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緊箍児
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目前に迫ったハオランのボードの横に並び、彼に向けてシンは声をかける。それまでと違い、ボード二台分のエンジン音が彼らを覆う濃霧の中に響く為、先程までツクヨと会話をしていたトーンから少し声量を上げる。
「ハオランッ!おい、ハオランッ!アンタ一体何をやってるんだ!主人の救援に向ったんじゃないのか!?」
「うぅッ・・・!ぁぁ・・・」
シンの声を耳にし、突然片手を頭に押し当て始め、錯乱するハオラン。ハンドル操作が杜撰になり、右へ左へと大きくボードを揺らす。シン達の乗るボードは、ツクヨの布都御魂剣の能力で僅かに浮いている。とはいえ、大きく波を立てられれば影響を受けてしまうような高さの為、ぶつかりそうになるのを避けるのと共に、少しハオランのボードから距離をとる。
「どうだい?彼の様子は・・・」
「やっぱり、本来のハオランじゃない。それと何かに争っているようにも見えた」
二人が話していた通り、彼は自分の意思でこんなことをしている訳ではなかった
ことが分かった。それに声をかけたことによって、まだ彼の内にハオランの意識が残っているのか、押さえつける力に争おうとする反応を見せた。
彼に起きている呪縛を解除する方法は分からないが、このまま声をかけ続けることで、内側の彼を刺激し呼び覚ますことが出来るかもしれない。
ハオランは、チン・シー海賊団と友好的な関係を築く為には欠かせぬ存在。例え止める目的があるとはいえ、彼に怪我をさせる訳にはいかない。それに彼とやり合ったところで、シンやツクヨも恐らく無事ではすまないだろう。
結果的に彼を止めることが出来たとしても、共倒れになってしまっては意味がない。荒ぶっていた彼のハンドル操作が落ち着くと、シンは再び彼の側にボードを寄せて声をかけ続ける。
「目を覚ませハオランッ!アンタ程の男が何故こんな精神攻撃を受けた?これがロロネーの能力なのか!?」
「うぅぅ・・・あ“あ”あ“ぁぁッ!!」
執拗にハオランの意識を呼び覚まそうと声をかけてくるシンに、彼はボードのハンドルを切り体当たりを仕掛けて来た。直ぐにシンもハンドルを切り避けようとする。だが、ハオランは更に腕を振るい、手刀でシンの首元を狙って来る。
身をかがめてシンが避けると、空を切るような風が巻き起こり、能力に集中していたツクヨの身体が何かに押されるように揺れる。突然のことに踏ん張る余裕すらなかったツクヨは、バランスを崩しシンの身体を引っ張ってしまう。
「おっおい!倒れッ・・・!」
空かさずツクヨは機転を利かせ、海面へ入れていた布都御魂剣の方向を変え、二人の体勢を安定する位置にまで戻したのだ。一先ず海に落ちることは免れたシン達だったが、ハオランは彼らのボードの横に寄って来ると、ハンドルを握ったまま飛び上がり、身体を捻りながら強烈な蹴りを振るおうとしていた。
「マズイッ!しゃがむぞ!」
先程の攻撃に対するミスは、シンがツクヨに避けるということを伝えていなかったことだ。目を開けることのできないツクヨは、精密にハオランの動きやシンの行動を把握することが出来ない。
そこでシンは、自分が次に取る行動を口にしてみたのだ。それは失敗を踏まえ、狙ってやろうとしたことではなく、無意識にシンの内から出たものだった。少しずつではあるが、一人で戦う時の行動とは別に、協力して戦う時の連携が自然と身について来ていたのだ。
シンの言葉のおかげで、手で掴んでいるシンがこれから体勢を低くすること。そして彼らの上を何かが通過することが予測できた。今度はしっかりと踏ん張り、重心移動をしっかり行うことでバランスを保てた。
空振りをしたハオランは、そのままバランスを崩すかと思われたが、その柔軟な身のこなしでボードへ戻ると、着地の衝撃で沈むボードの勢いを利用し周囲に大きな水飛沫を巻き上げ、更に急旋回することで勢いよくシン達へ海水を浴びせる。
「ッ!?右にハンドルを切るぞ!」
咄嗟にシンは、ハオランの起こす水飛沫とは逆にハンドルを切り、こちらも水飛沫を起こすことで相殺しようとした。そのまま円を描くように旋回し、ハオランの姿を探すと既に彼はこちらに向って全速力で向かって来ていたのだ。
「なッ・・・!?突っ込んで来るつもりか!?」
すると彼は、ボードをぐっと海に押し付けて勢いをつけると、ボードごと身体を浮かせて空中で自身の身体とボードで遠心力をつけて、くるくると回りながらシン達へ突っ込んで来た。
「ツクヨッ!その力、解除できるか!?」
「あぁ、目を開ければこの通り・・・て、えぇッ!?」
ツクヨが瞼を開くと、たちまち二人の乗ったボードは海面へ着水した。濃霧で光が遮られているとはいえ、暫くぶりに外の世界の明かりを取り込んで、眩しそうに目を細めるツクヨは、そこでこちらに向って突っ込んで来るハオランの姿を目にする。
船が落ちたことで、ハオランの攻撃がやや上方にズレた。二人は身をかがめながらシンは海面スレスレにまでボードを寝かせてハンドルを切り、再び急旋回をする。そしてツクヨは、回転するハオランとボードを手にしていた布都御魂剣で、二人に当たらぬよう上方向にいなす。
ハオランのボードを上に押し上げたことで反対方向のハオランの身体が下がり、彼の攻撃がシンを擦めていく。だが直撃は何とか免れた。激しい水飛沫を上げて着水したハオランと、旋回から体勢を立て直すシン達。
上空へ高く舞い上がった水飛沫の壁に目をやるシンは、その奥に光を放つ何かを見つけ目を細めて確認しようとしたところで、背筋に悪寒が走る。その直後、水飛沫の壁向こう側が強い光を放ち、とてつもない衝撃波が二人のいる方へ撃ち放たれた。
「ハオランッ!おい、ハオランッ!アンタ一体何をやってるんだ!主人の救援に向ったんじゃないのか!?」
「うぅッ・・・!ぁぁ・・・」
シンの声を耳にし、突然片手を頭に押し当て始め、錯乱するハオラン。ハンドル操作が杜撰になり、右へ左へと大きくボードを揺らす。シン達の乗るボードは、ツクヨの布都御魂剣の能力で僅かに浮いている。とはいえ、大きく波を立てられれば影響を受けてしまうような高さの為、ぶつかりそうになるのを避けるのと共に、少しハオランのボードから距離をとる。
「どうだい?彼の様子は・・・」
「やっぱり、本来のハオランじゃない。それと何かに争っているようにも見えた」
二人が話していた通り、彼は自分の意思でこんなことをしている訳ではなかった
ことが分かった。それに声をかけたことによって、まだ彼の内にハオランの意識が残っているのか、押さえつける力に争おうとする反応を見せた。
彼に起きている呪縛を解除する方法は分からないが、このまま声をかけ続けることで、内側の彼を刺激し呼び覚ますことが出来るかもしれない。
ハオランは、チン・シー海賊団と友好的な関係を築く為には欠かせぬ存在。例え止める目的があるとはいえ、彼に怪我をさせる訳にはいかない。それに彼とやり合ったところで、シンやツクヨも恐らく無事ではすまないだろう。
結果的に彼を止めることが出来たとしても、共倒れになってしまっては意味がない。荒ぶっていた彼のハンドル操作が落ち着くと、シンは再び彼の側にボードを寄せて声をかけ続ける。
「目を覚ませハオランッ!アンタ程の男が何故こんな精神攻撃を受けた?これがロロネーの能力なのか!?」
「うぅぅ・・・あ“あ”あ“ぁぁッ!!」
執拗にハオランの意識を呼び覚まそうと声をかけてくるシンに、彼はボードのハンドルを切り体当たりを仕掛けて来た。直ぐにシンもハンドルを切り避けようとする。だが、ハオランは更に腕を振るい、手刀でシンの首元を狙って来る。
身をかがめてシンが避けると、空を切るような風が巻き起こり、能力に集中していたツクヨの身体が何かに押されるように揺れる。突然のことに踏ん張る余裕すらなかったツクヨは、バランスを崩しシンの身体を引っ張ってしまう。
「おっおい!倒れッ・・・!」
空かさずツクヨは機転を利かせ、海面へ入れていた布都御魂剣の方向を変え、二人の体勢を安定する位置にまで戻したのだ。一先ず海に落ちることは免れたシン達だったが、ハオランは彼らのボードの横に寄って来ると、ハンドルを握ったまま飛び上がり、身体を捻りながら強烈な蹴りを振るおうとしていた。
「マズイッ!しゃがむぞ!」
先程の攻撃に対するミスは、シンがツクヨに避けるということを伝えていなかったことだ。目を開けることのできないツクヨは、精密にハオランの動きやシンの行動を把握することが出来ない。
そこでシンは、自分が次に取る行動を口にしてみたのだ。それは失敗を踏まえ、狙ってやろうとしたことではなく、無意識にシンの内から出たものだった。少しずつではあるが、一人で戦う時の行動とは別に、協力して戦う時の連携が自然と身について来ていたのだ。
シンの言葉のおかげで、手で掴んでいるシンがこれから体勢を低くすること。そして彼らの上を何かが通過することが予測できた。今度はしっかりと踏ん張り、重心移動をしっかり行うことでバランスを保てた。
空振りをしたハオランは、そのままバランスを崩すかと思われたが、その柔軟な身のこなしでボードへ戻ると、着地の衝撃で沈むボードの勢いを利用し周囲に大きな水飛沫を巻き上げ、更に急旋回することで勢いよくシン達へ海水を浴びせる。
「ッ!?右にハンドルを切るぞ!」
咄嗟にシンは、ハオランの起こす水飛沫とは逆にハンドルを切り、こちらも水飛沫を起こすことで相殺しようとした。そのまま円を描くように旋回し、ハオランの姿を探すと既に彼はこちらに向って全速力で向かって来ていたのだ。
「なッ・・・!?突っ込んで来るつもりか!?」
すると彼は、ボードをぐっと海に押し付けて勢いをつけると、ボードごと身体を浮かせて空中で自身の身体とボードで遠心力をつけて、くるくると回りながらシン達へ突っ込んで来た。
「ツクヨッ!その力、解除できるか!?」
「あぁ、目を開ければこの通り・・・て、えぇッ!?」
ツクヨが瞼を開くと、たちまち二人の乗ったボードは海面へ着水した。濃霧で光が遮られているとはいえ、暫くぶりに外の世界の明かりを取り込んで、眩しそうに目を細めるツクヨは、そこでこちらに向って突っ込んで来るハオランの姿を目にする。
船が落ちたことで、ハオランの攻撃がやや上方にズレた。二人は身をかがめながらシンは海面スレスレにまでボードを寝かせてハンドルを切り、再び急旋回をする。そしてツクヨは、回転するハオランとボードを手にしていた布都御魂剣で、二人に当たらぬよう上方向にいなす。
ハオランのボードを上に押し上げたことで反対方向のハオランの身体が下がり、彼の攻撃がシンを擦めていく。だが直撃は何とか免れた。激しい水飛沫を上げて着水したハオランと、旋回から体勢を立て直すシン達。
上空へ高く舞い上がった水飛沫の壁に目をやるシンは、その奥に光を放つ何かを見つけ目を細めて確認しようとしたところで、背筋に悪寒が走る。その直後、水飛沫の壁向こう側が強い光を放ち、とてつもない衝撃波が二人のいる方へ撃ち放たれた。
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