World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
162 / 1,646

任務の行方

しおりを挟む
 無事、焦燥感を断ち切ることが出来た様子のシンとグレイスに、ホッと胸を撫で下ろすシュユー。合鍵の作成に集中できるようになると、そこからの作業は早かった。話をする中で手際良くシンの送ってくれた鍵の形をした影の型を取り終え、鉄製の武器をスキルで溶解し、型を取った容器へ流し込んでいたシュユーは、更に鍛治師のスキルで固まるまでの時間を短縮させる。

 鍵を容器から取り出して、少し荒の残る部分を削ると、出来上がった合鍵に手をかざし簡単な一手間を加える。彼の手から放たれた光が鍵を包み込むと、同じ色の光を放ち始める。

 「合鍵が出来たぞ!これをどうすればいい?」

 「自分の影の中に落としてくれ!そうすれば影で繋がるこちら側に届く」

 シュユーは出来上がった鍵を急ぎ自分の影の中へと落とした。すると鍵は、まるで湖の中へ転げ落ちた小石のように、小さな波紋を立てながら真っ黒な影の中へと沈んでいった。本当にこれで向こう側に届いたのだろうかと、影の中を覗き込むシュユーだったが影の中に映ったのは、電源を落としたテレビを覗くのと同じように、影に物が消えるという現象に呆然とする自身の顔だけだった。

 「ロッシュ達が停泊場まで着いた。海賊船までもう近いぞ!」

 岬の高台から監視をしていたミアから、ロッシュ一行の停泊場到着の報告が入る。停泊場の入り口からロッシュ海賊団の船までそれ程距離はない。

 合鍵は既に出来上がった。これから解錠し、そこにあるかも知れない目的のアイテムを入手して船を脱出出来るかどうかは、かなり際どい様に思える。依然、船の警備にあたる者や積み込み作業をしている者、そしてシン達のいる上層部を徘徊する死霊は健在。急いて物音を立てて仕舞えば、船に近づくロッシュ達の目にも異変が起きていることが見えてしまう、とても気の抜けない状況だった。

 「いいか?お前らは中層・下層・周辺警戒に分かれて何か異変がないか探れ。何かが無くなってないかは勿論、何者かが入った、或いは何かを送り込んできたかの様な
痕跡があるかも知れない。注意深く・・・丹念に探せ」

 「うっす!」

 自分の海賊船へと帰って来たロッシュ一行は、徐々に散会して行くとそれぞれの持ち場へと移動を開始した。既に警備にあたっていた船員達から話を聞き始め、手の空いている船員達が順次、巡回へと回る。

 シンとグレイスが脱出した形跡や、報告が入らないまま海賊船内とその周辺の警戒態勢がどんどんと強くなっていく。信じているとはいえ、雲行きの怪しくなっていく現場の様子に、ミアやツクヨの額からは汗が流れる。

 「あれ?船長、もうお戻りですかい?」

 「あぁ、ちょっと気になることがあってな・・・。何か船に変わった様子はなかったか?どんな些細なことでもいい、何かおかしな事は・・・?」

 橋を渡り船内へと戻ってきたロッシュが、見張りをしていた船員に尋ねる。突然の話に、何のことだか分からない船員だったが、自身が見張りの番についてから今現在までの間のことを、頭を雑巾の様に絞って思い出そうとする。

 「ん~・・・そうですねぇ~・・・、変わったこと・・・。あぁ、そういえば・・・」

 何か思い当たることでもあったのか、必死に思い出そうと、眉間にシワを寄せ閉じていた目を開いた船員に、視線を送るロッシュ。一人目の聴取から情報が得られるとは思っていなかった彼も、船員の語る思い出した事に耳を傾けて集中する。

 「昼間に町へ買い出しに行った奴が、岬の方へ向かう黒上の美人を見たそうですぜ?それと・・・、積荷の舟を漕いできた奴が高身長でスタイルのいい女が、男と舟に乗ってるのを見て愚痴を漏らしてました。やっぱりレースの時期になると上玉な女も集まってくるんですかねぇ・・・」

 「・・・・・・」

 期待していた話から遠くも遠く、全く関係のない話を始めた船員にロッシュは一瞬、頭が真っ白になった。鋭い緯線は呆れたものへと変わり、最早見張りにあたっていた船員の話を聞くこともなく、自身の部屋のある上層階への階段へと向かっていくロッシュ。

 「あれ?船長?もうよろしいんで?」

 「あぁ・・・もういい。引き続き警戒にあたれ・・・」

 無駄な時間を費やしたと、大きな溜息を吐いて頭を小さく左右に振るロッシュ。ブーツが木材を叩く、木造の船ならではの音を立てながら部下を配置しなかった上層へと上がっていく。そこにはシン達が来た時と同じく、壁を擦り抜けながら徘徊する死霊のn姿がある。

 一匹の死霊モンスターが壁から擦り抜けてくると、ロッシュの目の前を通りかかる。しかし、ロッシュは瞳を動かすような反応すら取らず、横切る死霊モンスターの体を擦り抜けていく。

 そのまま船長室へと直進して行くロッシュが、遂にドアノブを握り中へと入ってくる。耳を澄まし、部屋を見渡すロッシュ。彼の耳に届く音は、下の階で作業や警戒にあたる者達の声や物音だけで、近場から聞こえるのは死霊の呻き声だけだった。

 部屋に気配がないことを確認したロッシュは、ゆっくりと船長室の中へ歩みを進める。小さく響く彼の足音、部屋の中を瞳だけ動かして注視して行く。そして彼は自分の机の下、シン達が鍵を開けようとしていた木目のところでしゃがみ、指を滑らせる。

 鍵穴へ指が当たると彼はマントの内ポケットから、やはり持っていたかと言わんばかりに本物の鍵を取り出すと、鍵穴に刺してゆっくりと回す。しっかりと鍵が役目を果たしていることを知らせる様に、解錠される音が聞こえる。この場所は探られていないのかと思ったロッシュの動きが一瞬止まる。

 そのまま施錠されていた床下を開けると、そこにはアンティーク調の箱が納められていた。ロッシュは箱を取り出すことなく、その場で蓋の淵に指を当て、慎重に指が入るか入らないかくらいまで上げると、一旦動きを止める。再び動き出して蓋を取る。

 何故彼が慎重に蓋を開けたのか、それは蓋を外したところで漸く見に入ってきた。彼は箱の四隅に塩を盛っていたのだ。それは盗みに入った者が解錠に安心し、疑いもせず蓋を開けると盛ってあった僅かな盛り塩が崩れるという、自分以外が蓋を開けたかどうかを知るための細工だったのだ。

 ロッシュは蓋を横に置き、箱の周りを注意深く観察した後、指で下をなぞると塩が溢れていないかどうか確かめ始める。擦った指を目の前に持って来ると、親指と擦り合わせるが、塩の付着は確認できなかった。漸く慎重に動くことをやめたロッシュが箱の中身を取り出し、灯りの元で品物を確かめる。

 「・・・・・。本当に気のせい・・・だったのか・・・?物が変わっている様子もなければ蓋を開けた痕跡もない。それに死霊達が反応していない・・・」

 万全の状態で隠していたアイテムに触れられた痕跡がないことを知るロッシュは、自身の“気掛かり”が気のせいで終わったことに、安心したと共に自分の感が外れたことに少し動揺した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...