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1章、悪役は覆水を盆に返したい。
20、送り狼は襲われる役(軽☆)
しおりを挟む――甘ったるい香りが充ちている。
淡く光る細い鎖が音繰の白い肌を捕らえ、自立した意思を持つ生き物みたいに蠢いている。
肌を伝う感触に、自分の内部が波を立てる。
「……っ!」
音繰の腰がなまめかしく揺らめいて、吐息が乱れる。
(く、こんな鎖で反応してしまうとは――最近、慎んでいたから……! 慰めてないから……!)
胸のうちで言い訳しながら、音繰は甘ったるい声が零れそうな唇を噛み、声を押し殺した。
霧のおかげで、幸か不幸か音繰がどういう状態なのか雪霧にも憂炎にも見えていないはず。
欲を抑え、雪霧に光の鎖をひっこめてもらえばいい。
音繰はそんな方針を定めて、口をひらきかけた。
「雪霧、悪いけど、君の鎖が私を敵だと思ったようで……っ、んっ」
全身に絡みつく光の鎖が音繰の両脚を広げ、腿の内側をやわらかに擦る。
脚の付け根を目指すように蠢く感触に、音繰は慄いた。
(なんだ……っ、この鎖!? 妙な動きを――)
――りん、りん、りん。
湊が狼狽えるように鈴音を鳴らしている。
【このシーン、その、……濡れ場です。術が暴走して雪霧がちょっとえっちな感じで襲われて、憂炎に助けて貰うんですよ――発情もきて、そのあと憂炎とその場であの、あれです。流されて、そのまま……ふう……って感じのを展開するんです……】
(湊、なかなか記憶力がいいな。一度読んだだけだというのに)
妙な感心を抱きつつ、音繰は身を捩り、光の鎖から自力脱出を試みた。
「術が暴走したのでしょうか――すみませんっ、消せないみたいです」
雪霧が悲鳴をあげている。
「け、消せないなら仕方ない……っ、きに、するな――、幸い、私は死霊に関する術が得手だ」
甘やかな情欲の炎が身の内側で暴れ出している。
それに耐えながら、音繰は近くに漂う死霊の気配に念を送った。
(そこな死霊、私を助けよ。私の声に応えよ……)
必死で送った念は、しかし、拒絶された。
【憎い……憎い!!】
【お前の命令など、聞くものか!】
死霊は呼びかけに凄まじい憎悪の情を溢れさせ、おぞましい叫び声をあげて術を弾いたのだった。
(そ、そんな。いくら封印されて力が弱っているといえ、こんなに拒絶されるとは……っ?)
音繰が激しい拒絶に驚いていると、鎖の先が際どい部分を暴こうとしている。
(ああ、最近遊んでなかったから……本当にいけない)
齎される刺激を思い、危機感と同じくらいの興奮がとろりと混ざって、思考がくらくらと揺らめいた。
近くにあのいかにも純朴な雪霧がいると思うと、その熱にますます拍車をかかる。
――しゅるり。
ゆるく反応を示しているそれに、巻きつかれる。
「――!!」
快楽の波が一気に訪れる。
扱かれ煽られる熱に、抗う間もなく堕ちそうになる。
切実さが羞恥心を上回っていく――音繰は全身に力が入らずされるがまま蕩然となって、獣欲に身を委ねてしまっていた。
「ぁ……っ」
声を出してはいけない、乱れてはいけない、善がってはいけない――、
気付かれてしまう。
あの雪霧に。そして――憂炎に。
「ハァッ……」
身を捩り、逃れようとして――けれど、四肢は鎖にしっかり絡め取られていて、思い通りに動かせない。
――ふわ、り。
鎖が凹凸のある感触を音繰の敏感な部分に伝える。
――くち、くち。
先走りの蜜を塗り込むように肉棒を上下に扱く音がする。いやらしい音は、自身が先端から溢れさせた蜜の奏でる水音だ。
(あ、あ、……だ、めだ……――)
――そんな濡れた音を、立てないでくれ。
なのに、官能の蜜は許してくれない。
脊髄から脳へ駆け上がる甘い痺れが、止まらない。
甘く溶かされるような熱が、たまらない。
意思に反して体がわななく。
もっと昂れ、もっと溺れよとばかりに責められ、追い詰められる。
……快感の波に、抗えない。
「ふぁ、あ、あ……っ」
その感触に呼び起こされる甘い痺れが、快楽の波濤が誤魔化しようもなく気持ちよくて、あられもない高い声がこぼれてしまう。
(あ、あっ、こんな声。だめだ。バレてしまう)
なのに、啼くのを止められない。
「ぁ……、ぁ、あーっ!」
溺れてしまう、鎖の玩具などに屈してしまう――元弟子と、その運命の相手が近くにいるのに!
音繰は初心な雄ではない。
遊び慣れた享楽人だ。過去には、他者に痴態を見せるという楽しみ方をしたこともある。
だが、自分から「見せつけてやる」と故意に乱れるのと、意図せず事故で乱されるのとでは、やっぱり話は違ってくるのだった。
「ふ、あ、あっ……」
慄き、首を振る音繰の視界が熱く滲む。
「ああっ、あ、あ――!」
体がゾクゾクとする。
衣の内側を暴かれ好き放題刺激されて、気持ち良くて堪らないのだ――快楽に弱いのだ、この躰は。
(こんなの、こんなの、仕方ないのではないか)
言い訳するように自らに言い聞かす間も、腰がびくびくとして、善がってしまう。
――しゃらり。
強まる射精感を煽るように、光の鎖が胸元を弄る。
ふっつり、ぷくりと物欲し気に立つ乳首のまわりをくるくるとまわる。
反り返った背筋をすすっとなぞる。
びくびく揺れる腰で反り返った肉棒が根元から先端へとリズミカルに扱き上げられ、濡れた音をじゅくじゅくと奏でて――達してしまいそうになる。
「ああ、出、あ、や……っ、やぁぁっ……」
善がる音繰の狼耳がびくびくと小動物のそれみたいに痙攣して――聞き慣れた男の声を拾った。
「音繰」
「……っ」
その瞬間、音繰はぐっと吐精をこらえた。
いつの間にか霧で朧な視界に、憂炎がいる。狼耳をぺたりと倒し、顔を伏せがちにしてこちらをあまり見ないようにして。
表情はよく視えないが憂炎は何かを堪えるようだった。
「楽しんでるようだが、それは……助けた方がいいのか? 終わるまで待つべきか?」
音繰は唇を噛んで首を振った。
「く、……来るな。君、言おうと思ってたけどその態度、生意気だよ。助けはいらない……あ、あっ、ふぁ!」
言いかけた声が快楽に乱れて、羞恥と屈辱で胸がいっぱいになる。
「……気持ちよさそうですね、小香主様」
鎖に巻かれ、浮いた状態で悶える音繰を下から覗き込むようにして、憂炎が慇懃無礼な敬語を操り、呆れたような吐息の音を零している。
「あ、あ、視るな――み、視るなぁ……っ!! は、ンあっ……!」
ぎゅっと目を瞑り、音繰は駄々っ子のように声をあげ――途中からは、高く上擦るような悲鳴になってしまった。
「だ、大丈夫ですかーっ!?」
――雪霧の声がする。
「っと、『白いの』も気づいたようなので」
言い訳するように言いながら、憂炎はさっさと鎖を断って助けてくれるようだった。
「こんな乱れた姿、奴には見せたくないしな」
いつもより低い声音が、音繰の鼓膜を震わせる。
「はうっ……」
あっという間に刺激から解放された音繰の躰が、憂炎にふわりと受け止められる。視線を逸らすようにして、『受け止めたもののこの後どう世話したものか』と状況を持て余すような気配で言葉がかけられる。
「自力で欲を静めてくれるか……おひとりでできますか、小香主様」
「はぁ、はぁ、は……っ、く、くぅ……あっ、そ、そこ!」
敏感な尻尾を掠めた憂炎の手を感じて、達する寸前まで追い詰められていた音繰の背がびくびくっとしなる。
「アッ、ゆぅえんっ、尻尾――っ、~~ッ!!」
「!?」
腰が揺れ、ねだるように尻尾を手に自分から擦りつけるようにして更なる快感を得た音繰は、そのままびゅくびゅくと肉棒の先から白濁の液を放ってしまったのだった。
その瞬間の憂炎の顔は、初めてみる種類の形容しがたい顔で、驚いたようなショックを受けたような感じを強くのぼらせて、束の間『どうリアクションしたらいいかわからない』といった感じで自失するようだった。
その頬に朱がのぼる。
上気した顔は、どことなく初心だった。
「お、音繰が私の手で……っ」
どういった感情によるものか掴みきれない声が、そう呟いた。
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