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三周目――
記憶を取り戻したのは五歳だった。
またしてもループしていたことに落ち込むこと二日。
クリスティーヌは再び立ち上がった。
これまでのループから得た知識を活かし、王立学園への入学を回避し、さらにアーレ伯爵の妾になるのを回避しようと思い立ったからだ。
もちろん、レイとの偽装結婚も却下である。
(人に迷惑をかけず、自活して……そう、自活。とにかくお金を得て、どこか安全な場所で、ひっそり暮らす!!)
胸の中に広がるロジェとの別れの哀しさや切なさはあれど、クリスティーヌには若さと有り余るエネルギーが宿っていた。
何と言っても今回は五歳だ。
時間はたっぷりあるし、レイとの結婚の中で得た知識もある。
悪いことばかりではなかった。
二周目ではアーレ伯爵の妾にされずに済んだし、タルコット公爵家の使用人たちは何事にもプロフェッショナルで教えるのが上手く、クリスティーヌを一介の貴婦人に見えるよう躾けてくれた。
それに。
自分が戻ってきてしまったこの世界のどこかにロジェがいると思えば心強い。
(ひっそりとロジェ様の幸せを祈りながら暮らすの)
そうと決まれば、まずはバルト男爵家の財政の立て直しである。
父が怪しい事業を始めたのはクリスティーヌが八歳のときだ。
それまでは安い化粧品を売って細々稼いでいたのに、怪しい事業から得たお金でがらりと生活が変わった。
羽振りがよくなり、父の女遊びも激しくなっていった。
(前回は学園の入学前だったから、手遅れだったのよね)
何をするにもお金がかかる貴族社会において、領地のないバルト男爵家を維持するには、父の事業は弱かった。
義母の実家のコレッティ子爵家からの援助を頼っていたのに、父がメイドに手をつけ、クリスティーヌが生まれたものだからさあ大変。徐々に援助を渋られるようになっていたのだ。
(当たり前よね……コレッティ子爵からすれば、大切な娘をないがしろにされたんだもの……)
しばらく凌げていたのは父の祖父が健在で、爵位を買うぐらいお金持ちだった祖父から援助を受けていたからだ。
(貿易商だったお祖父様も節操がなくて、アチコチに遺産を分配したものだから、それをあてにしていたお父様は焦ったのよね。お父様には貿易のセンスが無くて、継いだのは弟だったし……プライドが邪魔をして弟には援助を頼めなかったのよね……)
義母が腹を立てると、クリスティーヌはよく部屋に閉じ込められた。
場所は様々であったけれど、図書室や執務室などが多かった。建物の二階部分にあったからだろう。
私室に閉じ込めたくとも、クリスティーヌの私室は一階の使用人部屋の一つで窓が低く、幼女でも容易に外に出ることが可能だったことから閉じ込める場所としては不適切だったのだ。
(執務室に閉じ込めるなんて……幼女が帳簿なんか見たってわかるわけないって思ったのね?)
三周目であり、中身は大人だったので帳簿くらいすらすら読める。
閉じ込められた執務室で帳簿を見れば、事業が上手くいってないことなど明らかだった。
(このあとお祖父様が亡くなって、経営がもっと悪化するのよね……)
父方の祖父の葬儀の後、荒れた父が義母に手をあげたのを見た。
いつも笑顔を浮かべていた父の顔が醜く歪んでいて、とても怖かったことを覚えている。
それからは喧嘩が絶えず、義母のクリスティーヌへの当たりもさらにきつくなっていったのだ。
記憶を取り戻したのは五歳だった。
またしてもループしていたことに落ち込むこと二日。
クリスティーヌは再び立ち上がった。
これまでのループから得た知識を活かし、王立学園への入学を回避し、さらにアーレ伯爵の妾になるのを回避しようと思い立ったからだ。
もちろん、レイとの偽装結婚も却下である。
(人に迷惑をかけず、自活して……そう、自活。とにかくお金を得て、どこか安全な場所で、ひっそり暮らす!!)
胸の中に広がるロジェとの別れの哀しさや切なさはあれど、クリスティーヌには若さと有り余るエネルギーが宿っていた。
何と言っても今回は五歳だ。
時間はたっぷりあるし、レイとの結婚の中で得た知識もある。
悪いことばかりではなかった。
二周目ではアーレ伯爵の妾にされずに済んだし、タルコット公爵家の使用人たちは何事にもプロフェッショナルで教えるのが上手く、クリスティーヌを一介の貴婦人に見えるよう躾けてくれた。
それに。
自分が戻ってきてしまったこの世界のどこかにロジェがいると思えば心強い。
(ひっそりとロジェ様の幸せを祈りながら暮らすの)
そうと決まれば、まずはバルト男爵家の財政の立て直しである。
父が怪しい事業を始めたのはクリスティーヌが八歳のときだ。
それまでは安い化粧品を売って細々稼いでいたのに、怪しい事業から得たお金でがらりと生活が変わった。
羽振りがよくなり、父の女遊びも激しくなっていった。
(前回は学園の入学前だったから、手遅れだったのよね)
何をするにもお金がかかる貴族社会において、領地のないバルト男爵家を維持するには、父の事業は弱かった。
義母の実家のコレッティ子爵家からの援助を頼っていたのに、父がメイドに手をつけ、クリスティーヌが生まれたものだからさあ大変。徐々に援助を渋られるようになっていたのだ。
(当たり前よね……コレッティ子爵からすれば、大切な娘をないがしろにされたんだもの……)
しばらく凌げていたのは父の祖父が健在で、爵位を買うぐらいお金持ちだった祖父から援助を受けていたからだ。
(貿易商だったお祖父様も節操がなくて、アチコチに遺産を分配したものだから、それをあてにしていたお父様は焦ったのよね。お父様には貿易のセンスが無くて、継いだのは弟だったし……プライドが邪魔をして弟には援助を頼めなかったのよね……)
義母が腹を立てると、クリスティーヌはよく部屋に閉じ込められた。
場所は様々であったけれど、図書室や執務室などが多かった。建物の二階部分にあったからだろう。
私室に閉じ込めたくとも、クリスティーヌの私室は一階の使用人部屋の一つで窓が低く、幼女でも容易に外に出ることが可能だったことから閉じ込める場所としては不適切だったのだ。
(執務室に閉じ込めるなんて……幼女が帳簿なんか見たってわかるわけないって思ったのね?)
三周目であり、中身は大人だったので帳簿くらいすらすら読める。
閉じ込められた執務室で帳簿を見れば、事業が上手くいってないことなど明らかだった。
(このあとお祖父様が亡くなって、経営がもっと悪化するのよね……)
父方の祖父の葬儀の後、荒れた父が義母に手をあげたのを見た。
いつも笑顔を浮かべていた父の顔が醜く歪んでいて、とても怖かったことを覚えている。
それからは喧嘩が絶えず、義母のクリスティーヌへの当たりもさらにきつくなっていったのだ。
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