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外伝、冷血な魔教の君は令和の倫理とハピエン主義に目覚められたようで

9、美、強、惨、三拍子。俺たちの戦いはこれからだ!

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 そして、子供は生まれた。
 ……生まれてしまった。

「下界の感覚でいるとサンとは付き合えないな。俺はもう慣れた……」

 生まれた赤子を呆然と見つめながら、音彧オンイクはそう思うのだった。

「さあ、イク。この子に名前を」
 つやつやした顔で明散メイサンが促してくる。
「この子こそ血を分けた私たちのこと……愛の結晶だぞ」
 
「恥ずかしい。聞いてるだけで心がつらい」
イクは恥ずかしがり屋だな」
「もうイヤだ……」

 音彧オンイクは両手で顔を覆い、束の間現実逃避をした。そして、そろそろと顔を上げた。

「名前は? イク? 名前は?」
「……」

「名前は? イク? 名前は?」
「……、」

「名前は? イク? 名前は?」
「や、やめろぉ……その繰り返すのやめろぉ……!! 俺それ本当にイヤダッ!」

 ゾワゾワと繰り返しの恐怖が脳を支配する。
 神仙は色々おかしい――これ本当に無限ループするやつだ……音彧オンイクはガクガク震えながら赤子に名前をつけたのだった。

ソウ……」
「美しく気高い名だな。強い意思を持ち上品であれという名だな」
「そう」
「洒落か」
「洒落ではない」

 ソウは、数ヶ月神仙の巣で育てられた。そして、尚山魔教の後継として地上のチー家に連れて行かれるのであった。

 前触れもなく赤子を抱いて現れた音彧オンイクに、今世での知り合いが驚いている。
「お、お前はずっと行方不明だった音彧オンイクではないか……その子はどうした」

「いやぁ……久しぶりぃ……、これ、俺の子らしい」

「子供ができたと!? は、母親は誰だ?」
「こ、こいつかな……?」

 視線をすすっと向けた先には、いかにも神仙といったオーラを放つ明散メイサンがいる。
「それでは私はこれで……イク、また後で」
 明散メイサンはウンウンと頷いた後さっさと天に帰っていった。地上に長居する趣味はないらしい。

「お前の『後で』は何年後なんだ、明散メイサン……」
 時間感覚がズレている神仙へとつっこみをいれつつ、音彧オンイクは魔人たちに視線を戻した。

「これから俺と子供は尚山で過ごすが、いいな」
 
 魔人たちは目を見開いて固まっていて、誰も否と唱えることはできなかった。

 父である音洋オンヤンは神仙効果もあり事情を受け入れて、音彧オンイクチー家の後継として育てられたのだった。

「操は情緒面でどうも冷めてるというか、妙にひんやりした子だな。これはサンに似てしまったのか……」

 音彧オンイクが我が子の情緒に不安を覚えた頃、明散メイサンがふらりと現れる。

「やあ、先日ぶり」
「何年も経ってるぞ」
 
 明散メイサンはつっこみを綺麗にスルーして道鏡を見せ、妙なことを言い出した。
 
「我が子、音彧オンイクは美(メイ)、強(チャン)、惨(ツァン)三拍子揃い、魔教と共に美しく散るだろう」
 
 予言めいた言葉と共に、道鏡に未来の尚山が映り出す。

「なんだこれは」
 音彧オンイクはわなわなと震えた。

「オメガバースだか知らぬが、たわけた術でうちの子のお気に入りを番いにして悲しませた挙句、心中エンドだと。パ、パパはこんな未来、許さないぞ!」

明散メイサンめ、こんな未来をよく平然と見ていられるな!)
 やっぱり明散メイサンは人の心がないんだ。親の気持ちも理解できてないっ、冷血漢の神仙め――

 沸騰しそうな激情を胸に音彧オンイクが番の神仙を見れば、神仙は穏やかな表情ながらも軽く眉を顰めた。

イク……お前は私をどれだけ冷血漢だと思っているのか。私とて、血を分けた子やずっと見守ってきた魔教がこのような目に遭う未来は快く思わないぞ」

 返された言葉は意外なほど人間らしい――親らしい感情が根底に感じられて、音彧オンイクはまじまじと明散メイサンの顔を見つめた。
 
「お前は神仙だろう? 世の中はなるようになる、とか自然の流れとか、そんな風に言うんじゃないのか」

 そっと問いかけた頬に、冷たい指先が寄せられる。

 この冷たさにも慣れたものだが――

「私は神仙の中でも変わり者なんだ。昇仙直前に誰かさんがあんなことをしたし、異世界の人生も見せてくれたしな……」
 明散メイサンが囁く吐息は熱くて甘やかで、音彧オンイクの心がふんわりと溶かされてしまうのだった。
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