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3-3.

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 宇汾さんが謁見の間を出ていくと、智彗様と瑞凪様が「はあー」と深すぎる溜め息をつき、一気に姿勢を崩す。


「え?···どうしたの??」


 私が王座の方に近付くと、智彗様が「あはは」と困ったように眉を下げた。


「実は···うちには、専属医がいないのです···ははは。」

「え、エエエエーっッ?!!」


 い、いない···?!この国の医療形態はわからないけど、宇汾さんはいると思ってここに来たんだよね?!


「いや、だって瑞凪様、「専属医には自分から話す」って言ってたじゃん!!」


 瑞凪様が眼鏡を取り袖でレンズを拭うと、再びかけて言った。


「···実は、専属医は二月ほど前に老衰で亡くなってな···。それから専属医を雇っていないんだ。」

「なっ!じゃあなんであんなこと言って、」

「皇族が新たな専属医を雇えないと知られるのは···さすがに民たちに不安を与えてしまうやもしれん···。」


 ····いないって、なんだそれ。。

 2人は皇族にも関わらず"寛大な心の持ち主"だと、私の熱くなった想いを今すぐ返してほしい!!


「それならどうするの?!今、宇汾さんは2人を信じて待ってるのに!」

「う、う~ん···。隣国の診療所に頼みにいくにも日数も費用もかかりますし、」

「···それか隣国に文を出すか。」


 なんとなくだけど、また不利な交渉持ちかけられるのがオチな気もする。。それより宇汾さんには何て説明するのか···。


 私はいてもたってもいられず、王座に立つ智彗様の手を引いた。


「智彗様!とにかく今は私たちにできることをやるよ!!」

「えっ···ええ?!」


 私は焦る従者を尻目に、智彗様をそのまま書庫まで引いていった。


 本が床に積まれた書庫を見る度、整理したい気持ちが沸き上がるが、今はそれどころじゃない。


「智彗様!!医学書はどこ?!」

「え?!」

「ほら早く、病の原因探るよ!!」

「あっ、は、はいっ!」


 小さな身体を捩らせ、床の本を避けていく智彗様。後から入ってきた瑞凪様が、「···皇帝が命ぜられてる」と呟いたが、私はお構いなしに瑞凪様も一緒に探すよう促した。


「あった、ありました!これですこれ!!」


 なかなかしっかりと分厚いハードカバーのものだったが、黒い表紙に白文字のタイトルで、思っていたよりも地味な本だ。

 私は、床に本を置き座り込んだ智彗様を上から覗きこんだ。


「···医学書っていうくらいだから"派遣術の書"みたいにもっと派手な表紙だと思ってたな。」 


 勾玉の差し絵がついていた"派遣術の書"は、金縁がついた真っ赤な表紙だったはず。


「"派遣術の書"のような術書は、実は禁書に指定されているものでして、皇族しか使用することができないものなんです。」

「へえ~。」

「だからあえて派手な表紙になっているだけで、他の書は至って地味なものばかりですよ?」


 地味だらけな中から、よくその医学書を探し出せたな。

 そう思っていたら、医学書というのは一冊だけではないようで、瑞凪様も何冊か抱えて持って来た。


 私が2人を急かすようにして、宇汾さんの言っていた病を調べさせる。2人とも真面目に医学書を読んでいるが、なかなか見つからないらしい。


「···紫のアザができると言っていたが、主に怪我や栄養失調の類ばかりだな···。」

「そうですね···。喉の痛みとアザができるという症状が一緒に現れるという病は、見当たりませんね···。」

「そんな···。」


 何もしていない私が一番落胆していると、智彗様が「そうだ」と気付いたように声を上げた。



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