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影のみぞ知る
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ロッシュが船長室で宝物を確認する少し前まで、時間は遡る。影を通してシュユーが送った合鍵は無事、シンとグレイスの元へと辿り着き、いざ鍵穴へと挿し込み、中に入っている箱の蓋に触れようかという場面。突然、シンの視界に警告という文字とwarningの文字が点滅しながら現れる。
「なッ!何だッ・・・!?」
思わぬ出来事に声を上げてしまいそうになる彼の方を、誰かの手ががっしりと掴み、飛び出しそうになっていた言葉を何とか喉元までで留めさせた。掴まれた肩の方へ瞳だけ動かし、手が乗っていることを確認すると、その人物の方へゆっくりと振り返る。そこにはこの船長室にいるもう一人の人間、シンと共に忍び込んできたグレイスが唇の前で人差し指を立てながら、彼の目を見ていた。
グレイスは彼と目が合うと、口元の指を耳の方へ持っていきトントンと二度耳を叩いた。どうやらシュユーからの連絡が入っている様で、鍵を開けることに神経を尖らせ気づかずにいた彼に、音を立てないよう静かに伝える。
「・・・やはり、あったか・・・」
彼はその箱に仕掛けられているかも知れないトラップの存在を危惧し、事前に対策を打ってくれていたようだった。話が見えてこず動揺するシンが彼に、警告の意味について尋ねる。
「これは・・・一体・・・?」
「ブービートラップの一種だよ。何らかの方法で鍵を入手し、箱の中身に触れようとする何者かの存在を知るためのね・・・。ロッシュなら何か残していってるんじゃないかと思ったよ。恐らく箱を開ければ、ロッシュ自身以外の何者かが箱を開けたと分かる仕組みになっているんだ」
鍵を手に入れ、これで目標を達成できると安心していたシンは、正にロッシュの罠にハマる一歩手前でギリギリ踏み止まっている状態だったのだ。しかし、それなら何故シンに警告という文字が見えたのかが分からない。ロッシュ以外の何者かであるシンに箱を開けさせ、罠にかけるのがこのブービートラップの重要な役割のはず。
「・・・それだけじゃない・・・。よく見ると蓋自体にも何か仕掛けが施されているようだ・・・。危なかったねぇ、まんまと奴の掌の上で踊らされるところだったって訳ね」
シンの横から身を乗り出し、服の装飾を利用して蓋の縁部の様子を反射させて伺ったグレイスが、更にもう一つの罠に気がついた。どうやら縁部には魔力の膜のようなものが付着しているようで、触れた者の指に着くと、それを追って追跡できる仕組みになっていたらしい。
「どうするんだ?これでは開けられない・・・!」
「大丈夫。そのために私が鍵にあるエンチャントを施しておいた。そのまま鍵のエンチャント能力を使ってから開けるんだ、そして中のものを取り出せ」
言われるがまま鍵を箱に近づけると、エンチャントされたトラップ看破の能力が発動し、鍵の光と同じ光を蓋の縁部が放ち始め、蓋の四隅は黒い靄が覆った。シュユーが鍵に施したエンチャントは、魔力の込められたトラップを一時的に無効化し、物理的なトラップに関しては一時的にその存在を消失させ、一定時間後に元の形へと復元させるという能力だった。
トラップ解除と思われるエフェクトを確認した二人は顔を見合わせると頷いて、シンが箱の蓋へと手を伸ばす。蓋を開けてみても何も起こらず、四隅には盛り塩がなくなっていた。
「これが目的のアイテム・・・?」
そこには、何処かの場所のようなものが薄っすらと見える楕円形の薄い水晶が、水につけたドライアイスのように少量の煙を出した状態で置かれていた。中身を確認したグレイスが、自身の懐から全く同じようなアイテムを取り出し始める。
「それは?」
「これと同じものさ。船ごと別の場所まで一瞬で行くことのできる移動ポータル・・・。勿論、移動先は違うけどね。偽造品ってわけさ、こいつを代わりに入れておく」
箱の中からアイテムを取り出したグレイスが、代わりに自分の持っている移動ポータルを箱の中へとしまった。すると手際良く蓋を閉め、木材を戻し、再度鍵をかける。
「よしッ!これで・・・」
丁度その時、何者かが階段を上がって来る音が、二人の耳に入る。コツコツとゆっくり近づいて来るその足音は、一直線にシンとグレイスのいる船長室へ向かっているようだった。
「シンッ・・・!」
グレイスが焦りの表情で音のする方から、彼の方へ振り返る。シンは床に手を当て、既にスキル【潜影】を発動していた。二人の身体は湖に浮かぶ舟の底が抜けたように、影の中へと落ちていく。
ドアノブを捻る音と共にロッシュが船長室へと入って来るが、既に二人の姿はそこにはなく、痕跡も残っていなかった。ロッシュの感は決して外してなどおらず、見事侵入者の陰を確かに捉えていた。しかし、彼の鋭い鷹の目はアサシンのスキルと、用意周到な者達によって欺かれたのだった。
シン達とロッシュによる、静かなる攻防戦が密かに繰り広げられていたグラン・ヴァーグ停泊場。そこより少し遠くの海上に、海霧のようなものが立ち込める。その霧の中でひっそりと息を潜める船が一隻、停泊場の様子を伺うようにこちらを見ていた。
「ただいま戻りました・・・」
「それでぇ・・・?どうだったんだぁ?」
「何もありませんでした・・・。が、何かが動く影のようなものが時々見えました」
「影・・・ねぇ・・・。ネズミやフナムシってぇんじゃぁねぇんだろ?じゃぁ一体何がいたってぇ言うんだぁ?・・・まぁ、何にしろ“ブツ”あるってんなら構わねぇが・・・」
霧の中にあったのは海賊船。そして船の上で会話をしている、不気味な雰囲気を醸し出す海賊姿の男とその部下らしき者。報告を受けた男が腕を組み、顎髭を触りながなブツブツと独り言のように話し始めている。
その者達が乗る船は徐々に濃霧に溶け込むようにして、音もなくその姿を消していった。
「なッ!何だッ・・・!?」
思わぬ出来事に声を上げてしまいそうになる彼の方を、誰かの手ががっしりと掴み、飛び出しそうになっていた言葉を何とか喉元までで留めさせた。掴まれた肩の方へ瞳だけ動かし、手が乗っていることを確認すると、その人物の方へゆっくりと振り返る。そこにはこの船長室にいるもう一人の人間、シンと共に忍び込んできたグレイスが唇の前で人差し指を立てながら、彼の目を見ていた。
グレイスは彼と目が合うと、口元の指を耳の方へ持っていきトントンと二度耳を叩いた。どうやらシュユーからの連絡が入っている様で、鍵を開けることに神経を尖らせ気づかずにいた彼に、音を立てないよう静かに伝える。
「・・・やはり、あったか・・・」
彼はその箱に仕掛けられているかも知れないトラップの存在を危惧し、事前に対策を打ってくれていたようだった。話が見えてこず動揺するシンが彼に、警告の意味について尋ねる。
「これは・・・一体・・・?」
「ブービートラップの一種だよ。何らかの方法で鍵を入手し、箱の中身に触れようとする何者かの存在を知るためのね・・・。ロッシュなら何か残していってるんじゃないかと思ったよ。恐らく箱を開ければ、ロッシュ自身以外の何者かが箱を開けたと分かる仕組みになっているんだ」
鍵を手に入れ、これで目標を達成できると安心していたシンは、正にロッシュの罠にハマる一歩手前でギリギリ踏み止まっている状態だったのだ。しかし、それなら何故シンに警告という文字が見えたのかが分からない。ロッシュ以外の何者かであるシンに箱を開けさせ、罠にかけるのがこのブービートラップの重要な役割のはず。
「・・・それだけじゃない・・・。よく見ると蓋自体にも何か仕掛けが施されているようだ・・・。危なかったねぇ、まんまと奴の掌の上で踊らされるところだったって訳ね」
シンの横から身を乗り出し、服の装飾を利用して蓋の縁部の様子を反射させて伺ったグレイスが、更にもう一つの罠に気がついた。どうやら縁部には魔力の膜のようなものが付着しているようで、触れた者の指に着くと、それを追って追跡できる仕組みになっていたらしい。
「どうするんだ?これでは開けられない・・・!」
「大丈夫。そのために私が鍵にあるエンチャントを施しておいた。そのまま鍵のエンチャント能力を使ってから開けるんだ、そして中のものを取り出せ」
言われるがまま鍵を箱に近づけると、エンチャントされたトラップ看破の能力が発動し、鍵の光と同じ光を蓋の縁部が放ち始め、蓋の四隅は黒い靄が覆った。シュユーが鍵に施したエンチャントは、魔力の込められたトラップを一時的に無効化し、物理的なトラップに関しては一時的にその存在を消失させ、一定時間後に元の形へと復元させるという能力だった。
トラップ解除と思われるエフェクトを確認した二人は顔を見合わせると頷いて、シンが箱の蓋へと手を伸ばす。蓋を開けてみても何も起こらず、四隅には盛り塩がなくなっていた。
「これが目的のアイテム・・・?」
そこには、何処かの場所のようなものが薄っすらと見える楕円形の薄い水晶が、水につけたドライアイスのように少量の煙を出した状態で置かれていた。中身を確認したグレイスが、自身の懐から全く同じようなアイテムを取り出し始める。
「それは?」
「これと同じものさ。船ごと別の場所まで一瞬で行くことのできる移動ポータル・・・。勿論、移動先は違うけどね。偽造品ってわけさ、こいつを代わりに入れておく」
箱の中からアイテムを取り出したグレイスが、代わりに自分の持っている移動ポータルを箱の中へとしまった。すると手際良く蓋を閉め、木材を戻し、再度鍵をかける。
「よしッ!これで・・・」
丁度その時、何者かが階段を上がって来る音が、二人の耳に入る。コツコツとゆっくり近づいて来るその足音は、一直線にシンとグレイスのいる船長室へ向かっているようだった。
「シンッ・・・!」
グレイスが焦りの表情で音のする方から、彼の方へ振り返る。シンは床に手を当て、既にスキル【潜影】を発動していた。二人の身体は湖に浮かぶ舟の底が抜けたように、影の中へと落ちていく。
ドアノブを捻る音と共にロッシュが船長室へと入って来るが、既に二人の姿はそこにはなく、痕跡も残っていなかった。ロッシュの感は決して外してなどおらず、見事侵入者の陰を確かに捉えていた。しかし、彼の鋭い鷹の目はアサシンのスキルと、用意周到な者達によって欺かれたのだった。
シン達とロッシュによる、静かなる攻防戦が密かに繰り広げられていたグラン・ヴァーグ停泊場。そこより少し遠くの海上に、海霧のようなものが立ち込める。その霧の中でひっそりと息を潜める船が一隻、停泊場の様子を伺うようにこちらを見ていた。
「ただいま戻りました・・・」
「それでぇ・・・?どうだったんだぁ?」
「何もありませんでした・・・。が、何かが動く影のようなものが時々見えました」
「影・・・ねぇ・・・。ネズミやフナムシってぇんじゃぁねぇんだろ?じゃぁ一体何がいたってぇ言うんだぁ?・・・まぁ、何にしろ“ブツ”あるってんなら構わねぇが・・・」
霧の中にあったのは海賊船。そして船の上で会話をしている、不気味な雰囲気を醸し出す海賊姿の男とその部下らしき者。報告を受けた男が腕を組み、顎髭を触りながなブツブツと独り言のように話し始めている。
その者達が乗る船は徐々に濃霧に溶け込むようにして、音もなくその姿を消していった。
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