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敗北から得た力
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女の衝撃的な姿と、船員達の追い詰められた光景にすっかり頭の中から抜けていたが、この部屋にはミアやツクヨにとって助けなければならない仲間の命があったことを。
ツクヨの中で僅かに葛藤があった。女の触手攻撃を掻い潜り、味方のロープアクションによる妨害は相手の不意を突いた予期せぬ行動。既に見られてしまった以上、この女に同じ手は通用しないだろう。
だが、ツクヨにとってもツバキの存在は突如飛び込んで来た予期せぬ情報だった。彼は天秤にかけたのだ。触手の女に対し、千載一遇のチャンスを取るか、ツバキの救出に行くか。
彼の身体は考えるもなく動き出す。片足に掛かる重心に床が軋む音が聞こえる。身体は角度を変え、次の一歩を踏み出し倒れるツバキの元へと向かった。
ロープで援護を行なっていた味方は、彼の突然の進路変更に頭が真っ白になる。何故女の懐ではなく、別の方向へ向かうのだと。
「何をやっているんだ、ツクヨさんッ!もう後がないんだぞッ!?」
彼の悲痛な叫びに心を痛めながらも、ツクヨはそのままツバキの元へと直進する。二人の連携に、触手の女も思わず身を守る体勢を取ろうとしたが、ツクヨの行動を見てやや驚いた様子を見せる。だがその直後、女は口角を上げ悍しい笑みを浮かべる。
ツバキまでの距離はもう少しある。しかし、まるで分かっていたかのように、忍んでいた触手がツバキの足を絡めとり、宙へと持って行ってしまう。
「ッ・・・!」
一瞬の衝撃の後、ツクヨは何としても彼を助けようと、グリップを握る手に力が入る。鞘を握る手が親指で僅かに剣身を持ち上げ、斬撃を繰り出す予備動作を取ると、目にも留まらぬ抜刀で鞘から火花が散る。
「ヴォレッ・・・リーゼッ!」
低い体勢から抜刀し、剣を下から上へと斬り上げる。しかし、ツクヨの斬撃は僅かに触手から外れ、空振りに終わってしまう。大声で勢いのある一撃を振るった割には、それに見合う結果を残せなかったツクヨ。
女は彼の声とその太刀筋に面食らったが、不発に終わったことを嘲笑うかのように吹き出し、高笑いする。
「ふッ・・・ハハハハハッ!とんだ肩透かしだったわね。アンタだけ妙に違うと思えば、ただの素人じゃない。警戒してたのは間違いかしらね・・・」
ロープアクションで彼をサポートした船員も、思わぬ展開に唖然とする。無理もない、ツクヨは彼の提案を受け入れたにも関わらず、それを無視した行動に出た挙句にツバキを助けること自体も失敗してしまったのだ。
だが、今彼を責めている時間はない。隙の出来たツクヨを狙って、触手の女が反撃に出ようとしていた。このままでは彼を失うと、船員の男は彼が助けようとしていたツバキを諦め、せめて彼だけでも回収しようと彼の身体目掛けてロープを伸ばそうとした。
斬撃が空振りに終わり、隙だらけになったツクヨ目掛けて複数の触手が向かっていく。依然ツクヨは避ける気配もなく、ただ剣を鞘へ戻そうとするだけだった。不規則に動き、次の動作が予想しづらい触手から逃れるのは、直線的な攻撃を避けるのよりも遥かに難しい。
加えて彼は、その触手の攻撃範囲内のど真ん中におり、既に取り囲まれている。船員の男のロープが間に合ったところで、彼の身体の引っ張り合いになりかねない。そうなれば最悪、彼の身体は四散してしまうだろう。
迷っている時間もなく、伸ばしてしまったロープを伸ばし続ける船員の男からは焦りの表情が伺える。僅かに動き出すのが早かった触手が、彼の身体に届こうかというその時、突如ツクヨがそのまま正面に向かって走り出し、直進して行ったのだ。
助け舟であるロープから遠ざかって行く彼に、思わず声を漏らす船員の男。しかし、おかしな事はツクヨの行動だけにあらず、男のロープにも起こり、ツクヨを回収する為に伸ばしたロープは、彼の元いた場所に近づくと何かによって切断されてしまっていたのだ。
「ッ・・・!?ロープが・・・」
直後、ツクヨに迫っていた複数の触手が、下から突き上げられるように跳ね上がり、無数の斬撃によって次々に切断されていったのだ。これはツクヨが聖都ユスティーチで死闘を繰り広げた、聖騎士シュトラールの扱う時間差の斬撃からヒントを得た新たなスキル。
ツクヨの攻撃は外れたのではなく、触手の女を欺く為に放った一撃だったのだ。
彼の放った斬撃は周囲に滞在し、来たる時を待っていた。そして彼の動きに合わせ、止まっていた時が進むように動き出し、彼に向けられた触手を斬り刻む。
彼にトドメを刺そうと、複数の触手を伸ばしたことが仇となり、触手の女の攻撃が手薄になる。罠に誘い込まれていたのは、触手の女の方だった。手の空いた他の船員達が、これ見よがしに次々に触手の女の元へと飛び込んで行く。
身を守る為に触手を引っ込める女だったが、ツバキを捕らえていた触手が彼女の元へ戻ろうとした時、ツクヨの斬撃に引っかかり切断され、人質のツバキを手放す。そこまで読んでいたかは定かではないが、ツクヨは切断された触手と共に落ちてくるツバキを、滑り込みでキャッチし、見事救出して見せたのだ。
だがそこで、ロープの船員があることを思い出し、周囲の者達に警告を促す。
「まだだッ!切断された触手には近づくな!毒を持った別の個体に変わるぞ!」
船員達が一斉に切断された触手の方を見る。僅かに舌打ちをする触手の女。彼女の触手は切断したところで、ワーム状の別の生き物として動き出し、それに噛まれると錯乱を引き起こし、死に至る毒が身体中を巡るという厄介なものになる。
しかし切断された触手は次々に発火し、苦しむような奇声を上げのたうち回りながら、静かに動かなくなっていった。炎はツクヨの斬撃が触れた部位から発生している。その正体とは、彼が斬撃を放った時に生じていた火花だった。
ツクヨの中で僅かに葛藤があった。女の触手攻撃を掻い潜り、味方のロープアクションによる妨害は相手の不意を突いた予期せぬ行動。既に見られてしまった以上、この女に同じ手は通用しないだろう。
だが、ツクヨにとってもツバキの存在は突如飛び込んで来た予期せぬ情報だった。彼は天秤にかけたのだ。触手の女に対し、千載一遇のチャンスを取るか、ツバキの救出に行くか。
彼の身体は考えるもなく動き出す。片足に掛かる重心に床が軋む音が聞こえる。身体は角度を変え、次の一歩を踏み出し倒れるツバキの元へと向かった。
ロープで援護を行なっていた味方は、彼の突然の進路変更に頭が真っ白になる。何故女の懐ではなく、別の方向へ向かうのだと。
「何をやっているんだ、ツクヨさんッ!もう後がないんだぞッ!?」
彼の悲痛な叫びに心を痛めながらも、ツクヨはそのままツバキの元へと直進する。二人の連携に、触手の女も思わず身を守る体勢を取ろうとしたが、ツクヨの行動を見てやや驚いた様子を見せる。だがその直後、女は口角を上げ悍しい笑みを浮かべる。
ツバキまでの距離はもう少しある。しかし、まるで分かっていたかのように、忍んでいた触手がツバキの足を絡めとり、宙へと持って行ってしまう。
「ッ・・・!」
一瞬の衝撃の後、ツクヨは何としても彼を助けようと、グリップを握る手に力が入る。鞘を握る手が親指で僅かに剣身を持ち上げ、斬撃を繰り出す予備動作を取ると、目にも留まらぬ抜刀で鞘から火花が散る。
「ヴォレッ・・・リーゼッ!」
低い体勢から抜刀し、剣を下から上へと斬り上げる。しかし、ツクヨの斬撃は僅かに触手から外れ、空振りに終わってしまう。大声で勢いのある一撃を振るった割には、それに見合う結果を残せなかったツクヨ。
女は彼の声とその太刀筋に面食らったが、不発に終わったことを嘲笑うかのように吹き出し、高笑いする。
「ふッ・・・ハハハハハッ!とんだ肩透かしだったわね。アンタだけ妙に違うと思えば、ただの素人じゃない。警戒してたのは間違いかしらね・・・」
ロープアクションで彼をサポートした船員も、思わぬ展開に唖然とする。無理もない、ツクヨは彼の提案を受け入れたにも関わらず、それを無視した行動に出た挙句にツバキを助けること自体も失敗してしまったのだ。
だが、今彼を責めている時間はない。隙の出来たツクヨを狙って、触手の女が反撃に出ようとしていた。このままでは彼を失うと、船員の男は彼が助けようとしていたツバキを諦め、せめて彼だけでも回収しようと彼の身体目掛けてロープを伸ばそうとした。
斬撃が空振りに終わり、隙だらけになったツクヨ目掛けて複数の触手が向かっていく。依然ツクヨは避ける気配もなく、ただ剣を鞘へ戻そうとするだけだった。不規則に動き、次の動作が予想しづらい触手から逃れるのは、直線的な攻撃を避けるのよりも遥かに難しい。
加えて彼は、その触手の攻撃範囲内のど真ん中におり、既に取り囲まれている。船員の男のロープが間に合ったところで、彼の身体の引っ張り合いになりかねない。そうなれば最悪、彼の身体は四散してしまうだろう。
迷っている時間もなく、伸ばしてしまったロープを伸ばし続ける船員の男からは焦りの表情が伺える。僅かに動き出すのが早かった触手が、彼の身体に届こうかというその時、突如ツクヨがそのまま正面に向かって走り出し、直進して行ったのだ。
助け舟であるロープから遠ざかって行く彼に、思わず声を漏らす船員の男。しかし、おかしな事はツクヨの行動だけにあらず、男のロープにも起こり、ツクヨを回収する為に伸ばしたロープは、彼の元いた場所に近づくと何かによって切断されてしまっていたのだ。
「ッ・・・!?ロープが・・・」
直後、ツクヨに迫っていた複数の触手が、下から突き上げられるように跳ね上がり、無数の斬撃によって次々に切断されていったのだ。これはツクヨが聖都ユスティーチで死闘を繰り広げた、聖騎士シュトラールの扱う時間差の斬撃からヒントを得た新たなスキル。
ツクヨの攻撃は外れたのではなく、触手の女を欺く為に放った一撃だったのだ。
彼の放った斬撃は周囲に滞在し、来たる時を待っていた。そして彼の動きに合わせ、止まっていた時が進むように動き出し、彼に向けられた触手を斬り刻む。
彼にトドメを刺そうと、複数の触手を伸ばしたことが仇となり、触手の女の攻撃が手薄になる。罠に誘い込まれていたのは、触手の女の方だった。手の空いた他の船員達が、これ見よがしに次々に触手の女の元へと飛び込んで行く。
身を守る為に触手を引っ込める女だったが、ツバキを捕らえていた触手が彼女の元へ戻ろうとした時、ツクヨの斬撃に引っかかり切断され、人質のツバキを手放す。そこまで読んでいたかは定かではないが、ツクヨは切断された触手と共に落ちてくるツバキを、滑り込みでキャッチし、見事救出して見せたのだ。
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しかし切断された触手は次々に発火し、苦しむような奇声を上げのたうち回りながら、静かに動かなくなっていった。炎はツクヨの斬撃が触れた部位から発生している。その正体とは、彼が斬撃を放った時に生じていた火花だった。
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