上 下
32 / 100

第32夜 ビデオテープ

しおりを挟む
私は何でも屋をしています。
何でも屋の仕事は様々で、不用品回収のような力仕事から蜂の巣駆除のような危険な仕事まで、依頼があれば名前の通り何でもやります。

その依頼は一週間ほど前、30代の男性から寄せられたもので、一人暮らしをしていた父親の遺品整理をしてほしいとのことでした。
依頼された場所に行くと、そこは平屋建ての小さな一軒家でした。
仕事自体はスムーズに進み、処分する遺品をトラックに積んで持ち帰りました。
そして、作業場で不用品の分別をしていると、一本のビデオテープが出てきたのです。
ラベルを見ると昔やっていたバラエティ番組の名前が書いてありました。
懐かしいなと思って、家にまだあったテレビデオで見てみようと思いました。
しかし、録画されていたのはバラエティ番組ではなかったんです。

それはホームビデオでした。
場所はまさにあの一軒家で、依頼人の方に似た男性が映っており、亡くなられた父親なのかなと思いました。
映像は、子供の誕生日のようでした。
大きなケーキとご馳走にはしゃぐ小学生くらいの男の子。
よく見ると、その面影から依頼人の方だと分かりました。
小さな女の子を抱いた女性もおり、おそらく妹と母親であろうと思いました。
ケーキに刺したロウソクの火を吹き消したり、プレゼントを渡したり、楽しい映像が続きます。
これは依頼主に返した方が良いかなと思った時、異変に気が付きました。
映像の中にもう1人いるのです。
部屋の隅に体育座りをして、ケーキを食べる家族を眺める5歳くらいの男の子が。
楽しそうな家族とは対照的に無表情で生気がない顔をしていました。
私は、見てはいけないものを見てしまったような気がして、テレビを消しました。
「えっ!?」
消したはずの画面にまだ男の子が映っていました。
部屋の隅に体育座りをして、じっとこちらを見つめています。
私は恐る恐る振り返りました。
しかし、そこには誰もおらず、テレビの方に向き直ると男の子は消えていました。

私は薄気味悪さを覚え、依頼主にビデオテープを返すことにしました。
依頼主のアパートの部屋を訪ねると、ドアチェーン越しに怪訝な顔をされました。
「思い出の品だと悪いので、中身を見てしまいました」
と言い、何が映っていたのかを伝えて、少し開いたドアの隙間からビデオテープを渡しました。
「まだこんなものが残っていたんですね」
依頼主はビデオテープを受け取って、眉をしかめました。
「変な映像だったでしょう」
「あの男の子のことですか?」
私の問いかけに、依頼主は小さく頷きました。
「きっと、父にとっては大切なものだったんでしょうね。生きている弟の最後の姿ですから」
「最後?」
「弟は8歳の時に死んだんです」
「ご病気だったんですか?」
依頼主は静かに首を横に振りました。
「母が弟を嫌っていましてね」
「え?」
「死因は餓死です」

閉められるアパートのドアの隙間に、あの男の子の姿が見えた気がしました。
しおりを挟む

処理中です...