上 下
7 / 57

2-2

しおりを挟む

 クリスティーヌの行動は功を奏し、学園を無事に卒業することができた。

 依然としてアーレ伯爵の妾問題は残っていたが、それなりに育ったクリスティーヌを見て、父も惜しいと思うようになったらしく、時折「伯爵家ぐらいなら嫁げるな」と呟いていた。

 しかしそのころ。
 なぜか社交界では、クリスティーヌは『ふしだらな悪女である』という噂が流れはじめていた。

 そのせいだろうか。夜会の熱気に当てられてしまい、庭園に出て涼んでいたところを知らない男性に見つかってしまい「噂通りだな。今夜は俺が相手をしてやろう」と言われ、庭園の奥へ引きずられてしまった。

 それを間一髪のところで助けてくれたのは、タルコット公爵家のレイであった。

 一周目でヴィヴィアン殿下に肩を抱かれるマイナを、斜め後ろから見ていた彼である。
 どこから見ていたのか、それとも初めからそこにいたのか。

 レイはクリスティーヌがドレスの裾を捲り上げられていたときに止めてくれた。
 心臓が痛いほど早鐘を打ち、涙はとめどなく溢れていた。

 それがきっかけとなり、ときおりレイに夜会でエスコートされるようになった。
 そうしているうちに二人は恋仲であるという噂が流れ、その噂をなぞるかのようにプロポーズされ、結婚することになった。

 爵位の釣り合わなさと婚約期間の短さについては、恋愛結婚ということでレイが周囲を納得させたようだった。

 しかし、レイには「あなたを愛することはない」と言われ、初夜を拒否された。
 彼がヴィヴィアン殿下と結婚したマイナを想っていることは明らかだったので「そうだろうな」としか思わなかった。

 レイがクリスティーヌと結婚してマイナへの気持ちを偽装したように、クリスティーヌもまた、運命のループから逃れるために偽装していたに過ぎない。

 父の事業の助けになるような、怪しい人物と結婚するぐらいなら、見目麗しいレイの偽装結婚に乗るほうがマシという打算だった。


(だからきっと、これは天罰)


 結婚して一年が経ったころ、王太子殿下と第二王子殿下が相次いで病死するという、国を揺るがす事態が起きた。

 父親が王弟であり、王位継承権を持つレイに、ヴィヴィアン殿下の妃だったマイナと結婚するよう王命が下った。

 一刻も早くレイを立太子させたいらしい。
 王太子不在は近隣諸国に足元をすくわれかねないからだろう。

 それを考えればクリスティーヌとの離婚など些末な問題だ。

「このような策しか残されておらず……本当に、申し訳ございません」

 レイと離婚しなければならないということをクリスティーヌに説明し、頭を下げたのはロジェだった。

 ロジェは次期宰相候補として活躍しており、クリスティーヌとも面識があるという理由から嫌な役割を押し付けられていた。

(今世でも、私の話を聞いてくれるのはロジェ様だけなのね)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】離縁の理由は愛されたいと思ったからです

さこの
恋愛
①私のプライバシー、プライベートに侵害する事は許さない ②白い結婚とする ③アグネスを虐めてはならない ④侯爵家の夫人として務めよ ⑤私の金の使い道に異論は唱えない ⑥王家主催のパーティー以外出席はしない  私に愛されたいと思うなよ? 結婚前の契約でした。  私は十六歳。相手は二十四歳の年の差婚でした。  結婚式に憧れていたのに…… ホットランキング入りありがとうございます 2022/03/27

【完結】貴方を愛するつもりはないは 私から

Mimi
恋愛
結婚初夜、旦那様は仰いました。 「君とは白い結婚だ!」 その後、 「お前を愛するつもりはない」と、 続けられるのかと私は思っていたのですが…。 16歳の幼妻と7歳年上23歳の旦那様のお話です。 メインは旦那様です。 1話1000字くらいで短めです。 『俺はずっと片想いを続けるだけ』を引き続き お読みいただけますようお願い致します。 (1ヶ月後のお話になります) 注意  貴族階級のお話ですが、言葉使いが…です。  許せない御方いらっしゃると思います。  申し訳ありません🙇💦💦  見逃していただけますと幸いです。 R15 保険です。 また、好物で書きました。 短いので軽く読めます。 どうぞよろしくお願い致します! *『俺はずっと片想いを続けるだけ』の タイトルでベリーズカフェ様にも公開しています (若干の加筆改訂あります)

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

処理中です...