死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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「……ん……」


ゆっくりと目を開けると、そこは私の部屋だった。
さっきまで居た白い空間ではなく、女神様もいない。
本当に10歳に戻っているのだろうか。
ベッドから降りて、鏡を確認すると私は子供になっていた。


「わ…本当に戻ってる…」


鏡には全体的に小さくなった私が居た。
髪も短い…今は胸くらいまでしかない。
婚約を機に伸ばし出したのよね…結婚式の為にって。


「懐かしいなぁ…」


そういえば、女神様が最後に慌ててたけど何だったんだろう?
女神様の加護を付け忘れたとか?
聖魔法が使えるって言ってたよね、確か。
聖魔法なんて幻の魔法だと思ってた。
国にも過去1人だけいたんだよな…使える人。
何十年も神殿で神官やってた信心深い人。


「待って…、魔獣とか一撃なんじゃない?」


身体が子供になったからか、ワクワクとした気持ちになる。
誕生日の次の日に魔力測定に神殿に行ったんだよね、確か。
そこで私は土と火の魔法が使えるって言われて、魔力量もかなり多いって神官達が大騒ぎしてた。
さすがハーヴェスト家のご令嬢だって。


「魔力量がそこそこ多くても、コントロール出来なきゃ何にもならないってあの頃の私は知らなかったから喜んでたけど、コントロール出来るようになるまで毎日訓練するのがキツかったよなぁ…」


天才肌のお兄様は、教え方が微妙だ。
出来ない人がどう解らないかがわかってない。
結局、ジャスティンに教えてもらって出来るようになったんだよね。


「3歳から膨大な量の魔力コントロール出来るジャスティンも天才なんだろうな」


3歳の時なんて…ほとんど覚えてないかも。
毎日楽しく遊んでた気がするわ。


「お嬢様、起きられていますか?」


ドアをノックする音がして、侍女のダリがひょこりと顔を出した。
あの時別れたままだったダリの声を聞いて、思わずじわりと涙ぐむ。


「起きてるわ、ダリ」
「おはようございます。今日は忙しいですよぉ!!朝食後にはすぐに準備に取り掛かります」
「わかったわ」
「それと、お嬢様、お誕生日おめでとうございます!」


ダリがにっこりと笑って、プレゼントを差し出してくる。
中身はもう知っている、私の黒髪によく映える蝶の髪飾り。
死ぬ直前にも着けていた、私のお気に入りの髪飾りだった。


「ありがとう!開けても良い?」
「もちろんです!」


綺麗なリボンをそっと外し、箱をあけるとほら。


「まぁ、綺麗な髪飾りね!今日はこれを着けたいわ!」
「良いんですか?」
「気に入っちゃったの!大事に使うわ!ありがとう!」
「嬉しいです!良かった!喜んでもらえて!」
「ダリはセンスがいいもの!これから沢山買い物行きましょ!」
「はい!お嬢様!」


ダリと当たり前のこんな会話が出来なくなるなんて、思ってもいなかったわね。
時を遡ったからには、1つ1つを大切にしよう。


「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」


身支度を終えて、食堂に行くともうみんなが揃っていた。


「おはよう、ミリオネア。そして、お誕生日おめでとう」
「おはよう、良く眠れた?お誕生日おめでとう」
「ミリオネア、今日も可愛いな。お誕生日おめでとう」


家族に会えるって普通の事じゃなかったのね。
最後に1人で帰してしまったお兄様…ごめんなさい。
あの時のお兄様の顔…忘れられないわ…。


「ありがとうございます、嬉しいわ…」


少し若いみんなに会えて、自然と涙が浮かんでくる。
命を簡単に捨ててしまってごめんなさい…。
みんながこんなに愛してくれているのに。


「あらあら10歳になったのに泣き虫さんね」
「どこか痛いか?大丈夫か?」
「褒め言葉が微妙だった?綺麗だなの方が良かったか?」


お兄様だけとんちんかんな事言ってるし。
私は今度は笑い出した。
忙しい誕生日だ。


「まぁ、今度は笑って!楽しい子ね!」
「パーティーだから緊張してるのか?大丈夫、お父様がついてる!」
「エスコートは兄様がちゃんとしてやるから心配するなよ!」


本当、この家族が大好きだ。
私は心からそう思う。


「大丈夫、ちょっと緊張しただけ!安心したらお腹空いたわ!」
「そうだな、食べようか!」


お父様の一言で始まった朝食は、いつもより格段に美味しかった。


「…さて、お嬢様」
「なぁに?ダリ」
「世界一美しい10歳に仕上げてみせます!」
「ふふっ!よろしくね!」
「おまかせを!」


そこからのダリの動きは素早かった。
シュバババ!と音が聞こえそうなくらい速かった。
あっという間に化粧が終わって髪型も複雑に結い上げられていく。


「出来ました!!」
「わぁ!!」
「あぁ…艶やかな黒髪に、神秘的な赤紫色の瞳…真珠のような肌にぷっくりとした唇…なんて綺麗なんでしょうか!!これは殿方にはたまりませんわ!!」
「そ、そんな事は…」


ダリの興奮は止まらない。
でも、本当に別人のように仕上がっている。
ダリは本当にセンスがいいし、手先も器用だ。
鏡の中の自分にうっとりしてしまいそうなくらいに化粧も上手い。
髪には蝶の髪飾りが煌めいていて、満足のいく仕上がりに思わず笑ってしまう。


「今日はお客様がたくさん来ますから、適度に休憩をして下さいね」
「わかったわ。あ…そういえば…」
「どうかしましたか?」
「王宮から誰か来たりするのかしら…?」
「さぁ…?宰相様以外の方が来るとは聞いてませんね…」
「そう、ならいいの」
「情報が変わっていたらお知らせしますね」
「ありがとう」


ダリが部屋から退室した後、私は1人首を傾げた。
ジャスティンと私は今日出会うのよね…?
でも誕生日にジャスティンに会った記憶はないのよね…。
婚約の時に初めて会ったと思うのだけど。
一体どこで会ったのかしら?
まぁでも…。


「同じようにはならないかも知れないわ。すでに過去は変わっているんだから」


そう、変えるために私はここにいる。
ジャスティンと私が幸せになれるように。
もしかしたら、私とジャスティンは出会わずにお互いに違う人と恋に落ちるかも知れないし。
その方が良かったかも知れない。
あんな最期を迎え方をした後では…最初に夢見た明るい薔薇色の未来を想像出来ないし。
要は2人ともそれぞれ幸せになればいいのだから。


「別の道を歩くのも1つの手よね」
 

呟いた後、少し寂しくなるのはきっとあの時に見たジャスティンの悲痛な顔のせいだ。
あまりに痛ましくて泣きそうになってしまった。
両思いだったのにね…。


「大丈夫、今回は変えてみせるから…」


だから、自分を呪ったりしないで…ジャスティン。
私はそう願わずにはいられなかった。
どうしてあんなに捻じ曲がった想いになったのかは解らないけれど、あんな顔をもうさせたくなかった。


「ミリオネア、準備出来てるか?」


コンコンコンとノックされたドアからお兄様の声が聞こえて、私はぱっと顔を上げた。
今日は誕生日なんだから、暗い気持ちはダメダメ!!
明るく楽しく過ごす事が幸せの第一歩よ!!


「出来てるわ!今行きます」
「もうお客さんは全員揃ったらしいから、そろそろ行くぞ」
「はい、お兄様」


お父様に似た顔のお兄様に、エスコートされて庭に向かう。
昼間のパーティーだから、ガーデンパーティーにしたのだ。
庭師がいい仕事をしているうちの庭は、素晴らしいと貴族間でも有名らしい。


「本日は、娘、ミリオネアの誕生日パーティーの為にお越し頂きありがとうございます」


お父様が挨拶をしている横で、お兄様も私もにこやかに立っていた。
招待した人はお父様の仕事関係の人がほとんどで、私の知り合いは幼馴染のロイド・ネオダール公爵令息くらいだ。
ロイ兄様はお兄様と同じ歳で、私よりも5歳年上。
黒髪に青色の目のお兄様、銀髪に赤色の目のロイ兄様は2人共目立つし、令嬢達に人気が高い…らしい。
2人が女の子と一緒にいる所をあまり見た事がないから、実感が湧かないが水面下では婚約争奪戦が繰り広げられているとか…。


「あ、ロイ兄様」
「あ、ほんとだ」


ひそりとお兄様と内緒話をしていたら、ちらりと目の端に見慣れない男の子がいた。
茶色い髪に、茶色の瞳。
全体的に茶色いから、パンを連想させる。


「ねぇ、お兄様、あの子は誰?」
「さぁ?招待客の子供じゃないの?お前の婚約者の座を狙ってる親多そうだしな」
「え…まだ早いわよ…」
「お前は嫁に行かなくてもいいんだよ」
「それはちょっとヤダ…」


そんな事を言っているうちに、私の出番がやってきてしまった。


「我が娘、ミリオネアです。まだ10歳なので、至らぬ所もありますが、どうぞ今後の成長を見守ってやって下さい。ミリオネア、ご挨拶を」
「はい。皆様こんにちは。本日はお忙しい中、私の誕生日パーティーにお越しくださりありがとうございます。どうぞ皆様、お楽しみくださいませ」


ぺこり、とお辞儀をするとわぁっ!と歓声が上がった。
あれ?こんな歓声あったかしら?
まぁ、いっか。


「おい、ミリオネア。いつの間に挨拶の練習してたんだ?兄様はびっくりしたよ」
「え?挨拶の練習なんて…」


あ!!私今10歳だわ!!!
普通に言ってしまったわ、だから歓声が上がったのね!
あわわわ、気をつけないと!
私は内心ひやりとした。
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