World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
413 / 1,646

知られたくない罪

しおりを挟む
 突如声をかけていた男に、空かさずミアは銃口を向ける。すると男は、攻撃する意思がないのか両手を上げて降伏の意をシン達に示した。

 「おいおいッ!いきなり物騒な女だな・・・。少しは話を聞こうって気はねぇのかよ!」

 「黙れ。痕跡を消し、不意を打つような奴と話すことなど無い。・・・それにアタシらには赤の他人を信じられる程の余裕など、持ち合わせてはいないのでな」

 ミアの言う通り、通常海賊などというものに就いている者など、信用しろという方が難しいだろう。グレイスやチン・シーに関しては、両海賊団とも本人や幹部のメンバーと面識があり、任務という名のクエストを共にした仲でもあった。

 だがこの男は違う。顔も知らなければ名前も知らない。グラン・ヴァーグの会場でも見たこともない人物だ。それが攻撃を仕掛ける訳でもなく、対話を求めてくるということは、少なからずシン達に関する何らかの情報を得ている可能性が高い。

 こちらのことを知られている可能性が少しでもあるのなら、情報が他の者達に漏洩しない内に手を打っておきたいのは最もな話だろう。

 「落ち着けよ。何も戦おうってんじゃねぇんだ。殺すつもりなら声なんてかけねぇだろ?」

 「油断させて不意を突くんじゃないか?何処かに仲間が居るとも知れない・・・。本当に攻撃の意思が無く、話をしようっていうのなら降りて来い。拘束した状態で良ければ話を聞こう」

 「・・・何て気の強ぇ女だ・・・。アンタも苦労するな」

 男はシンの方へ、同情の視線を送る。そしてミアの言う通り木から降りて来ると、両手を上げたまま二人の元へと近づく。ミアはシンに、スキルで拘束するよう促すと、手の内を見られぬように自身の投擲武器を近くの影の中へ投げ込み、間接的に“繋影“で男を拘束する。

 すると男は、シンの行動だけを見て見破ったのか、驚いた表情を見せて感嘆の声を上げる。ミアの読み通り、この男はシンのスキルについて知っているような様子だった。

 「ほぅ・・・こりゃぁ驚いたな。なるほど、闇討ちにはもってこいのスキルだ」

 「・・・何故、こちらの手の内を知っている・・・?」

 拘束はしたものの、ミアの目つきは更に鋭くなる一方だった。それにこちらはこの男のことを知らない。どんなクラスでどんな能力、スキルを使うのか。拘束され、銃口を突きつけられている状況にしては、些か呑気過ぎるように思える。

 直ぐにでも現状を逆転出来る術を持ち合わせているのだろうか。ミアは男の歩みを停止させ、話の内容を伺う。ここまでの条件を呑み従ってきたのだ。処遇に対して考えるのは、話を聞いて何かしらの情報を得てからでも遅くはないだろう。

 ミアが相手を騙し、空かさず殺すような手段を取らなかったことに、シンは安堵した。仲間を守るためでもあるのだろうが、たまにミアが何を考えているのか分からなくなっていた。

 「そっちの男の能力については、“キング“んとこの連中の話を盗み聞きして知ったんだよ。アンタら奴の“島“で騒ぎを起こしたそうじゃねぇか。怖いもの知らずって、街じゃちょっとした噂になってたぜ?」

 そんなこともあったなと、片手で額を抑え頭を横にふり、大きな溜め息をついたミア。そしてシンの脳裏にも、当時の光景が思い浮かんだ。男の言った“島“とは、キングがバックに着いている店の事だろう。そしてキングはミアがダブルクラスである事と、シンがアサシンのクラスである事を見抜いていた。

 どのようなルートで情報を得たのかは定かではないが、シン達が聖都ユスティーチでシュトラール死亡の一件に関与している事を知っていた。正確な情報でないにしても、あのような一件を知られてしまうのは、シン達の首を締めかねない事だ。

 この男がどこまでシン達のことを聞いたのか確かめる必要が出てきた以上、話を聞かざるを得なくなった。

 「連中はなんと・・・?」

 先に自身の事についての情報が出てきたシンが、思わず男に問いを投げかける。興味を持ってくれたのかと、男は口角を上げて笑みを見せると話を続けた。

 「何、大した事じゃねぇさ。そっちの兄ちゃんが“アサシン“っつぅ珍しいクラスである事と、アンタがダブルクラスでガンスリンガーである事。それにアンタらが聖都の方からやって来た、グラン・ヴァーグにいる者としちゃ珍しいレースの事を知らねぇ冒険者様一行だって事くらいなもんだ」

 男にこちらのクラスが割れていると思った方が良さそうだ。そして恐らく、そのクラスについて調べて来ているということも考慮しなければならない。ミアのガンスリンガーに関しては、銃を見て感づいたのだろうが、もう一つのクラスに関しては触れてこなかった。

 万が一戦うことになれば、頼りになるのはミアのもう一つのクラスによる能力。幸い彼女はロロネー海賊団との一戦で、そちら方面の能力が著しく成長し、大きな力を得た。

 そして聖都から来たことも知られている。シュトラールの一件に関しては触れなかったが、流石にそれはこちら側から口にすることは出来ない。

 「お前の目的は何だ?アタシらの事を聞いて何をしていた?」

 ミアの質問に、男はそれまでの表情が消え、一転して真面目な面持ちへと変わる。まるでこれから話すことが本題であるかのように。少し息を整え目を閉じると、暫しの沈黙を経て男はシン達に声をかけた目的について語り始める。

 「単刀直入に話す。俺は・・・キングを追っている。そして奴の口から真実を聞き出した後に殺す・・・」

 男は二人が想像していたこととは違った答えを口にする。シン達はてっきり、弱みを握り脅しに来るのかとばかり思っていた。しかし男の口にした人物の名はキング。チン・シーと同じく、このレースの優勝候補者であり、勢力だけならチン・シー海賊団をも凌ぐと言われている。

 「だが当然、奴の首を取るなど容易なことじゃねぇ・・・。それだけ奴の組織は強大なものになっている。対抗するにはそれと同等に近い戦力が必要だ・・・」

 言い分は最もだ。総力戦ともなれば、それは大きな海戦とも成り兼ねないだろう。他国にまでその情報網を引くキングの組織が、一体どれ程大きな規模であるかは想像がつかない。そんなものとやり合うと言うのであれば、相応の相手が必要になる。

 「俺は政府の奴らを煽り、奴にけしかけた。このレースには裏で政府に加担している海賊が紛れている。そいつらにキングを襲わせ、乱戦になっているところを暗殺しようってのが、俺の作戦だ。そしてそれには、アンタの“アサシン“としての能力が役に立つ」

 あくまで男の目的は、組織の壊滅ではなくキング一人の首ということなのだろう。だがそんな危険なことに力は貸せない。シン達にとっても命の危機に陥るのは確実。万が一作戦が上手くいき、キングを暗殺出来たとしても、今後組織から命を狙われ続ける羽目に成り兼ねない。

 断ろうと口を開いたシンだったが、言葉を発する前にそれを遮るようにして男が話し出す。それはシン達の心を迷わせる言葉だった。

 「さっき俺は、アンタ達に鎌をかけた。そしてどうやらアンタ達は、キング知られたくねぇ事を知られているようだと分かった。奴は残酷で非道な、筋金入りのクズ野郎だ・・・。アンタらのその知られたくねぇ情報を商売に使い、世界中にばら撒かれたらどうする?奴がその気なら、あらゆる手段を使って地の果てまで命を狙い続ける事だって出来るんだ」

 背筋に寒気がした。男の言っていることは、あながち夢幻とも言い切れないからだ。聖都でのシュトラール死亡による、国家転覆の危機をもたらした事件。その重要人物として全ての罪を被ってくれたのは、シン達と共にルーフェン・ヴォルフの者達や聖都の人々を解放する為に戦った“アーテム“だ。

 今も尚、彼は世界から指名手配されている重罪人。シン達がこの一件に絡んでいると知られれば、彼らも指名手配されることだろう。それを考えると、身体中の毛穴という毛穴から全ての水分が抜けていくようだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...