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第一部 第五章 決着をつけるまで

35話 できそこないとみがわり①

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戦乙女ヴァルキリーの騎士気取りか、ヴェルスング。無駄なことだ、俺が戦乙女ヴァルキリーを得てニーベルンゲンの新たな統治者となる」
「大層な世迷い事だな……!」

 ネフィリムが不快感を露わにした表情で吐き捨てる。

「貴様のような愚者をニーベルンゲンの民は歓迎しない」
「ニーベルンゲンは国を追い出された弱者の集まり。その地でしか生きていけない民は、統治者が変わろうがそこで生きていくしかあるまい。戦乙女ヴァルキリーを自分のものにすれば、ニーベルンゲンも俺のものだ」
「そんなうまい話があるか。貴様こそカドモスに使い捨てにされるぞ」

 シグルズが怒りを抑えて呟く。

「どうかな。戦乙女ヴァルキリーがいればカドモスも俺のことを無視はできまいよ。……あと少しで薬漬けにしてやれたのになあ、ネフィリム! 大国に囲まれた小国の独立なんて幻想だ。しょせんお飾りの戦乙女ヴァルキリーなれば俺が有効に使ってやる」

 我慢の限界だった。
 シグルズは剣をその額に向かって打ち込んだが、相手も辺境伯である。剣で受け止めた。

「あまり俺の主を悪く言わないでもらおうか。大国に利用されていることにすら気付かない愚か者め」
「気付いているさ。カドモスは俺を利用しているつもりだろうが、カドモスあいつらの弱点は信仰の強さを知らぬことだ。戦乙女ヴァルキリーをあいつらに渡すつもりはもともとなかったんだよ! それを……儀式の遂行を邪魔したのはお前だ、シグルズ!」

 ファフニルが体を捻り、横から剣で切り付けてきた。だが、切り込みが浅い。
 シグルズはそれを剣先近くで受けると、そのまま剣身をぐぐぐと持ち上げファフニルの剣を勢いよく天井へと弾き飛ばした。

 垂直すいちょくに剣を下ろすとファフニルの肩の肉をえぐり取った感触が手に伝わる。
 だが、それ以上の追撃はできなかった。

 もう一人のカドモス兵がボウガンを放ってきたからだ。
 間一髪で避けたつもりだったが、それはわずかにシグルズの腕をかすった。

「シグルズ!」

 ネフィリムがシグルズに駆け寄る。

「来るな! 離れていろ」

 ファフニルは、ネフィリムが自分のものにならないのなら殺すつもりだ。できるだけ距離を取っておいたほうが安全だった。

 武器をなくしたファフニルを仕留めるなら今がチャンスだ。

「……!?」

 もう少しでファフニルを間合いに収めることができるというそのときに、シグルズの全身を違和感が襲う。

 視界が歪む。
 全身が重くなった。
 そして、腕に走る激痛。

 それは先ほど矢がかすめた場所。

「毒矢か……!」

 ボウガンの矢に毒を仕込まれていた。
 しかもこの即効性。
 おそらくカドモスから入手したとっておきの毒薬なのだろう。

 わずかにかすった皮膚から摂取した毒量でこれほどまでの効果を示すとは。
 もしもネフィリムが直接矢を受けていたらどうなったか。考えるだけで恐ろしかった。

 シグルズがうまく動けないのを見越して、ファフニルは急いで弾かれた剣を取りにいく。

 だが、それよりも先にネフィリムが走り出した。

「ネフィル! よせ」

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