World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
138 / 1,646

情報の海へ

しおりを挟む
 荷物を店内に運び終えてアランが、ウィリアムに話しを通してくれたようで、安くていい宿屋であったり、町にあるギルドの場所などを教えてくれた。

 「ウチでは造船は勿論のこと、修理や増築の仕事も請け負っている他に、武器や防具の販売、それにちょっとしたアイテムの販売もしている。何か必要な物があれば是非わしの店を贔屓にしてくれ!ガハハッ!」

 豪快に笑うウィリアムを尻目に、アランが運んで来た荷物を開けて中身を確認するツバキ。中からは何かの工具なのだろうか、鉄同士がぶつかり合う金属音がガチャガチャと騒々しく店内の一帯を賑やかにしていた。

 「ふーん・・・まぁそれなりに良い方か。でも想像してた程のモンじゃねえな!・・・んだよッ、聖都に寄るっつうから期待してたのに」

 残念そうに箱の中から取り出していた物を、再び箱の中に放り投げて戻すと店の奥に行こうとする。それを見ていたウィリアムが、腰につけた工具ポーチから工具を取り出して、あろうことかそれをツバキに投げながら怒鳴り散らす。

 「おいクソガキッ!頼んでおいた物は取りに行ったのか!?コラッ!!いつもいつも後回しにしやがってッ!」

 逞しいその腕から放たれた工具は、物凄い速さで回転しながら風を切ってツバキの背後に迫っていき、このままでは本当に彼に当たり、怪我をするのではないかとシン達はヒヤリとしたが、ツバキは飛んで来た工具を軽々と避けて後ろ向きのままキャッチすると、彼は彼なりの言い分をウィリアムにぶつけた。

 「店の中で物を投げるなっつうの!商品に当たったらどうすんだクソジジィッ!俺ぁレースに向けての機体造りで忙しいんだ。アランが来てるならまたアランに頼めばいいだろうがッ・・・」

 顔だけを少しこちらに向けた状態で、捨て台詞のように言い残すと、ウィリアムの言っていた頼まれごとに向かうのか、それとも工房に戻るのか、静止を無視しそのままキャッチした工具を起用にクルクルと手で回しながら店の奥へと消えていってしまった。

 「全く・・・いつになったら素直になるんだか・・・」

 大きな溜息と共に強張った身体から力が抜けるウィリアムと、そんな様子を少し離れたところから見ていたアランが、周りに聞こえるか聞こえないかといった小さな声で、ボソッと小言を漏らした。

 「・・・十分、素直だよ・・・」

 その声が聞こえたのか、ツクヨが黙って視線をアランへと向けて聞き耳を立てていた。用事を済ませたアランがシン達の元へ歩み寄ると、今後の彼の予定と町のイベントについて少しだけ話してくれた。

 「私の用件はこれで済みました。暫くはこの町にいますが、また商品を仕入れたら別の地に移動を始めようと思います。いろんな情報を集めたいのなら酒場に行くのがいいでしょうね。酒に酔った人が気分が良くなっていろいろ面白い話を残していきますから。それともう直ぐレースの時期ですから、もしよろしければ景品や参加者なんかを調べておくのも良いかもしれません。中には大物が参加していたりしますからね」

 「大物・・・?」

 レースに参加する意思はシンにもミアにもないが、そんな誰でも参加できるレースに大物が出ている。と、なればその大物を引きつける何かがこのレースにあるということだろう。それが景品なのか、それとも誰かなのか。

 「以前はある国が雇ったギャングが参加して、特定の景品だけを総なめしていくこともあったそうですよ。誰がどんな情報を握っているか分からない、情報を重視するあなた方ならきっと期待できる何かを掴むこともできると思います。ですが、参加ルールが参加ルールなだけに危険であることは否めません。実際、死者や行方不明者も多数出ていますからね」

 海賊やギャング、お尋ね者なんかも参加しているのだから、そのような身の危険を心配するようなイベントであることは容易に想像ができる。

 「あぁ、それと・・・。参加には簡単な手続きと、海を渡る手段が必要になります。必ずしも船である必要はありません。潜水艦や召喚獣、泳ぎで参加する者もいたほどですから」

 どうやらそのレースには様々なクラスの者が参加するようで、それぞれのクラスを活かした航海、捜索、戦闘を繰り広げているらしい。アランの言っていた召喚士の召喚したモンスター然り、泳ぎというのも恐らく自己強化の獣人化であったり、魚人など元々の種族の利点を活かしているということだろう。

 「もし船が必要ならわしに言いなッ!いくつかストックがある。アランの顔馴染みなら格安で売ってやるわいッ!」

 新たな商売の匂いに、嬉しそうな笑みを浮かべるウィリアムだが、恐らく在庫処分のようなものだろう。それに残念な事にシン達にはお金が無い。彼が一体どんな値段設定で売り出そうとしているのかは知らないが、船となればそれなりにいい値段となることだろう。

 「ははは・・・考えておきます・・・・」

 アランには悪いが、贔屓で買うには重た過ぎる出費になる。それに彼らのクラスを考えても、とても海で活躍できるというものではない。

 一通り話が終わるとアランはここでシン達と別れ、ウィリアムも工房に戻ると言ってその場を後にする。シン達も、ウィリアムから教えてもらった宿屋の予約と情報集めをする二つのグループに分かれて行動することにした。

 一つは町を探索し、情報を集めるシンとミア。そしてもう一つが宿屋の予約を取り、時間までシン達のグループと同じく情報収集に移るツクヨとヘラルトのグループに分かれた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...