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第四部 第四章 開戦まで
92話 大神官の布告①
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読む人によってはちょっとグロく感じる……かも?
(つまりそういう段階の展開になってきたというアレです)
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シグルズが周囲を見回すと、目に入ってきたのは白い人影。
廊下からゆっくりと、カツカツと靴の音を立てて部屋に入ってくる。
全身が真っ白だった。と言っても白装束というわけではない。
肌が白く、腰まで届く髪も白い。
白を基調としたロングチュニックを纏い、大きな青い瞳をシグルズに向けている。
「誰、だ……?」
シグルズの声に、部屋にいた人間の視線が白い人影に集中した。
わずか数刻前に命が途絶えたヘルマンの視線だけは動かなかった。
「お初にお目にかかります。エインヘリヤル大神官ヘルゲの使い、ワルキューレのヴァルトラウテと申します」
表情は変わらないが、声に不快な甘さが漂う。
シグルズとネフィリムは同時に叫んだ。
「変異体だ!!」
トールがミョルニルを撃った。
ヴァルトラウテは天井に向かって飛び、猫のように体をしならせてヘルマンの遺体の前に着地した。
遺体の見分をしていたタンホイザーが、片膝をついたままサーベルを振るう。
ヴァルトラウテの左肩が吹き飛んだ。
しかし彼女は全く動じることなく、すでに死んでいるヘルマンの遺体に口づけた。
死んだばかりでまだ体温すら去っていない唇を開き、噛みつくように自分の口を重ねる。
愛情表現のそれとは違い、異常なほどに口の中で舌を動かしているのが外からでも分かった。
あまりにも場違いな女の動きに長い時間が過ぎたようにも感じたが、それはわずか一瞬の出来事。
「遺体から離れろ!」
タンホイザーが激して再びサーベルを振るう。
肉を断つ音がして、ヴァルトラウテの首筋には斜めに差し込まれたサーベルの剣身が光った。
「バルト長官、ヘルゲ大神官からの言伝です」
女は左肩から血と肉を落としながら、また、首を半分切られながら言葉を告げた。
「ニーベルンゲンの戦乙女を引き渡せば、何もしない。エインヘリヤルはバナヘイムに憎しみを抱いているわけではない。ただし戦乙女を引き渡さない場合、バナヘイムという国家は消滅する」
それだけを言うと、ヴァルトラウテはその場に崩れ落ちた。
突然の来訪者に騒然とするバナヘイムトップの部屋。
バルトは「まいったな」と呟いた。
「隣国から全面戦争の布告だ」
ふざけているつもりだろうが、その手が震えていることは隠せなかった。
使者の死、ヘルマンの裏切り、そして―――大神官ヘルゲからの宣戦布告。
今日はバナヘイムにとって歴史的な1日となるだろう。
ぶよ。
部屋の片隅で異質な動きを感じた。
シグルズは「何だ?」と違和感を探る。
ぶよ、ぶよ、ごぼ。
ヘルマンの遺体だった。
膨らんでいる。
「!」
そうか、先ほどの口づけ。
変異を起こさせたのか!
「長官! 元帥! すぐにヘルマンから離れろ!」
シグルズが叫んだと同時に、遺体の腹部から黒い噴水が吹き出した。
水はどんどんと固まっていく。
腸管のようにうねうねと絡まり合い、長い管の先に肉厚な花弁を持つ黒い花が咲いた。
タンホイザーが横にいたバルトの体を持ち上げ、思いきり投げ飛ばした。
バルトが顔面から墜落する。
「ぐっ……!お、おいタンホ」
花弁はぐちゃぐちゃと音をさせながら急降下し、
タンホイザーの頭部を喰った。
(つまりそういう段階の展開になってきたというアレです)
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シグルズが周囲を見回すと、目に入ってきたのは白い人影。
廊下からゆっくりと、カツカツと靴の音を立てて部屋に入ってくる。
全身が真っ白だった。と言っても白装束というわけではない。
肌が白く、腰まで届く髪も白い。
白を基調としたロングチュニックを纏い、大きな青い瞳をシグルズに向けている。
「誰、だ……?」
シグルズの声に、部屋にいた人間の視線が白い人影に集中した。
わずか数刻前に命が途絶えたヘルマンの視線だけは動かなかった。
「お初にお目にかかります。エインヘリヤル大神官ヘルゲの使い、ワルキューレのヴァルトラウテと申します」
表情は変わらないが、声に不快な甘さが漂う。
シグルズとネフィリムは同時に叫んだ。
「変異体だ!!」
トールがミョルニルを撃った。
ヴァルトラウテは天井に向かって飛び、猫のように体をしならせてヘルマンの遺体の前に着地した。
遺体の見分をしていたタンホイザーが、片膝をついたままサーベルを振るう。
ヴァルトラウテの左肩が吹き飛んだ。
しかし彼女は全く動じることなく、すでに死んでいるヘルマンの遺体に口づけた。
死んだばかりでまだ体温すら去っていない唇を開き、噛みつくように自分の口を重ねる。
愛情表現のそれとは違い、異常なほどに口の中で舌を動かしているのが外からでも分かった。
あまりにも場違いな女の動きに長い時間が過ぎたようにも感じたが、それはわずか一瞬の出来事。
「遺体から離れろ!」
タンホイザーが激して再びサーベルを振るう。
肉を断つ音がして、ヴァルトラウテの首筋には斜めに差し込まれたサーベルの剣身が光った。
「バルト長官、ヘルゲ大神官からの言伝です」
女は左肩から血と肉を落としながら、また、首を半分切られながら言葉を告げた。
「ニーベルンゲンの戦乙女を引き渡せば、何もしない。エインヘリヤルはバナヘイムに憎しみを抱いているわけではない。ただし戦乙女を引き渡さない場合、バナヘイムという国家は消滅する」
それだけを言うと、ヴァルトラウテはその場に崩れ落ちた。
突然の来訪者に騒然とするバナヘイムトップの部屋。
バルトは「まいったな」と呟いた。
「隣国から全面戦争の布告だ」
ふざけているつもりだろうが、その手が震えていることは隠せなかった。
使者の死、ヘルマンの裏切り、そして―――大神官ヘルゲからの宣戦布告。
今日はバナヘイムにとって歴史的な1日となるだろう。
ぶよ。
部屋の片隅で異質な動きを感じた。
シグルズは「何だ?」と違和感を探る。
ぶよ、ぶよ、ごぼ。
ヘルマンの遺体だった。
膨らんでいる。
「!」
そうか、先ほどの口づけ。
変異を起こさせたのか!
「長官! 元帥! すぐにヘルマンから離れろ!」
シグルズが叫んだと同時に、遺体の腹部から黒い噴水が吹き出した。
水はどんどんと固まっていく。
腸管のようにうねうねと絡まり合い、長い管の先に肉厚な花弁を持つ黒い花が咲いた。
タンホイザーが横にいたバルトの体を持ち上げ、思いきり投げ飛ばした。
バルトが顔面から墜落する。
「ぐっ……!お、おいタンホ」
花弁はぐちゃぐちゃと音をさせながら急降下し、
タンホイザーの頭部を喰った。
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