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第三部 第四章 兵器と決着をつけるまで

69話 ラインの乙女と戦乙女①

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 拳銃が引かれ、反対側のこめかみから血しぶきが飛んだ。
 男はしばらくして後ろに倒れた。



「ト、リスタン……」




 顔を覆う暇もなかった、行き場を失った彼女の手が宙をさまよう。ふらつきながら、トリスタンのほうへと歩き出す。


「うそ……でしょう。 そ、んな…………」


 信じられないといった表情で首を振るイゾルデ。
 一方、彼女とは真逆の方向からトリスタンに接近してくるのは例の“傘”だった。

 まるで吸い寄せられるかのようにトリスタンの遺体に近づいてくる。

「やめて! 彼に触らないで」
「イゾルデ! だめだ、これ以上近づけばあなたまで———」

 傘に近づくイゾルデに手を伸ばそうとするネフィリム。だが、ネフィリムの肩を掴んだシグルズは首を振ってそれを止める。

「シグルズ!! 離せ」

 ネフィリムが叫ぶが、シグルズの力は強く振りほどくことはできない。

「シグルズ! あのままじゃイゾルデが」
「ネフィル。空を見ろ」

 シグルズの一言。彼は冷静だった。険しい表情のまま、ネフィリムは空を見上げる。



 北東の方角。

 影になっているが輪郭は確かに見える。


 ネフィリムとミモザが兵器製造拠点で見た黒い箱。が開け放たれたのだと分かった。


 ラインの兵器ライン・デバイスが12体。

 ラインの乙女ライン・ユニットが、こちらに向かって飛行している。


「そんな」

 ネフィリムはその黒い瞳を逸らすことができなかった。
 たった1体が放った攻撃で、居住区の大半が壊滅状態になったというのに。

 もう暴動など続けられる状態ではない。
 それどころかグルヴェイグの国家機能さえ危うい。

「……それでもまだ、殺すというのか?」



「ネフィリム」

 シグルズがもう一度、自分の名を呼ぶ。

「ネフィリム。今から大切なことを言う」
「なんだ! こんなときに!?」

 ネフィリムは苛立たしげに返事をする。
 恐ろしい兵器が複数迫っているときに、呑気に会話をしている場合ではない。

 だがシグルズは、ネフィリムのもう片方の肩をも掴んで力づくで向かい合わせた。
 灰色の目には、いつにも増して強い光が宿っている。

「君には、戦乙女ヴァルキリーの力がある」


 何だって?

「……突然何を言うんだ」
「詳しい仕組みは分からないが、あのラインの兵器ライン・デバイスは変異体だ。おそらくだが、変異させた人間を動力にしているのだと思う」
「あれが……変異体!?」
「そうだ。だから普通の武器では倒せない。けれど、戦乙女ヴァルキリーの力があればおそらくは傷をつけることができる」
「待ってくれ。あれが変異体だとか戦乙女の力が有効とか……なぜシグルズにそんなことが分かるんだ?」
「今は詳しくは話せない。だが……変異体には変異体の力でしか対抗できない」

 突然の話で戸惑う。

 戦乙女ヴァルキリーの力。
 祖母や母の持つ、神通力じんつうりき

 だが。

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