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神代 コウ

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絶対なる信頼

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 船内に乗り込むとフーファンとシュユーは、徐に積まれていた荷物を退かしながらスペースを確保すると、フーファンは文字のようなものが書かれた札を取り出し、船の床に魔法陣を作り、その中に札を何枚か貼ると、中心部から然程大きくはない祭壇が出現する。

 「では私はここで祈祷に入ります。シュユーさん、皆さんの案内をお願いしますね」

 「了解した。設置が終わったら戻ってくる。呉々も余計なことはしないように」

 「分かってます。子供扱いしないでくださいよ!シュユーさん!」

 彼らの間で行われる定番のやり取りなのだろうか、穏やかな表情のシュユーとふてくされた様子で頬を膨らませるフーファンが会話を済ませると、少女は道具を取り出し儀式を行う。

 「それでは次のポイントに参りましょう」

 船から降りるよう手で促すシュユーに従い、ミアとツクヨは言われるがままフーファンの乗る船を降りる。船の方を振り返ると、少女のいたところから薄っすらと怪しげなオーラが立ち昇っていた。無論、目立つようなものではなく、まだ距離の空いていないミア達だからこそ、その瞳に映るものだった。

 三人は停泊場を離れ、今度は町にある港を一望出来る絶景スポットにやってくる。海だけではなく町の様子もある程度見渡せるため、何か揉め事や騒動などがあれば人の動きで直ぐに確認出来るであろう高所であり、周囲の見張りには持って来いのポイントだった。

 「さぁ、着きました。ここが次なるポイントです」

 片腕で地平線をなぞる様に広げ、ミアとツクヨに周囲の景色を確認させると、シュユーは懐からフーファンの持っていた札に良く似たものを取り出すと、辺りをキョロキョロと見渡す。そして人目につかず、あまり目立たない場所を見つけると歩みを進め、腰を下ろし手にした札を床に貼る。

 と、ここに来てただ言われるがままついて来ていただけだったツクヨが、最初のポイントを離れ始めてから疑問に思っていたことを口にした。

 「すみません、ちょっと伺いたいんですが、妖術師であるフーファン殿を置いてきてしまって良かったのですか?その・・・術式?ですか、それは彼女が居なければ設置できないのでは・・・?」

 彼の疑問というのは、妖術師が術式を設置してスキルを発動するというのに、当の本人がその場に居ずして術式の設置が可能なのか、ということだ。直接的な魔法や術を扱うクラスがいないシン達のパーティにいるツクヨには、それらの発動に必要なものや条件について疎くなってしまうのは無理もない。

 「妖術師のクラスを見るのは初めてですか?ご安心を、フーファンの術式の書かれたこの札を、術式を設置したい場所に貼れば・・・」

 そういうと、彼が札を貼った床の周りに魔法陣が浮かび上がり始め、その中心から台座の様なものが徐々に姿を表す。

 「準備が出来ましたよ、フーファン。リンクを開始して下さい」

 「了解です!」

 床に浮かび上がった魔法陣の中から少女の声が聞こえた。どうやらフーファンのいる最初のポイントとこの魔法陣が繋がっているということなのだろう。そして、彼の言うリンクというものが開始されると、台座が淡い光を灯し始める。

 「これで彼女の妖術が強化されました。より広範囲に、より強力に・・・。今回の任務では多く設置することはないので、あまり高度な効果は発動しません。さぁ、完了しました。ここのポイントはツクヨ殿にお任せしたいのですが・・・、よろしいでしょうか?」

 台座が光り、完了の合図を知らせるとツクヨに歩み寄るシュユー。町や港がよく見える見晴らしのいいこの場所は、銃による援護を行えるミアが残るのかと思っていた二人は、何故ツクヨなのかと彼に尋ねた。

 「これだけ見晴らしが良いんだ。銃による援護が出来る私じゃなくていいのか?」

 「えぇ、この配置で問題ありません。それと言うのも、狙撃が可能なミア殿には、最後のポイントを担当して頂きたく思います。それに・・・、こんな町中で銃声など穏やかではありませんしね」

 彼の言葉に思わず納得する二人。作戦のことが優先され、当然のことが頭から抜けてしまっていた。正に灯台下暗しと言いたいところであったが、ツクヨは聖都でのミアの戦いを見て、彼女はその時銃声のしない弾を撃っていたことを思い出す。

 「ミア、君は確か音を出さずに銃が撃てなかったかい?それがあれば周りに銃声を聞かれないのはおろか、物音だって立てずに済むじゃないか」

 ミアが聖都で使っていた陰属性の力を使えば、様々なモノが奪える。それこそシュユーのエンチャントによる不可視の装備と合わせれば、音を消し、気配を消し、匂いまでも消すことが可能だろう。強いて言うならば、温度探知だけは逃れることができない。確かに体温を奪うことも可能だが、それでは自身の生命を維持することができなくなってしまうからだ。

 だが、ミアの何かを奪う陰属性の力は、聖都という地にある固有の属性原子を使ったモノなので、ここで同じ芸当をするのならば、この港町グラン・ヴァーグ固有の原子が陰属性でなければならない。

 「残念だが、それ不可能だ。あれはその地にある属性を使ったものだったんだ。ここで同じことは出来ない。どの道、彼が最終ポイントに私を置きたいと言っているんだ。それに従おう」

 「それもそうだね・・・、了解した」

 ツクヨとは町の高台で別れ、次なるポイントへ移動するミアとシュユー。賑な町並みまで戻ってくると、次の経路は再び港寄りになっていく。しかし、如何やら船の方ではなく、町の外れに位置する高い丘の上にある岬の方へと進んでいるようだった。

 「なるほど。最後のポイントは船を一望出来るあの岬って訳か?」

 彼女の推測の通り、シュユーは数ある船を一望出来る岬をミアの防衛地点として残していた。ここならば不測の事態が起きた際に、銃声をあまり気にすることなく援護射撃が行える。

 「ご名答。ミア殿の推測通り、あそこが最後のポイントとなります。あのポイントならば潜入する彼女らと、妖術を使っているフーファンの両方を援護出来ます。まぁ、そんな事態にならない事を祈りますが・・・」

 漸く最後のポイントへと辿り着いたミアとシュユー。そして再び辺りを見渡し、いいポジションを探るシュユーとミア。最終的に彼女が狙いやすい場所に札を置き、フーファンに連絡を取ると、ツクヨのいたポイントと同じく魔法陣の中から台座が出現し、光を灯す。

 「これで準備は完了です」

 「アンタはどうするんだ。術式の設置はこれで最後なんだろ?潜入するシン達と合流する訳でもあるまいし」

 「私の最後の役割はフーファンの護衛です。術を発動している彼女は完全に無防備な状態になってしまいますので、誰かが側で守らなければなりません・・・」

 そう言ったシュユーの表情は穏やかで温かいものがあった。まるで信頼し合い強い絆で結ばれた相棒を想うかの様に。

 「いい相棒なんだな・・・、アンタ達」

 「えぇ・・・。私達は“あの方”に拾われなければ、自分の力の使い方も知らず、死んでいくか、利用されるかしかありませんでした。我々に道を示し、役目を与えて下さった“あの方”の判断に間違いはありません。私とフーファンが組むのも必然だったのかもしれませんね」

 彼らが厚い信頼を置く“あの方”というのは、グレイスが口にしていたチン・シーという人物で間違いないだろう。そしてその人物の言う事を疑う事なく信じる彼らは、組まされた相棒のことも疑うことなく信じて背中を預ける。彼らのその様子から、彼らのチームが如何に統率が取れたチームなのかがよく伺えた。
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