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01 結婚式で夫に逃げられた花嫁
しおりを挟むこんにちは、アンリ先生。ニナです。今日は私の結婚式です。
いえ、結婚式だったが、正確な表現ですね。だって新郎が私の目の前で知らない女性と逃げてしまったので、結婚式は亡くなりました。いえ、無くなりました。
私も混乱してわけがわからないですが、先生に手紙を書くことで心を落ち着かせています。読みにくいかもしれませんが、許してくださいね。
さて、私もなぜ、こんなことになってしまったのか、まったくわかりません。そもそもこの結婚は政略結婚であって、別に大恋愛をしたわけではないのです。
事の発端は新郎家の所有している土地に、高品質の魔石が採れるようになったことでした。先生もご存じのとおり、私の家は魔術具を国内外に売っております。なおかつ私が、この私が! 王家の覚えもめでたい天才魔術師ですので、新郎家は魔石の専売を約束するから息子と結婚を、と言ってきたのです。
私は結婚なんて誰としても同じだと思っているので「両親がそうしたいならどうぞ」と言いました。これで結婚へのお小言が減るなら、それでいいと思いましたし。
新郎のレオンと初めて会った時は、優しそうな人だなと思っただけで特に悪い印象はありませんでした。そのくらい平凡で、無害な人だと思ったのです。
愛情は結婚してから育めばいいと両親に言われ、別に彼からの愛情はいらないけど……と思いましたが、文句を言わずに了承しました。
これは別に目の前で逃げられたから、悔し紛れに「別に恋してなかったから、平気だし」と言い訳しているわけじゃありません。なにせ私と彼は今日で会うのが三回目。恋する暇もありません。そこのところ勘違いしないよう、よろしくお願いします。ここで誤解されるのが、一番腹立たしいのです。
えっと、話を戻します。それで三回目に会った今日、結婚式をつつがなく終わらせるつもりだったのですが、もうすぐ終わるという時に、見知らぬ女性が教会に乱入してきました。
乱入者はどうやら新郎レオンの恋人だったようです。なにやら大きな声で叫んだかと思うと、あっという間に彼の手を引っ張り消えました。別に彼に恋人がいるのは、どうでもいいのです。
私が不愉快に思うのは「なぜ結婚式当日、しかも! 誓いの言葉を言い終わり、静かになったタイミングで登場したのか?」ということです。列席者が「あら、次は誓いのキスね」なんて、盛り上がりが最高潮になっているところですよ?
それなのに、そこでバーンと大きな音を立てて押しかけ「こんなの間違ってるわ! レオン! 愛してる! 一緒に逃げましょう!」と女性が突入してきたのです。
間違ってるのは、あなたのタイミングでは? と思いました。最初からレオンがお見合いを受けなければいいだけです。逃げるなら結婚話が出た時に、二人で逃げれば良いのに。そう思いませんか? 私は最悪のタイミングで逃げる二人を、呆然と見ていました。
その女性も魔術師だったのでしょうね。父達が追いかけたようですが、まだ二人の行方はわかりません。知りたくもないし、ほうっておけばいいのに。国内に出た様子はありません。国境の結界は私が張ったのですから、それに触れればわかります。
残された私は注目の的です。告白していないのにフラれたような気持ちでたたずんでいると、列席者の顔にはありありと「かわいそう」と書いてあります。ただ一人、先生もご存じの兄エリックだけが、ヒーヒー笑っていました。それはそれでムカつきます。隣りにいた母が拳で黙らせたから、まだ良かったですが。
それで何が言いたいかというと、王都では私の噂でもちきりで、居場所がありません。なので、先生のところにお世話になろうと思います。ベッドや食べ物の用意など、よろしくお願いします。パジャマは持っていきますので、大丈夫です。では。
「はあ!?」
「こんばんはー!」
誰かが家を訪ねてきた声と俺の叫び声が、同時に部屋に響いた。時間はもう夜中に近い。まさかと思って玄関の扉を開けると、そこに立っていたのはやはり、この手紙の送り主である「ニナ」だった。
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