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美しき火雪の景色
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白く立ち込める煙のように辺り一帯を覆う霧の中を、一台のボードが波を立てて走り抜ける。近くに船が無いようで、波は一つしか立っていない。ボードのエンジン音と水飛沫だけが彼の周りを唯一、孤独から遠ざける。
彼の今の状態を、果たして孤独と言っていいのかは分からないが。シン達よりも早く別働隊の元を発ったハオランは、まるでロロネーの位置が分かっているかのように、濃霧の中を進んで行く。
だが、ボードを操縦する彼は何かに魘されるように、片手で頭を抱えていた。時折フラつきながらも、その運動神経は失なわれていないのか、器用に片手で操作している。
その頃、後を追うシン達はツクヨの起点により、別働隊が放ったと言う火矢の方向へ向かう。中央はまだチン・シー海賊団によって降らされる火の粉の残骸が残っているようで、降り始めの雪のようにパラパラと橙色の光が降り注ぐ。
「これが彼らの言っていた火の粉か・・・。ボードに引火しないよう気を付けないとな」
素人ながらに、こう言った繊細な機械に火が燃え移るのは良く無いという、固定概念があり思わず火の粉を避けて操縦するシン。実際にはツバキの造ったボードは、見た目以上に耐久度が優れており、多少の火の粉程度では引火など起こさない造になっている。
一方のツクヨは、シンの身体を片手で掴み布都御魂剣を、ボードの後ろから海面へ向けて目を閉じている。そのおかげでボードは海面スレスレをホバーリングするように浮いている。これはクトゥルプスとの戦いで見せた、持ち主の想像した光景を実現化する能力によるものだった。
しかし、ツクヨ自身を覆う環境を変えていた前回とは違い、シンの操縦するボードへの干渉の為、あの時のような超常現象は起きなかった。一気に空を飛び、先に向かったと言うハオランに追いついてやろうと思っていたツクヨは、その結果にややガッカリした様子だったが、それでも波による抵抗を受けるよりは幾分か速く走っている。
「どんな光景だい?霧の中の降る、火の雨っていうのは・・・」
布都御魂剣が作り出す光景を維持する為、目を開けられずにいるツクヨの代わりに、シンが今の二人を取り囲む幻想的な光景を伝えようとする。それでも現実では見たことも無い光景に、どうこの気持ちを伝えたものか言葉が上手く出てこない。戦いの最中とはいえ、この異様な光景が彼の目には、幻想的で美しい者のように写っていた。
「赤い雪だよ・・・そのまんま、現実世界にも降るような。ただ、燃え盛るような赤じゃない。寒い冬の夜に、暖かい我が家の明かりが見えた時のような・・・。そんな暖かい光だ」
咄嗟に出たその例えがツクヨに伝わったかは分からないが、彼はシンの口からそんな具体的な例えが出てくるとは思ってなかったようで、口角を上げて少し笑顔を見せた。
「そうか、うん・・・いい例えだ。まさか君から、そんな例えが出るとは思わなかったけどね」
「ん?」
普段、冗談や何気ない会話を振るツクヨとは違い、どこか何に対しても乾いた反応を示すイメージをシンに抱いていたツクヨは、彼のことが少し心配でもあった。あの調子で周りと上手くやっていけるのだろうかと。
ミアが特別面倒見の良い性格をしているおかげで、この二人は上手くいっているだけだと思っていたが、グレイスを一人で助けに行ったり、ツクヨ自身を絶望的な状況から救ってくれたりと、積極的に他人と関わるような行動を自ら取りに行くようになったと感じた。
「いや、すまない。なんか成長して帰って来たって感じだね!」
「何だ?それ・・・」
二人がそんな日常との変化の話をしていると、海面に何やら彼らのものとは別の乗り物による泡立ちが見て取れた。これは間違いなくハオランのものだ。先行して向かっていた彼との距離が漸く縮まり、彼のボードが走った後を示す海面を裂くような波がやってくる。
「見えたぞ!もう少しだ。向こうに到着する前に追いつくことが出来たが・・・」
「うん・・・先ずは彼の状態が気になるね。あれだけ主人に尽くしていた彼が、どうしてこんな行動に出ているのか・・・」
グラン・ヴァーグで話した時の彼や、グレイス救出に向かう前の彼の様子からは想像できないような行動。何か弱みでも握られたが故の行動なのか。否、彼ならばそんな交渉など受けるまでもなく破棄するだろう。
つまり、ハオランは何らかの力によりロロネーに操られているのではないか。ロッシュと戦ったシンは、他人を操る力を持つ者もいるのだと強く印象に残っていた。そのことから、ロロネーにも似たような力があるのではないかと思いつく。
「ロロネーの能力かもしれない。ロッシュがそうだった・・・。一時的に限られた部位ではあるが、人や物を操る能力・・・。傀儡師の類や洗脳とは違う、この世界特有のものかもしれない」
「そうなるとミア達も心配だね。二次的に操られる可能性もあるかもだけど、先ずは彼に接触を試みよう」
ツクヨの言う通り、ハオランがロロネーの元に到達してしまえば秘密は隠されてしまうだろう。そうなる前に、掴める情報は掴めるだけ掴まなくては。前を走るハオランのボードが行く波の後をなぞるようにして、二人は火の粉舞う濃霧の中を突き抜けて行く。
彼の今の状態を、果たして孤独と言っていいのかは分からないが。シン達よりも早く別働隊の元を発ったハオランは、まるでロロネーの位置が分かっているかのように、濃霧の中を進んで行く。
だが、ボードを操縦する彼は何かに魘されるように、片手で頭を抱えていた。時折フラつきながらも、その運動神経は失なわれていないのか、器用に片手で操作している。
その頃、後を追うシン達はツクヨの起点により、別働隊が放ったと言う火矢の方向へ向かう。中央はまだチン・シー海賊団によって降らされる火の粉の残骸が残っているようで、降り始めの雪のようにパラパラと橙色の光が降り注ぐ。
「これが彼らの言っていた火の粉か・・・。ボードに引火しないよう気を付けないとな」
素人ながらに、こう言った繊細な機械に火が燃え移るのは良く無いという、固定概念があり思わず火の粉を避けて操縦するシン。実際にはツバキの造ったボードは、見た目以上に耐久度が優れており、多少の火の粉程度では引火など起こさない造になっている。
一方のツクヨは、シンの身体を片手で掴み布都御魂剣を、ボードの後ろから海面へ向けて目を閉じている。そのおかげでボードは海面スレスレをホバーリングするように浮いている。これはクトゥルプスとの戦いで見せた、持ち主の想像した光景を実現化する能力によるものだった。
しかし、ツクヨ自身を覆う環境を変えていた前回とは違い、シンの操縦するボードへの干渉の為、あの時のような超常現象は起きなかった。一気に空を飛び、先に向かったと言うハオランに追いついてやろうと思っていたツクヨは、その結果にややガッカリした様子だったが、それでも波による抵抗を受けるよりは幾分か速く走っている。
「どんな光景だい?霧の中の降る、火の雨っていうのは・・・」
布都御魂剣が作り出す光景を維持する為、目を開けられずにいるツクヨの代わりに、シンが今の二人を取り囲む幻想的な光景を伝えようとする。それでも現実では見たことも無い光景に、どうこの気持ちを伝えたものか言葉が上手く出てこない。戦いの最中とはいえ、この異様な光景が彼の目には、幻想的で美しい者のように写っていた。
「赤い雪だよ・・・そのまんま、現実世界にも降るような。ただ、燃え盛るような赤じゃない。寒い冬の夜に、暖かい我が家の明かりが見えた時のような・・・。そんな暖かい光だ」
咄嗟に出たその例えがツクヨに伝わったかは分からないが、彼はシンの口からそんな具体的な例えが出てくるとは思ってなかったようで、口角を上げて少し笑顔を見せた。
「そうか、うん・・・いい例えだ。まさか君から、そんな例えが出るとは思わなかったけどね」
「ん?」
普段、冗談や何気ない会話を振るツクヨとは違い、どこか何に対しても乾いた反応を示すイメージをシンに抱いていたツクヨは、彼のことが少し心配でもあった。あの調子で周りと上手くやっていけるのだろうかと。
ミアが特別面倒見の良い性格をしているおかげで、この二人は上手くいっているだけだと思っていたが、グレイスを一人で助けに行ったり、ツクヨ自身を絶望的な状況から救ってくれたりと、積極的に他人と関わるような行動を自ら取りに行くようになったと感じた。
「いや、すまない。なんか成長して帰って来たって感じだね!」
「何だ?それ・・・」
二人がそんな日常との変化の話をしていると、海面に何やら彼らのものとは別の乗り物による泡立ちが見て取れた。これは間違いなくハオランのものだ。先行して向かっていた彼との距離が漸く縮まり、彼のボードが走った後を示す海面を裂くような波がやってくる。
「見えたぞ!もう少しだ。向こうに到着する前に追いつくことが出来たが・・・」
「うん・・・先ずは彼の状態が気になるね。あれだけ主人に尽くしていた彼が、どうしてこんな行動に出ているのか・・・」
グラン・ヴァーグで話した時の彼や、グレイス救出に向かう前の彼の様子からは想像できないような行動。何か弱みでも握られたが故の行動なのか。否、彼ならばそんな交渉など受けるまでもなく破棄するだろう。
つまり、ハオランは何らかの力によりロロネーに操られているのではないか。ロッシュと戦ったシンは、他人を操る力を持つ者もいるのだと強く印象に残っていた。そのことから、ロロネーにも似たような力があるのではないかと思いつく。
「ロロネーの能力かもしれない。ロッシュがそうだった・・・。一時的に限られた部位ではあるが、人や物を操る能力・・・。傀儡師の類や洗脳とは違う、この世界特有のものかもしれない」
「そうなるとミア達も心配だね。二次的に操られる可能性もあるかもだけど、先ずは彼に接触を試みよう」
ツクヨの言う通り、ハオランがロロネーの元に到達してしまえば秘密は隠されてしまうだろう。そうなる前に、掴める情報は掴めるだけ掴まなくては。前を走るハオランのボードが行く波の後をなぞるようにして、二人は火の粉舞う濃霧の中を突き抜けて行く。
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