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3-2.
しおりを挟む智彗様が自ら農村から来た男に会うと言い出し、私も一緒に会いに行くことにした。
古びた謁見の間で、皇帝陛下が座るべき椅子に、智彗様がちょこんと座る。瑞凪様がその隣に立ち、私は邪魔にならないよう、王座から離れ、部屋のわきに寄った。
農村から来たという男は、頭に巻いていた手拭いを取り、背中に背負っていた大量の山菜の束を、ほつれた絨毯に下ろした。
無精髭を生やし、服もツギハギだらけだ。
「はるばる農村よりご苦労様です。して、宮廷専属医に会いたいとは一体どのような事情なのでしょうか。」
膝をついていた農村の男が顔を上げると、男は数秒、静止してから言った。
「····あ、あの、あなたはどなただ?皇帝陛下の息子さんだべか?凌智彗様はどちらにおいでで??」
あ、そうじゃん!今智彗様、子供になってるんじゃん!!そんな姿で皇帝の椅子に座ってたら不振がられるのも無理はないよ!
すると智彗様が"しまった"とバツの悪そうな顔で瑞凪様と私を交互に見る。
···私に助けを求められても困るよ。
ハラハラしながら私も瑞凪様を見ると、瑞凪様が肩で溜め息をつくのがわかった。
「···今、皇帝陛下は隣国に視察に行っている。····嫁探しのために。」
智彗様が顔を真っ赤にして、隣に立つ瑞凪様をバンバンと叩いた。
「···この子供は···、私の、腹違いの弟だ。」
「え??瑞凪様に、弟さん、ですだ···?」
瑞凪様が智彗様の脇に手を入れ、椅子から下ろすと、代わりに椅子には瑞凪様が座った。智彗様は少しむくれた顔をし隣に立つ。
「···皇帝陛下の代わりに、私が話を聞こう。」
瑞凪様が眼鏡の中心をクイと上げると、農村の男が「はあ」と腑に落ちない声を出しつつも話を続ける。
「オラの名前は宇汾《ウーフェン》と申しますだ。実は、うちの村では見たこともない流行り病が流行ってまして、」
「···流行り病?」
「へえ。頬や首筋に紫のアザができて、喉の痛みを訴える人が増えてるんでさあ。」
「····王都の診療所には行ったのか?」
「もちろんですだ。でも農村部や王都のお医者は見たこともない病だとお手上げ状態でして、」
「ほう···。それでうちの専属医に会いにきたというわけか···。」
瑞凪様が、隣にちょこんと立つ智彗様に目配せをし、お互いに頷く。
「···わかった。専属医には私から話す。宇汾、もう少し詳しくその病について教えてほしい。」
「へ、へえ。」
それから従者が、宇汾さんが話す様子を紙に書いていき、病について話し終わると、宇汾さんは客人の間で待ってもらうこととなった。
しかし宇汾さんが謁見の間を出る時、気まずそうに「あ、あの···」と振り返って言った。
「瑞凪様にこんなこと言うのは失礼だとわかってるんですが、オラだちにはお渡しできる金がねえんです。。」
「····気にするな。それにこちらもまだ解決できるかわからない···。」
変わらず無表情ではあるものの、瑞凪様が少し柔らかい口調で言った。智彗様も隣でニコニコしている。
皇族なのに、困っている人を無償で助けてあげようとするなんて、2人とも寛大な心の持ち主だなと少し胸が熱くなった。
「代わりといってはなんですが、これ、うちの村で沢山採れる山菜ですだ。煮て食べるととっても美味しいんです。」
宇汾さんは背中に背負っていた大量の山菜を近くにいた従者に渡した。それは日本の土筆のような形をしている、緑色の山菜だった。
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