ゆうみお R18 お休み中

あまみや。

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桜木郁人

気になる店員さん

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常連客目線でスーパーの店員してる郁人…


ーーー


最近よく行くスーパーに気になる店員がいる。


「いらっしゃいませ!」


若い男の子…多分ネームにアルバイトと書いてあるので高校生アルバイトだと思う。


濃い緑色の柔らかそうな髪をした、笑顔が可愛い店員、


「お願いします」
「はい、お預かり致します。」


(桜木さん……今日も素敵だな)



下の名前は分からないけど、桜木という苗字の男の子だった。



「ポイントカードは……、はい、お預かりしますね」
「はい」


俺はもうすぐ40になるくらいの独身、仕事が恋人みたいな男ではあるけど……密かに、仕事帰りに行きつけのスーパーでこの人に会えるのを楽しみにしていた。


初めて会ったのは衣替えが始まるくらい……10月くらいのこと。

まだ新人で俺のレジでミスをしてしまい、そこで思ってもいないくらい謝られたことが印象に残っている。


別に人のミスはあまり気にしない性格なので、その時のミスは俺にとってはかえって良かったのかもしれない。


それがきっかけでこの人から認知されている気もするし。



「150円のお返しになります、ありがとうございました」


お釣りを渡してくれる時に少し手に触れるのが好きだった。



(体温…思ったより高い)




なんて…少し変態臭いけど。




「…またお越しくださいませ……!」
「…!」


愛想は良い子だけど、常連だからか少し特別感のある笑顔を向けてくれる瞬間が好きだった。



好きで、人生に何も楽しみのない俺の唯一の癒しで、




店員と客以上は望まないと思っていても、もっと仲良くしたいという気持ちもあるようで複雑だった。





ーーー


毎日のように惣菜を買いにスーパーに行くわけだけど、不思議に思うことが1つあった。


(この子……何気に毎日いるよな)


桜木さんと毎日会えるのは嬉しいけど、休みを貰えているのか心配になる。

少なくとも初めて会った日から俺がこの子とこのスーパーで会わなかった日は一度もない。


でもまあ、「ちゃんと休んでるんですか」なんて聞けるわけないので心の中に留めておいた。



「いつもご利用ありがとうございます!」
「…!あ、」



そう言って貰えたのが嬉しくて、「こちらこそいつもありがとう」って言おうと思ったけど緊張して言えず少し微笑んで頷いた。


…まぁ、認知されてない訳は無い。毎日通っているし必ずあの人のレジに並ぶから。


(気があるとか、バレてないといいけど………)



でも向こうは見た目も良いし若い、彼女がいたって不思議では無い。




ただ見ているだけ………そう思ってた。




けど段々、



「……あの、お願いします」
「…え、……、…あ、っ、ごめんなさい!」


桜木さんはたまにぼーっとしているのか、最近はずっとそんな感じだった。


疲れているなら無理しない方がいいのに、なんて思いながらもそれを伝える事は出来なかった。


(この人…大丈夫なんだろうか、夜に見るから昼は学校に行ってるとは思うけど………、……でも)


こんなに働いているのは家庭の問題か、お金が好きなのか、そんな事客の俺は知らない。


でも誰が見たって分かる、これはやりすぎだと。



「…あの、」



初めて自分から声をかけてみた。




「はい…?」
「こんなの…客が言うことじゃないと思うんですけど、無理、しないで下さいね」


誰だって心配になる。


見た目だって、最初見た時よりも痩せているのか分かるし、笑顔だって段々疲れて無理に作っているのだって分かる。


分かるのに、何か助けになりたいのに、



「……ありがとうございます、…、………ちゃんと、…休みますね」



その様子から、何か事情があるのは薄々気付いた。



それでも人見知りな俺は、気持ちを伝えられただけで満足してしまっていた。





ーーー


休日、いつもは休日も仕事帰りと同じくらいの時間に行くけど今日は早くて開店してすぐスーパーに行った。


いつもと時間も違うはずなのに、レジにはいつもと同じ子が立っていた。



「いらっしゃいませ、お預かりいたします」



桜木さんだった。




「…え、朝から……?」


つい声に出ていた。



「…あ、……今日は学校…休みなので、いつもは夜だけですよ?」


それに反応した桜木さんの表情は少し曇っていた。


怯えているような、目を合わしたがらないような、




レジを打ってもらって家に帰ったあともずっと、その時の表情が頭から離れなかった。




そしてそんなある日、疑いが確信になるくらい大きな出来事が起きた。



「あつ……」


その日は冬なのに少し暑く、着ていた服が暑くて腕もまくっていた。


他にもちらほら暑そうな人がいるので気にもならずそのままレジへ向かう。


いつも長袖を着ている桜木さんも、客がいないからか少し腕をまくっていた。


「…あ、いらっしゃいませ、お預かりいたします」



それに気付いていなかったのか特に気にしていなかったのか、腕をまくったままレジを打ってくれた。


…ふと露出した腕を見て、気付いた。




(……痣?)



袖の方に少しだけ、痣が見えた。



(あれは…ぶつけたのか?それとも、)


なんて見ていたら向こうがそれに気付いたのかハッとして腕まくりを辞めた。


「ご、ごめんなさい、失礼ですよね」
「あ、いや、そういうわけじゃ……ていうか、その」



痣のことについて聞くのは大丈夫なのか気になっていたら、



「ごめんなさい…、…ごめんなさい」



なんて、怯えながら俯いて謝る桜木さんを見て、確信した。





(この子…誰かから暴力を受けてるな)



専門家でも無いのにそれだけは絶対そうだと確信出来て、でもそれが誰かからなのかは分からない。


親、恋人、…考えられるのはその辺りだけど。



(大丈夫かな…この子)




正直、心配で仕方なかった。







ーーー


それからしばらく経ったある日のこと、暴力を振るっているであろう人物を知ることが出来た。


レジ近くで商品を見ていた時、閉店間際で人も並んでいない時間帯に、1人…高身長の男が桜木さんのレジに並んでいた。


そこで何か話し声が聞こえて、気になって耳を澄ますと、



「分かってるよな?レジ通しとけよ」
「でも…違算が、それに、」
「あ”?」


周りに聞こえないくらい小声ではあったけど他に人もいなかった為しっかり聞こえた。



「あのなぁ、お前の事情なんて知るかよ、さっさとやれよ!!」
「ッ…!!ぁ……、」


怒鳴った男に桜木さんは酷く脅えていて、震えながら手を動かし始めた。



「それでいいんだよ……、お前なんかいくらでも脅せるんだからな」





それを聞いて、もう黙っていられなくなった。





「何してるんだ!!」




咄嗟に止めに入って、2人とも驚いてこっちを見ている。



「あ”?なんだよ、」
「話…聞こえてたけど、それ万引きと一緒だろ!それに、よくも………」



よくもこの人を、




「チッ……めんどくせぇ、これだから接客は駄目なんだよ、」



そう言うと男は財布から金を出してトレーに叩きつけた。



「やっぱりこんな仕事させるんじゃなかった……、郁人、お前覚えてろよ」



おつりも受け取らず桜木さんを睨みながら帰って行った男、少しの間俺と桜木さんの間で沈黙が続いた。



(俺……なんてことを)




……でもあれが桜木さんに暴力を振るっていた男。



「………」
「あ…桜木さん、大丈夫ですか?」



無言のまま精算を済ませて、一瞬俺を見てすごく苦しそうな表情をしたけどすぐにまた笑った。



「ごめんなさい…ありがとうございました」



いつもと少し違うお礼、その前に謝られるのは不本意だったけど。



「い…いえ、でもさっきの人………警察にでも、」

そこまで言って余計なお世話だったかなと思い喋るのを辞めた。



「…警察かぁ」



それだけ言って無気力そうに微笑む桜木さんは、何故かさっきよりも怯えている気がした。



「行けたらいいな………」
「え?」
「……あ、いえ。本当にありがとうございました」



微笑んでお礼を言う彼を見て、やっぱりこの人の事が好きなんだと改めて実感した。



「また来ます、警察…行ってくださいね」


会計が終わった頃には閉店時間を少し過ぎていて、申し訳なかったけど桜木さんは笑ってくれてた。




それに少し安心して、店の外に出る。



「……あ、」



さっきの男が駐車場の近くに立っていた。



「………」
「…ああ、さっきはどうも」


見ていたら声をかけられて、ニヤニヤ笑うその男に少し恐怖を感じた。



「何してるんですか…」
「恋人の帰りを待ってるんですけど、誰かさんが出しゃばったせいで閉店時間伸びちゃいましたね」


それが自分の事を言われているというのは分かる。



「誰のせいだと…!!そもそも桜木さんは物じゃないし学校もあるのに高校生に毎日働かせるなんて、あの人の事考えてないだろ!!」


…なんて、正義感たっぷりの台詞に男はまた笑っていた。



「いや物だけど、…ていうか学校…?あいつに学校なんか行かせてるわけないだろ」


それを聞いてかなり驚いた。



「行かせてない……?高校生なんじゃ、」
「勉強なんかより金稼がせた方が良いに決まってんだろ、あいつは使えないんだから金くらい持ってきてもらわないと。」



そう言って男は笑った。




「お前………」
「…あ、」


男の目線の先に桜木さんがいて、不思議そうにこっちを見ていた。



「………何してるんですか?」
「桜木さん…!あの、」
「早かったな、ほら帰るぞ、早くしろ」


ここで止めなきゃいけなかったのに、



「………」
「世話が焼けるな…さっさと帰るぞ」



あの男と一緒に帰ったら、警察に行けない。

どうすればいいか考えて、俺が行こうとも考えたけど相手に気付かれていた。


「こいつは俺がいないと生きていけないんだよ、余計な事すんなよ」



それだけ言い残して何も言わずにその男についていく桜木さんの後ろに手を回した。




ーーー



その日から桜木さんをスーパーで見なくなった。



他のレジ店員に聞いてみても良かったけど、それだとストーカーみたいだったから難しかった。



何日も何日も、ずっと桜木さんは来なかった。





「…………」






そして1ヶ月が過ぎて、ようやく彼を見た。




「…!桜木さん…」



今回はスーパーじゃなくてなんとスーパーからの帰り道を歩いていたらすれ違った。



「…あ…………」
「…、…え?…あの、」



俺を見て驚いていた桜木さんだったけど、俺も同じように桜木さんを見て驚いた。


彼はマスクをしていたけど、頬の辺りに酷く赤黒い痣が見えた。




「…!あ…こんにちは………」
「こんにちは……、…えっと、久しぶりですね」


久しぶり、なんて、店員の客の関係で店以外で会話をするのなんて初めてだから緊張してしまう。



「あれからどうですか…?あの人に何かされてないですか?」


それもなんだか頬の痣に気付いているならわざとらしく聞こえてしまうかもしれない。



「…えっと、……はい、でももうバイトはやめろって言われちゃって」


それを聞いて、驚きや罪悪感で思わず声を上げてしまった。



「え……そんな、」
「これから借りてたエプロン返しに行こうと思って、いつも来店してくれて嬉しかったです、ありがとうございました」


その後すぐに桜木さんの携帯の通知音が鳴って、「じゃあ、もう行きます」と言ってその場を去ろうとした。



「……助けてくれてありがとうございました、また、会えるといいですね」




止めたかったのに、止められなかった。








あの日からもう、彼を見かけることはなくなった。







ーーー


(郁人side)


ずっとずっと限界だった。


何もかも、あの男を家に入れたあの時から、



耐えられないDVで援交して金を稼げと言われた時、どうしても嫌で必死に頼んだ。


それで許して貰えたのがこの仕事だった。


学校にも行かせて貰えず、携帯の連絡先は消されて、心配する友達もそのうち顔を見なくなった。


犯された日から自分の存在がどうも汚く見えてしまって、けどもうどうする事も出来なくて、



そんな僕を唯一つなぎ止めていたのがこの仕事だった。



「こちらレシートになります、ありがとうございました」
「はい、ありがとね!」



「ありがとう」と言って貰える時が一番生きている心地がした。


ここでなら普通の人間になれると思った。



「今日は品出しか………」



けど、あの人がそんなの許してくれる訳が無い。



「…!あ……」
「お客様が来てやったぞ、今日はレジじゃないんだな」


閉店間際で客ももう数人というところに、あの人が来た。



「あの……もう少しで終わるから」
「いいよ、俺が買ってくるから金寄越せ」


毎日僕のお金でこのスーパーで閉店時間に残ったお惣菜を買ってそれを夜ご飯にする。

店長は賄いでタダでいいとはいうけど、毎日なのでそれはやめておいた。


「はいどうも、…あ、それから」
「え……、…ッなに?!」



3段くらい積まれた品出しのコンテナの影に押し倒されて、すごく嫌な予感がした。



「なに、やだ、やめて」
「人もいないし別にいいだろ、1回でいいから早くやれ」


予想通り性処理を強要された。



「嫌です、こんなところでしたくない、」
「あ”?うるせえな、いいからやれよ」


ここはバイト先で、人が少ないと言ってもお店。


「……ッ」


怯んでいたら、無理矢理口に押し込まれた。



「ん”…、んん、ぅ”」
「人いないしセックスできそうだな」



喉の奥まで突かれて吐きそうで気持ち悪くて、


誰かに助けて欲しかった、もうこんなことしたくなかった。



『レジ応援お願いします レジ応援お願いします』
「…っ、……ぁ、」


応援を呼ばれて、自分が担当だったので反応してしまった。



「ぁ…ぇぐ、……っれじ、」
「あ?あぁ…レジか」


行かなきゃいけないからもうやめていい。

この人がそんなこと言ってくれるわけが無い。



「むぐ……ッ!!」
「お前が行かなくても誰か行くよ、いいからやれよ!!」




やっぱりこの人は僕を普通にはしてくれない。



「……、」



どうやったって助からない。




ーーー



あの人が助けてくれて、その時にした嫌な予感が的中した。


「え……」
「お前もうバイト辞めろ、今、早く辞めろ」


あの日の夜、結局警察にも行けなかった僕は朝まで暴行された。


外まで聞こえるくらいの激しい暴言と、失神しても訳の分からない薬で起こされてはまた暴力が続く。


次の日の朝、電話で仕事を辞める事を伝えた。


『ええ…?!困るよ、急にそんな』
「……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」


店長の声が少し切羽が詰まっていて、それがあの人の罵声と重なって怖くて申し訳なくてひたすら謝った。




ーーー


仕事を辞めたその日からも地獄な事は変わらない。



「あ、君が……、…いいねぇ、写真より可愛い♡」
「ありがとうございます…!じゃあ、早速……行きましょうか。」




僕なんて、どうせ救われない。




結局、壊れたままだ。







    
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