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 修道院は本当に厳しい場所だった。

 寒さと暑さをようやく凌いでいるぐらいの古びた建物で、畑仕事を頑張ってもギリギリの食料しか取れない痩せた土地。領地にできないぐらいの酷い土壌の地に建つ監獄のような場所だった。
 そんな、価値のない土地に建つ、連れ戻せないと言われるぐらいの修道院だからこそ、援助も乏しく、日々の生活はとても苦しかった。
 どんなに掃除をしたくても水が足りず、衛生面にも不安があった。
 薬はもちろん、食べるものもままならない中、修道女達は次々に病に倒れていった。

(ここで生きるのと、このまま死ぬのは、どちらのほうが苦しいのかしら)

 そんなことを考えながら三年が経ち、クリスティーヌもまた、病に侵され、二十歳を迎えることなくこの世を去った。



 * * *



「奥様、そろそろお昼のお時間ですよ」
「あら、もうそんな時間?」
「ずっと窓から外を見ていらっしゃいましたね」

 そう言って、幼いころからの侍女であるカリナが微笑む。
 クリスティーヌがマノロ殿下の愛妾として召し上げられてしまってからは、カリナと離れ離れになってしまっていたのだが、ロジェがカリナを雇ってくれたので、再び会うことができたのだ。

 ロジェには感謝してもしきれない。

「シェフからも、そろそろと声がかかっております」
「今日は何かしら?」

 この邸では毎日、贅沢すぎるほどの料理が出される。
 ロジェは名門カヌレ伯爵家の三男で、弱冠三十一歳にしてすでに宰相。
 地位もあればお金もある。
 この私邸も、現金で即払いで購入したらしい――というのは、先日カリナから聞いたばかりであるが。

「食べきれない量は勿体ないと奥様が仰ったので、サーモンとほうれん草のクリームパスタとスープ、それから少量のサラダにしたとのことですよ」
「素敵。私、パスタもサーモンもほうれん草も大好きなの」
「奥様は嫌いなもの無いじゃないですか」
「そうね。そうだったわ」

 クリスティーヌは微笑む。
 一周目の人生は、なんでもいいからお腹いっぱい食べたいと思いながら息絶えた。

(今世は恩人であるロジェ様の妻というだけで幸せなのに、こんなにも美味しいご飯がいただけるなんて!!)

 クリスティーヌは貴族婦人らしからぬ食い気を発揮して、シェフのデニスを喜ばせた。

「奥様、旦那様からお花が届きました」

 食事を終え、口元をナプキンで拭っていたとき、家令のアルバンが百合の花束を持ってきてくれた。

「まぁ。なんて美しい百合でしょう。こんなに咲き誇っている立派な百合をいただけるなんて。カリナ、花瓶を用意してくれる?」
「はい、奥様。こちらに」

 準備のいいカリナはすでに水をはった花瓶を用意してくれていた。
 添えられていたカードには、一緒に食事をとれないことを謝罪する文章が几帳面な文字で書かれていた。

 ロジェはいつも花を贈ってくれる。
 まるで本物の妻になれたような心地になるからやめて欲しいのに。

(でもやっぱり嬉しいと思ってしまうんだもの。贅沢になってしまったわね)

 百合の花の香りを楽しみながら、クリスティーヌは自分の貪欲さに眉を下げてしまうのであった。

「アルバン、お返事を書くのでロジェ様に渡していただける?」
「もちろんでございます」

 初老ともいえる年齢だと聞くアルバンは、歳を感じない所作でお辞儀をした。

 カリナと共に部屋に戻り、窓際の小さな机に便箋を置き、悩みに悩んだ末に重たくならないような文書をしたためて封をした。

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