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神代 コウ

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戦況打開の一手

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 身の毛がよだつ程に不気味な痣を蠢かせ、武器を振るう男の手を取り静止させる船員。その力は病人のそれにあらず、傷を負っていない船員の力を押さえつける程凄まじく、膝をつかせ追い詰める。

 「よッよせ!一体どうしたというのだ!しっかりしろッ!!」

 血走り、固定されたかのように一点を見つめ痙攣していた瞳が、船員の声にギョロっと素早く動き、彼の方を睨み付ける。獲物を見つけたかのように、手にした武器を振り下ろす力が増していき、更に受け止めた船員を追い込んでいく。

 「ぐぁッ・・・ぁぁあ“あ”あ“ッ!」

 喉を潰し兼ねない、凡そ人のものとは思えぬ呻き声を上げる男。これ以上は抑えきれぬと、体勢を抑制されていた船員が諦めて攻撃を受け流そうとした時、男の身体に何か大きな物が飛んで来て、床へと転がり込ませた。

 息を切らした船員が、飛んで来た物を確認すると、それは自分と同じ格好をした仲間の姿が、謎の症状に侵された男の上にのしかかっていた。何が起きたのかと周囲を見渡すと、そこで初めて彼は戦況が動きだしていたのに気が付いた。

 彼らを襲っていた謎の病状は、他のところでも起きており、それぞれの場所で敵味方関係なく襲い掛かっていた。状況の整理もついていないまま、仲間を切り捨てることも出来ない彼らは受け身になるしかない。

 折角優勢になっていた戦況は瞬く間に逆転してしまい、また振り出しに戻る。女はいつの間にか再生させたのか、新たに生えてきたのか先端のある触手で、症状の浅い者を絡めとると、こちらの陣営へ投げて来ていたのだ。

 「ホラホラホラぁッ!折角私が手を貸してやってるんだ、早く面倒を見てやりなさいッ!・・・さもないと、死んでしまうわよぉ?」

 やはり一筋縄ではいかなかった。この女は端から、劣勢になど陥っていなかったのだ。敢えて彼らに優勢になったと思い込ませる為の演技をし、押されているフリをしていたのだ。

 そして勢いに乗ろうとしていた彼らを、切断された触手の切れ端を使い毒を忍び込ませていた。作戦は見事に命中し、彼らの出鼻は挫かれ最悪の被害を出していた。

 「何だこれはッ!おい、やめろ!」
 「毒だ!何かに噛まれて感染しているぞッ!」
 「切り落とした触手だ!分離して別の個体になっているんだ」

 女の触手による攻撃と、それを切断した切れ端による小さなワーム状のモンスター。そして感染した味方に、それを投げて寄越す女。何に重点を置いて処理していけばいいのか分からずパニックになるツクヨと海賊達。それを嘲笑うようにして楽しむ女。

 「マズイよ・・・。このままじゃまた防戦一方になる。何か打開策を考えないと・・・」

 すると、何者かがツクヨに近づいて来る。パニックになる戦場を尻目に、目立たぬように近づいて来た船員の一人が、ある作戦を彼に提案する。それはツクヨの立場を利用した、彼にとっても注意を分散させずに済む提案だった。

 「ツクヨさん・・・。貴方に戦況を打開する一手の先駆けになって貰いたい・・・」

 何をさえられるのかと驚くツクヨ。追い詰められたこの状況でそんなことを言われたら、命を顧みない特攻をっさせられるのではないかと不安になったツクヨ。しかし、船員の持ちかけて来た提案は、彼の注意を一つに絞らせ動きやすくする為のものだった。

 まだ息のある仲間を投げつけてくる以上、彼らにはそれを受け止める他なかった。だが、ツクヨは彼らほど仲間意識が根強い訳ではないゲスト。しかしながら彼の性格上、怪我や毒に苦しむ人間を投げつけられれば斬り捨てることなど出来る筈も無い。

 そこで、ツクヨに向けて投げられる味方を代わりに受け取る者を用意し、ツクヨに攻撃に専念してもらうという提案だった。如何やら彼はロープアクションという、少し離れた位置からでも味方を回収出来る術を持っているようで、彼がツクヨと共に行動し、ツクヨに向かって投げられる味方を彼が回収するというものだった。

 「いかがだろうか・・・。危険は伴うが、貴方も攻撃に集中できる・・・。我々では味方を見過ごすことは出来ないが、客人である貴方なら話は別」

 この状況であれば仕方がない。それに彼の言うことも最もだろう。もし自分が逆の立場なら、傷付いた仲間を見捨てたり放っておくことなど出来るわけもない。ツクヨは彼の提案を受け入れる。

 「分かりました・・・、やってみましょう」

 しかしまだ、この作戦であの触手の女に太刀打ち出来るかどうかは分からない。不安を抱えつつも、彼らはいざ行動を起こす。敵に狙われていない状態の二人が、息を合わせ共に女との距離を詰める。

 彼はツクヨのやや後方から近付き待機する。すると女は二人の接近を直ぐに察知すると、空かさず傷付いた味方を触手で絡め取り投げて来た。それを後方にいた彼がロープで受け止め、ツクヨが一気に距離を詰める。

 渾身の一撃を叩き込める距離まであと僅か。と、その時だった。ツクヨの目に、捉えずにはいられないものが映り込んでしまう。それは女の後方で倒れる、ツバキの姿だった。
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