尚、彼は世界から指名手配されている重罪人。シン達がこの一件に絡んでいると知られれば、彼らも指名手配されることだろう。それを考えると、身体中の毛穴という毛穴から全ての水分が抜けていくようだった。
「おいおいッ!いきなり物騒な女だな・・・。少しは話を聞こうって気はねぇのかよ!」
「黙れ。痕跡を消し、不意を打つような奴と話すことなど無い。・・・それにアタシらには赤の他人を信じられる程の余裕など、持ち合わせてはいないのでな」
ミアの言う通り、通常海賊などというものに就いている者など、信用しろという方が難しいだろう。グレイスやチン・シーに関しては、両海賊団とも本人や幹部のメンバーと面識があり、任務という名のクエストを共にした仲でもあった。
だがこの男は違う。顔も知らなければ名前も知らない。グラン・ヴァーグの会場でも見たこともない人物だ。それが攻撃を仕掛ける訳でもなく、対話を求めてくるということは、少なからずシン達に関する何らかの情報を得ている可能性が高い。
こちらのことを知られている可能性が少しでもあるのなら、情報が他の者達に漏洩しない内に手を打っておきたいのは最もな話だろう。
「落ち着けよ。何も戦おうってんじゃねぇんだ。殺すつもりなら声なんてかけねぇだろ?」
「油断させて不意を突くんじゃないか?何処かに仲間が居るとも知れない・・・。本当に攻撃の意思が無く、話をしようっていうのなら降りて来い。拘束した状態で良ければ話を聞こう」
「・・・何て気の強ぇ女だ・・・。アンタも苦労するな」
男はシンの方へ、同情の視線を送る。そしてミアの言う通り木から降りて来ると、両手を上げたまま二人の元へと近づく。ミアはシンに、スキルで拘束するよう促すと、手の内を見られぬように自身の投擲武器を近くの影の中へ投げ込み、間接的に“繋影“で男を拘束する。
すると男は、シンの行動だけを見て見破ったのか、驚いた表情を見せて感嘆の声を上げる。ミアの読み通り、この男はシンのスキルについて知っているような様子だった。
「ほぅ・・・こりゃぁ驚いたな。なるほど、闇討ちにはもってこいのスキルだ」
「・・・何故、こちらの手の内を知っている・・・?」
拘束はしたものの、ミアの目つきは更に鋭くなる一方だった。それにこちらはこの男のことを知らない。どんなクラスでどんな能力、スキルを使うのか。拘束され、銃口を突きつけられている状況にしては、些か呑気過ぎるように思える。
直ぐにでも現状を逆転出来る術を持ち合わせているのだろうか。ミアは男の歩みを停止させ、話の内容を伺う。ここまでの条件を呑み従ってきたのだ。処遇に対して考えるのは、話を聞いて何かしらの情報を得てからでも遅くはないだろう。
ミアが相手を騙し、空かさず殺すような手段を取らなかったことに、シンは安堵した。仲間を守るためでもあるのだろうが、たまにミアが何を考えているのか分からなくなっていた。
「そっちの男の能力については、“キング“んとこの連中の話を盗み聞きして知ったんだよ。アンタら奴の“島“で騒ぎを起こしたそうじゃねぇか。怖いもの知らずって、街じゃちょっとした噂になってたぜ?」
そんなこともあったなと、片手で額を抑え頭を横にふり、大きな溜め息をついたミア。そしてシンの脳裏にも、当時の光景が思い浮かんだ。男の言った“島“とは、キングがバックに着いている店の事だろう。そしてキングはミアがダブルクラスである事と、シンがアサシンのクラスである事を見抜いていた。
どのようなルートで情報を得たのかは定かではないが、シン達が聖都ユスティーチでシュトラール死亡の一件に関与している事を知っていた。正確な情報でないにしても、あのような一件を知られてしまうのは、シン達の首を締めかねない事だ。
この男がどこまでシン達のことを聞いたのか確かめる必要が出てきた以上、話を聞かざるを得なくなった。
「連中はなんと・・・?」
先に自身の事についての情報が出てきたシンが、思わず男に問いを投げかける。興味を持ってくれたのかと、男は口角を上げて笑みを見せると話を続けた。
「何、大した事じゃねぇさ。そっちの兄ちゃんが“アサシン“っつぅ珍しいクラスである事と、アンタがダブルクラスでガンスリンガーである事。それにアンタらが聖都の方からやって来た、グラン・ヴァーグにいる者としちゃ珍しいレースの事を知らねぇ冒険者様一行だって事くらいなもんだ」
男にこちらのクラスが割れていると思った方が良さそうだ。そして恐らく、そのクラスについて調べて来ているということも考慮しなければならない。ミアのガンスリンガーに関しては、銃を見て感づいたのだろうが、もう一つのクラスに関しては触れてこなかった。
万が一戦うことになれば、頼りになるのはミアのもう一つのクラスによる能力。幸い彼女はロロネー海賊団との一戦で、そちら方面の能力が著しく成長し、大きな力を得た。
そして聖都から来たことも知られている。シュトラールの一件に関しては触れなかったが、流石にそれはこちら側から口にすることは出来ない。
「お前の目的は何だ?アタシらの事を聞いて何をしていた?」
ミアの質問に、男はそれまでの表情が消え、一転して真面目な面持ちへと変わる。まるでこれから話すことが本題であるかのように。少し息を整え目を閉じると、暫しの沈黙を経て男はシン達に声をかけた目的について語り始める。
「単刀直入に話す。俺は・・・キングを追っている。そして奴の口から真実を聞き出した後に殺す・・・」
男は二人が想像していたこととは違った答えを口にする。シン達はてっきり、弱みを握り脅しに来るのかとばかり思っていた。しかし男の口にした人物の名はキング。チン・シーと同じく、このレースの優勝候補者であり、勢力だけならチン・シー海賊団をも凌ぐと言われている。
「だが当然、奴の首を取るなど容易なことじゃねぇ・・・。それだけ奴の組織は強大なものになっている。対抗するにはそれと同等に近い戦力が必要だ・・・」
言い分は最もだ。総力戦ともなれば、それは大きな海戦とも成り兼ねないだろう。他国にまでその情報網を引くキングの組織が、一体どれ程大きな規模であるかは想像がつかない。そんなものとやり合うと言うのであれば、相応の相手が必要になる。
「俺は政府の奴らを煽り、奴にけしかけた。このレースには裏で政府に加担している海賊が紛れている。そいつらにキングを襲わせ、乱戦になっているところを暗殺しようってのが、俺の作戦だ。そしてそれには、アンタの“アサシン“としての能力が役に立つ」
あくまで男の目的は、組織の壊滅ではなくキング一人の首ということなのだろう。だがそんな危険なことに力は貸せない。シン達にとっても命の危機に陥るのは確実。万が一作戦が上手くいき、キングを暗殺出来たとしても、今後組織から命を狙われ続ける羽目に成り兼ねない。
断ろうと口を開いたシンだったが、言葉を発する前にそれを遮るようにして男が話し出す。それはシン達の心を迷わせる言葉だった。
「さっき俺は、アンタ達に鎌をかけた。そしてどうやらアンタ達は、キング知られたくねぇ事を知られているようだと分かった。奴は残酷で非道な、筋金入りのクズ野郎だ・・・。アンタらのその知られたくねぇ情報を商売に使い、世界中にばら撒かれたらどうする?奴がその気なら、あらゆる手段を使って地の果てまで命を狙い続ける事だって出来るんだ」
背筋に寒気がした。男の言っていることは、あながち夢幻とも言い切れないからだ。聖都でのシュトラール死亡による、国家転覆の危機をもたらした事件。その重要人物として全ての罪を被ってくれたのは、シン達と共にルーフェン・ヴォルフの者達や聖都の人々を解放する為に戦った“アーテム“だ。
今も尚、彼は世界から指名手配されている重罪人。シン達がこの一件に絡んでいると知られれば、彼らも指名手配されることだろう。それを考えると、身体中の毛穴という毛穴から全ての水分が抜けていくようだった。
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