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しおりを挟む控えの間にはロジェの侍従だけが付き従っていた。最後まで部屋に残ると粘っていたルーカスの頭をロジェが叩いたときは、思わず声を漏らしてしまった。
「ルーカスは甥なんだ。私は遅くにできたカヌレ家の三男で、ルーカスは長兄の息子だから」
驚いていたクリスティーヌに説明するロジェは淡々としていた。
「身に起こったこと、全て話せる?」
ロジェは銀髪にアイスブルーの瞳に銀縁眼鏡をかけており、それが彼の冷たい容貌をさらに強調している。
場を冷やすような視線と、重くのしかかるような声。
とても同じ年齢とは思えない落ち着いた物腰。
ロジェは決して笑顔を見せることはなかったが、むしろその表情のお陰でいくらか落ち着くことができた。
父も義母も義兄も、学園内の子息子女もみんな、品のいい笑顔を作りながらクリスティーヌを虐げたから。
話を聞こうとしてくれた人など、誰ひとりとしていなかった。
クリスティーヌは言葉に詰まりながら、少しずつ入学してからのことを伝えた。
最後まで遮ることなく聞き終えたロジェは「君が無実であることを証明しよう」と、心地よく響く低音で言ってくれた。
「私の話を信じてくださるのですか?」
「もちろん。話しているところを観察すれば、本当かどうかぐらいわかるよ」
相変わらずの無表情ではあったが、ロジェの言葉は蔑ろにされてきたクリスティーヌを救ってくれた。
(信じてもらえた……)
それだけでもう、十分だろう。
「騎士団に引き渡すというルーカスのことは押さえられるし、殿下たちの誤解を解くことはできる。ただあまりにも大々的に断罪されてしまったので、今すぐ学園の生徒全員に周知するのは難しい。ドミニカ・アーレ伯爵令嬢が主犯であるという証拠がないからね。今から集めるにしても、君にはそれまでの間、ご実家に戻ってもらうしか……」
言葉を詰まらせたロジェは、なぜか悔しそうであった。
クリスティーヌは信じてもらえただけで救われたというのに。
「ありがとうございます……その、お気持ちだけで十分です。私は、家に連れ戻されずに済むような修道院に入ろうと思います」
「罪のない君がそこまでする必要はない! 必ず戻って来れるように……とにかく、今は時間が欲しいだけなんだ」
「お気持ちは大変嬉しいのですが、どのみち学園を卒業したら、アーレ伯爵の妾にすると言われていまして……」
「アーレ伯爵!? 自分の娘と同級生のあなたを!?」
「はい。私は政略のために育てられた庶子ですから。父が商売をしていく上で、どうしても繋がりが必要なんだそうです。だから、ドミニカ様が私のことを疎ましく思うのは当然なんです……ですから、修道院に入りたいのです。義母には疎まれているので喜ばれると思いますが、父は激怒するでしょう。絶対に連れ戻されてしまいます。お願いします。どうか、二度と出られないような修道院を教えてください」
この時はクリスティーヌの懇願にロジェが折れた形で、戒律の厳しい修道院に入ることができた。
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